新名 佐代
Sayo SHINMEI

結婚、出産、仕事と全力投球してきたなかで、たどり着いた大切な価値観は「多様性」でした。仲間とともに一般社団法人を設立し、一人ひとりの個性が尊重され、組織全体が幸せになれるような支援を模索しながら実践しています。

〈Profile〉eMC2017年取得。東京都在住。IT企業の人事労務マネージャー。副業として一般社団法人職場のメンタルヘルス支援委員会 代表理事。夫と二人暮らし。娘二人、1歳と4歳の孫あり。

パラレルキャリアのなかで

 IT企業で勤務する一方、仲間とともに立ち上げた一般社団法人で企業支援を実践している新名さん。「Well-being」をコンセプトに、一人ひとりの個性が尊重される社会の実現に向けて、いつも前向きに取り組んでいます。
「今は2つの仕事をしていまして、一つは会社で人事・労務の担当者として働いています。もう一つは、資格の勉強をしてきたなかで知り合った仲間たちと『職場のメンタルヘルス支援委員会』という一般社団法人を立ち上げて、代表理事を務めています。そこでは、メンタルヘルスやキャリアの領域で企業を外部から支援するという方向性と、対人支援職を目指す人たちを支援するという方向性の2つの側面から活動しています。
 でも、法人は設立したんですけど、それだけではまだまだ生活していけるわけじゃなくて…それで今の会社でも正社員として勤務しているんです。ニーズはあると思うんですけど、具体的に仕事に繋げていくのはなかなか難しいですね」。
 忙しい日々に苦労しながらも、その生活を楽しむように明るい表情で語ります。現在の活動に至るきっかけには、自身が働くなかで経験した出来事がありました。
「以前に勤めていた会社で、1カ月くらいの短い期間で休職者が立て続けに出てしまうことがあって。そういうときにどう対応したらいいのか、周りにどういう指示を出せばいいのかが全然わからなくって、これはちゃんと学ばないとまずいな、と思ったのが大きなきっかけですね。

学びながら「傾聴できていない自分」

 学び始めてみて、リカレントの講座の序盤で、精神疾患のことやカウンセリング技法などの基本的なことをしっかりと教えていただいたのは勉強になりましたし、そのなかでもっとも感じたのは、やはり傾聴という基本的なことが自分はできていなかったんだということでした。
 学びながら、実際に仕事で部下の面談をするときには、『聴くことに徹しよう』と思って挑むんですけど、終わってみると75%くらい自分がしゃべっていて、説教のような感じになってしまうということが続いて、聴くことができていない自分を反省していました。
 でも、とにかく『自分ばかりがしゃべるのをやめよう』と思って実践していくうちに、反発気味だった人や、何も話そうとしない人たちが、少しずつ自分のことを振り返って話してくれるようになってきて、明らかに変わってくるという感覚があったので、勉強しながら傾聴の大切さを実感していました」。

強みは「人を大切にすること」

 現在は人事職として、そして法人理事として対人支援を実践していますが、そこに至る背景には、「人を大切にする」という気持ちが根底にあったのではないかと振り返ります。
「働きながら、会社にとって重要なのはやはり『人』だということを身に染みて感じていたので、育成にかかわるような仕事が自分のやりがいになると思っていました。
 でも、人事をやりたいと言ってもなかなかさせてもらえなくて、年頃からやっと人事専任で働けるようになったんです。キャリアチェンジとしては遅かったんですけど、これまでのさまざまな経験を活かせる職種だと感じていて、人事の仕事に就けてよかったと思っています。これまで仕事への考え方などはさまざまに変わってきたとは思うんですけど、でも自分のキャリアを振り返ってみると、『人を大切にする』という気持ちがもともとあって、その変わらない部分が強みにもなっていたのかな、と思うところもあります」。
 自分の強みに気づくきっかけは、学生時代の友人からの言葉がありました。
「実は中学1年から大学まで10年間ずっと新体操をやっていて、高校時代は主将としてインターハイに2回出場したんです。でも私はリーダーシップを発揮してみんなを引っ張るようなタイプではなくて、どちらかというと後ろからついていっているような感覚だったんです。
 その後、ある時に新体操をやっていたメンバーから、高校時代に私が主将としてかけた言葉や行動に感謝を伝えてもらったことがあって。私はまったく記憶していなかったんですけど、『調子の悪いメンバーがいたら必ず電話かけてくれてたよね』とか、そういうエピソードを振り返って伝えてくれて、『ああ、私そんなことしてたんだ』と。そういう話をしていて『いい主将だった』と言ってもらったときに、振り返ってみると、『人を大切にする』という気持ちは、もともと持っていた自分の強みだったのかな、と思えるようになりました」。

いつも最後に残る価値観は「多様性」

「会社でもよくやるんですけど、[価値観カード]というのがあって、カードに書かれているいろいろな価値観を絞り込んでいくと、私がいつも残すカードが『多様性』なんですよね。なんでそれを尊重するのかというのが、やはり自分の人生にかかわってくるんですけど……。
 私は25歳で結婚と出産をしているんですけど、その時に退職をしたんです。でも、生活のために子どもが1歳になる頃には仕事をしなければならなくて。小さい子どもがいながら働くのは当時としては難しかったので、ひとまずパートから始めて、そこで頑張って、しばらくして自分の次のキャリアのために正社員として営業職になって、でも2人目の子どもができてアルバイトに戻って、そこで4年ぐらい頑張って、子どもが保育園に入ったところでIT企業に就職しました。
 それまでパートをしたり、正社員からアルバイトに戻ったりしていたんですけど、いつも仕事は全力でしてきたんです。IT企業に入ってからもそれを続けていたら、親会社から評価されて給料を上げてもらえたり。
 そうやって全力で向き合ってきたことを認めてもらえたという経験が、自分にとってはとても大切で、仕事や生活をしていればいろいろな条件や制約があったりもしますけど、『そんなのは関係ない』『お休みしたっていいじゃん』と思えているんです。
社会人生活をしていて、そういう条件や制約などに苦しんだり、環境が伴わないから諦めてしまったりする人をたくさん見てきて、そういう人たちに、いろいろな働き方や生き方があるということを伝えたいと感じています」。
 ご自身の経験を糧に、人それぞれの生き方を尊重し、後押ししたいという気持ちを多様性という言葉に込めます。
「リカレントで学び始めたことで、多様性の意味がさらに重要になったと感じています。
たとえば大人の発達障害などで、どうしてもうまくいかないこともあるという問題も知りました。そういう人それぞれの特性を強みとして活かしながらマネジメントや育成をして、組織全体として幸せになれるよう方向性を模索しながら、今の活動を続けていきたいと思います」。
 新名さんは、「人を大切にする」という強みとともに、人生を振り返りながら今後の展望を力強く描きます。