苫米地 剛樹
Tsuyoki TOMABECHI

自身の体験をもとに、現在復職支援に携わっている苫米地さん。過去を過去のままにせず、多くの人のために自身に向き合い、学びを続けています。「そもそも自分を何とかしたい」から始まった、今、苫米地さんが思うこととは。

〈Profile〉eMC2020年取得、東京都在住。就労移行支援事業所ニューロワークに、就労支援員として勤務。会社員時代にメンタル不調による休職を経験したことがeMC資格の取得と46歳から未経験の現職を志したきっかけ。

学びのきっかけ

「2016年頃、当時働いていた仕事をうつ病で1年間休職していました。半年くらい経った頃から復職支援の施設に通ったことがすべてのきっかけです。  そこのグループワークでCBTやアサーショントレーニングなどを手厚くやっていただいたんです。さらにそこの利用者さん達が明るく楽しくやっているんですよね。本当にこの人達はうつ病なのかな、と感じるほどに。そんな方々が次々に卒業していくのを間近で見て、これはすごい世界だと思いました。  それと同時に、どうしてメンタル不調で倒れてしまう前にメンタルヘルスのことを教えてもらえないんだろう、と感じましたね。
 自分が休職するときには、もう転職してしまおうかと考えたこともありました。結局元々いた職場に復帰したのですが、その後、会社での大規模な早期希望退職の話が出たんです。その瞬間に自分が経験したことを踏まえてメンタルヘルスに関わる仕事に就くことはできないか、という思いが出てきたこともあり、早期希望退職に手を挙げました。  退職してからは少し時間を作って休みつつ、メンタルヘルスの勉強をしてみようと思い立ちました。やっぱりそういう仕事に就くのであれば素人のままじゃいけないぞ、と」。
 一大決心をした苫米地さん。なぜEAPに興味を持ったのでしょうか。
「やはりあのときに感じた[メンタル不調で倒れてしまう前に支援はできないのか]ということが大きいです。その点で本人や周囲を含めて早期にアプローチしていくというEAPの仕組みに興味を持ちました。また、復職支援を受けているときにカウンセラーさんにもお世話になり、そこでカウンセリングっていうものの良さを体感しました。そうして心の世界やその力を実感して、メンタルヘルスそのものにも興味が湧きましたね。
 実際にEAPを学んでみて、ほんとうに面白い学びだと思いました。資格取得をするまでのロープレでは、自分がカウンセラー側になったときに、経験上ついアドバイスをしたくなってしまう癖が出てしまい、そこはすごく指摘されましたね(笑)。それでもクラスのみんなとお互いにカウンセリングし合うことで必然的に成長できた。みんなで集って練習して、最終的に合格して……。良い体験ができました。明らかに今の仕事をする上での前提知識として役に立っていますので、ほんとうに学んで良かったと感じています」。

「支援すること」の難しさ

 そんな苫米地さんは、現在、就労支援の仕事に就いています。
「アルバイトから正社員になって1年弱が経ちました。就労支援は未知の世界ではあったのですが、リカレントで学んでいる期間も自分で調べたりしていたし、自分が復職支援施設の利用者だった経験もあったので、まったく知らない世界ではなかったという印象です。
 ただ、まだまだわかっていないことが多いです。1年では足りないなと思いますね。それでも利用者さんが次の仕事が決まって笑顔で卒業されていく姿を見ることができると嬉しいです。以前は販売や営業職をやっていたんですが、モノが売れたということとは違う嬉しさを感じる瞬間があります。
 ただ、どんなに勉強をしてきても[共感]の難しさは常日頃感じています。同情とも違うし。『共感ってなんだろう』と常に考えながらやっているし、これからも考えていくんだろうなと思いますね」。


就労支援の現場ではこんなレクチャーも

劣等感をバネに

 初めての就労支援という仕事、そして福祉業界では、自身が経験してきたことこそあれど、それまでずっと福祉の世界でやってきた方々に対して[自分はスタートが遅かった]という劣等感を抱いてしまうこともあるそうです。
「やっぱりボキャブラリーの少なさなどで違いを感じたりして。40代でのスタートは遅いんだろうな……と劣等感を抱きます。
 でも、反対に自分には[就労]については、これまでの会社員経験から面接対策などの知識があるので、そこは他の方とは違うものを持っていると自負しています。  それでも、支援のテクニック的な部分だとかは、まだまだ未熟なので、日々勉強ですね。当たり前ですが、支援する相手は必ず人間であって、常に本番であるので、練習台にはなってはいけないという気持ちで取り組んでいます」。
 ストイックに学びを続け、強い信念をもって支援を続けているその背景には、どんな思いがあるのでしょうか。
「そもそも自分を何とかしたいんです。まず自分自身が常に健康でありたいという思いがあります。だって支援員が不健康って説得力ないですよね。『食事をしっかりとりましょう』なんて言っている支援員自身が、不摂生で日に日に太っていく。『しっかり眠ってね』と言っている支援員が目にクマがある、なんてあり得ないじゃないですか(笑)。だから自分がまず健康でありたいなと。  あとは、どんなことであっても仕事としては成果を残したいと思っています」。


自転車は男のロマン!

理想の自分に出会うために

「実は自転車が趣味で、時には100キロ~200キロほどの長距離を漕いだりしています。自転車には男のロマンが全部詰まっている気がするんですよね。例えば、タイヤを替えるなどのカスタマイズができるという趣味としての醍醐味や、レースに出ればゲーム感覚、長距離乗れば旅感覚にもなる。仲間を集めて一緒に走ることもできる。自転車ひとつですべてを満たしているんです!」。
 自転車の魅力をとびきりの笑顔で語る苫米地さん。自分の好きな趣味をやることで心身ともに健康であることに繋がっているといいます。「誰でも何かひとつ、コレというものを持っているとイイヨ」と話してくれました。
「自分が休職しているとき、妻は働いていたので申し訳なさがありました。ある日近くのパン屋さんで美味しいパンが出ると知って、妻と食べたいね、と話をしたんです。そこで、『ああそうか。このパン一つでも買ってあげられたら喜んでくれるかもしれない』と思えて、自転車を引っ張り出して外に出たことで元気になっていったので、すごく大事なことだったな、と思いました」。
 苫米地さんが目指す理想の自分。健康でいることの他にも素敵な夢が広がっていました。
「リカレントのキャリアカウンセラーさんと話をしたときに、就労支援から入っていくと社会人経験も活かせるし、その業界だと40代は若手だという話を聞いたんです。  それで60代・70代と年を重ねたときに『あの人に何でも聞きなさい。就労のことはあの人が何でも知っているよ』と言ってもらえるおじいさんを目指したいな、と思いました。  今は、まだ経験も知識も浅いですけど、夢はそんなおじいさんです!そのために、今はたくさんの本を読んでいます。自発的にやっている勉強はやっぱりやりがいもあって楽しいですよね。自分がうつ病になったときに書店などで見つけた本が家にたくさんあるのですが、それが支援者として仕事をする上での良い教材になってくれています。なかでも『自信がなくても幸せになれる/和田秀樹 著』 という本が一番しっくりきました」。
 きっかけはそれぞれかもしれないけれど、同じeMCの方や勉強中の方にも、[初心を忘れない]ことを大事にするといい、と伝えたいという苫米地さん。とても柔和な雰囲気で穏やかな印象ですが、過去の自分も今の自分も受け入れて歩み続けるその姿には、強い意思が感じられました。
「今も支援の場で『なんでこの仕事を始めたのですか?』と聞かれたら、自分の過去から現在までを包み隠さず話しています。それも含めて私のひとつのアイデンティティですから。そして、その過去があったからこそ今に繋がっていると感じています」。