瀧山 弘美
Hiromi TAKIYAMA

人から相談を受けるほどに自分の対応が不十分だったのではないか、と後悔を募らせてきました。50歳を前にして、「人の役に立ちたい」という、自分が本当にやりたいことをするために、瀧山さんはカウンセリングの世界に飛び込みました。

〈Profile〉eMC2022年取得、神奈川県在住。日中は企業の役員秘書、夜はオンライン講師。主人・社会人の娘2人・トイプードル(5ヶ月)の家族。今はゴルフに夢中。

自分の限界に直面

 2022年3月にeMCを取得した直後、4月からオンラインカウンセリングの現場に飛び込んだ瀧山さん。しかし、カウンセラーとしてのスタートは順調とはいえず、さまざまな苦労がありました。
「オンライン診療を中心とする新設のクリニックにカウンセラーとして採用してもらうことができて、2ヵ月半で延べ120人ほどのカウンセリングを担当しました。しかし、知識もないままにクリニックに入ってしまい、さまざまな症状を抱えるクライエントさんを目の前にして、もうどうしていいかわからなくなってしまい、自分が限界になってしまいました。
 リカレントでSV(スーパービジョン)を受けて、アドバイスをもらいながらなんとか続けていたんですけど、今度はクリニックが閉鎖されることになってしまって。新設のクリニックだったので競合も多かったらしく、『いったん閉じます』と言われて。でも、そのときにSVでいただいたアドバイスなども含めて冷静に考えることができて、ここはまだ自分が入る領域じゃなかったんだ、と客観的に受け止めることができました」。
 現在は企業で仕事をしながら、個人でオンライン講座を開設。傾聴スキルなどの「入門編」を伝えています。
「リカレントに入って最初に学んだ『傾聴とは』といった、もっとも基本的なことを教えています。教えることが自分の勉強にもなっていますし、カウンセラーとしても、講師としても、まだまだ自信はないんですけど、それでは受講生さんに失礼だと思って、講座では頑張って自信を持って伝えています」。

第二の人生は『これだ!』

「仕事でもプライベートでも、相談をされることが多くて、なんで私なの? と思いながらも、その都度一生懸命に考えて、アドバイスや励ましを伝えてはきたんですけど、『それでよかったのかな?』という思いがずっとあって、『相手のためにもっといいアドバイスができたんじゃないか』という気持ちがどんどん強くなっていったことが、メンタルヘルスを学ぶきっかけでした」。
 その背景には、20年前に亡くした友人への想いもありました。
「子宮がんで闘病中の友人に、自分なりに一生懸命に寄り添っていたつもりでしたが、亡くなってから夢に出てくることもあって。それは自分が十分なサポートをできていなかった、ということじゃないか? と当時は考えていました」。
残業も多く仕事に追われるなか、困っている人の助けになれなかったという後悔と葛藤し、自分を見失いそうになることもありました。
「自分のメンタルが不安定になっているとも感じていました。婦人科系の病気にもなったんですけど、自分の精神的な不安定さが体調にも表れてしまったんだなと。そのときは医師から子宮を摘出したほうがいいんじゃないかという話もあって……。
 そうして悩んでいるうちに、これじゃいけない、誰のために? 何のために、自分はいったい何をやりたいんだろう? と考えたときに、『人のために少しでも役に立ちたい』という思いが強くなった。年齢も50歳を目前にした頃、第二の人生は『これだ!』と決断しました」。

誰かのために何ができるんだろう

 瀧山さんは、自分がやりたいと思うことを学ぶため、14年勤めた会社を退職して、リカレントメンタルヘルススクールへの通学を開始。
「基礎の学びでは出来が悪くて、講義のたびに打ちひしがれていましたが、本当にやりたいことが見つかって、仕事を辞めて勉強を始めたら、いつの間にか体調も良くなっていました。こういった経験も、今、勉強中の皆さんに伝えていければと思っています。
 メンタルヘルスを学び始めて、あらためて自分は人の役に立ちたい、常に誰かのために何ができるんだろう、ということを考え続けながら仕事をしてきたんだと感じました。そういう気持ちがとても強いので、何とか支援現場で働きたいなと思っているんですけど、やはり実務経験がないことなどから、なかなか簡単ではありませんネ」。

最大の学びは「自己受容」

 実際に支援現場で仕事をするという希望を叶えるには、まだまだ苦労が続いていますが、学んできたことは今の生活にもしっかりと活きていると、瀧山さんは感じています。
「実は、プライベートではけっこう前から男女関係の悩み相談をされることが多かったんですね。それが社会的にも、自分的にも受け入れられないようなところがあると、『私が連絡先を削除してあげようか』みたいな勝手なことを言ってしまっていたんです。
 以前の自分はそうだったんですけど、リカレントで学んだことで、相手は誰にも話せない心の内を話してくれているのに、私はシャットアウトしてしまっていたんだ、ということに気づくことができました。相手には、後で『あの時はシャットアウトしてしまってごめんね』というお詫びと、『あなたのことをちゃんと理解しようとしていなかった自分がいたんだ』と正直に伝えました。それから、あらためて一緒に考える姿勢で聴くようにしていたら、『理解しようとしてくれる人が一人でもいるんだと心強く思えて、自分なりに問題を整理することができたよ』と言ってくれて、明らかに反応が違ってきました。
 リカレントで学び始める前は、人から相談されても結果的に自分が後悔することも多かったですし、自分の価値観と相容れない内容だと明らかに引いてしまう自分を感じていたんです。でも、今はどんな話であっても、相手を受け止められるようになったと感じています」。
 どうして、そういう変化が起こったのでしょう。
「これまでは、『こうでなければいけない』といった、[べき思考]のような考え方の癖が強かったな、ということと、そうやって自分を抑圧してきたんだ、ということを理解して、自分としっかり向き合うことができたことが大きかったです。そういう自分を受け入れられるようになったからこそ、人のいろいろな価値観も受け止められるようになったんだと思います。それまでは、常に自分のなかに物差しがあったんですけど、今はそれがなくなっていて、自分らしく生活を楽しめている感じです。
 これからも、もっともっと勉強して、カウンセラーとしての横の繋がりも広げていって、いつか……できれば5年以内ぐらいに、メンタルヘルス不調の方々の役に立てるような、カウンセリングの会社を作りたいと思っています。
 企業としては、ここにアクセスすればカウンセラーに相談できるというシステムは持っていますけど、やはりカウンセリングというと、まだまだハードルが高いと感じる人も多いと思うんです。なので、ちょっとコーヒーを買ってくるような、ちょっと深呼吸をするような、そういう感覚で立ち寄れる場所を提供していきたいなと思っています。そこで、人に寄り添うということを大切にしながら、会社に行けなくなるほど心の問題が深刻になってしまう前に、もっと気軽に相談できる『身近なカウンセラー』になっていきたいです」。
 瀧山さんは、自分らしさを楽しみながら、前向きにこれからの目標を見据えています。