李 蘭英
Ranei RI

大学卒業後、日本と取引がある会社に勤めていた李さん。20代後半に出張で来た日本に「いい印象」で、30代初めに人生の舞台を中国から日本へ移します。 2022年3月にeMC資格を取得。そして見つけた新しい道。今、歩き方を模索中。

〈Profile〉eMC2022年取得、東京都在住。外国人、日本滞在10年以上永住権持ち。IT企業のシステムエンジニア。独身で一人暮らし。趣味は読書と散歩と瞑想、新緑は好き。好きな言葉:自強不息、厚徳載物。

学びのきっかけ

「きっかけは3年前のコロナでした」。
ITエンジニアとして活躍する李さんがEAPを学ぶきっかけは、コロナで始まったテレワークでのひとりの時間だったと言います。
「最初の緊急事態宣言のとき、会社が一気にテレワークに移行したんです。毎日会社に行って、みんなで集まって仕事をしていたのが、毎日一人になった。会議がなければ話す機会はない状況でした。そして日本は暗いニュースばかりだった。なかでも自殺のニュース。好きな俳優さんが立て続けに自殺して、自分も暗くなっていった。
 自宅で独り、仕事だけの毎日。不安だったんだと思います。自殺のニュースを聞いたとき、自分の中に大きな動揺があって、このままだと自分が変になってしまう。どうしようかといろいろ考えました。テレワークの最初に不安があって、その上に好きな俳優の自殺もあって、気持ちが一時的に沈んだんです。通勤がなくなった分、時間や心身を持て余すというか、何かしないとイライラするっていうか、エネルギーをどこかに放り出さないと、いてもたってもいられなかったのかなって」。
 そんななか、自殺した方を周囲は助けることはできなかったのかという思いも含め、李さんは大学時代から興味があった心理学、メンタルヘルスの学びを始めてみようと思い立ちます。
「中国にいるときから大学の心理系の選択必須科目を受けたり、本を読んだりと興味があったのでやってみようと思い、いろいろ調べました。どこがよいか探して、比べて、eMCの内容に親しみを感じ、決めました」。

何度もやめようと思った

「最初は入門コースに参加し、外国人でよいか、心配なことを先生に相談しました。その先生が優しくて、安心感をもらった。それで入門コースからEAPのクラスに進みました」。
 学び始めてみると、カウンセラーに向いているのか、自分では難しいところがあるのではないか、と何度もやめようと思った李さん。
「カウンセリングも受けたことがないのに、なぜカウンセラーを目指そうとしているのか、との先生の問いかけに弱気になったり、クライエントさんの気持ちが本当にはわからないと弱気になったり。
 自分は40代で独身。独りで自由気ままに生きてきた。自分はそれでよいが、中国でも日本でも、世の中の『普通』は家庭をもって、というところがある。もし結婚しているクライアントさんが来たとき、家庭の悩みや夫婦、子どもの悩みに、経験がない私はどうやって対応するのか。まったくイメージがない。そういうことを考えて弱気になったりしました」。
 中国出身の李さんには、日本語を母語とした受講生とは違う悩みもありました。
「あと、日本語。自分はエンジニアなので、仕事の上で日本語で話すことは多くはない。日本語の微妙な表現の違いが聞き分けられなかったり、繊細なニュアンスの違いを汲み取れない。例えば、『僕と俺』とか、『主人と旦那』とか、微妙にニュアンスが違うことを授業で学びました。
 また、中国人と違って日本人ははっきり言わないから、本当はどう思っているんだろう、というところを汲み取っていくのが難しい。そのことを考えると心配で、本当に続けていいかどうか、悩んだ時期がありました」。
 それでもEAPの学びを継続できたのは、一緒に学ぶクラスメイトの存在があったからだと言います。
「他の方も『大丈夫か』と悩んで頑張っているのを見て、もう少し頑張ってみようと思えた。自分は日本語がそんなに上手じゃないところがコンプレックスで、ロールプレイでは日本語大丈夫かなと心配しながらやっていたけれども、皆さん嫌な顔せず優しくて。皆さんに感謝しながら続けられました」。

 そして、クラスメイトの話に気づきをもらい、学び合う大切さを感じたそうです。
「自分にあった悩み、この人嫌とか、自分だけが不公平という気持ち。一緒に学んだ皆さんの話を聴いていて、悩みは自分だけではない、皆さん持っている、自分の悩みは大したことじゃないと感じて。
 今までは自分の世界だけを見ている感覚だったけれども、学んだ後は視野が広くなった感じがします。物事を見る角度、視野はいろいろある、見る角度が変われば自分の気持ちも変わることに気づきました」。

南京旅行で

EAPの学びへ向かわせた「後悔」

 李さんは、EAPの学びを通して自分の経験を振り返り、青年期の出来事へと思いが至ったそうです。それは、高校時代。ある日突然、いつも一緒にいた友達が退学するという話を耳にします。原因は精神的な病。
「誘っても『行かない』とか言い出したのを、すねているのかと思って、距離を置いたんです。一緒に居たのに変化に気づかず、何もしてあげられなかった。もっと早く気づけられたら……という後悔は今でもずっと残っています」。
 李さん自身の体調にも異変が起きます。
「毎日の夜、ずっと夢を見ているように脳が活動していて眠れない。ある日の授業中に突然先生の声が遠くに聞こえていた。お医者さんに『神経衰弱』と言われて、大学受験勉強のストレスが原因かと付け加えられた。自分は自覚がなかった。勉強に集中できないし、敏感になって、友達が隣にいても落ち着かないとか、この時期の出来事は自分の中でうまく処理できなかったことで、今でも引きずっている気がします」。
 李さんは続けます。
「EAPを学んで、振り返ってみると、若い頃は人の気持ちはわからなかった、考えていなかった気がします。友人のことも自分のことも。自己中心で生きてきたような気がします。高校時代にいろいろなことがあって心理学に興味を持って、いろいろ経験して。今は周りの人の気持ちがわかるようになってきました」。

隠れん坊なパンダちゃん
 反省中のパンダちゃん

人のために何かをしたい
助けたい

経験を大切にして誰かの支えになりたいと考える李さんは、「日本に住む外国人」としての自分の経験を活かして活動できないか、模索を始めています。
「今すぐに、というのではなく、これからどうしようかを悩んでいるところです。学び始めるときは、副業でカウンセリングとかの分野で誰かの役に立てればいいかな、と漠然と考えていました。でも、学んでみると、カウンセリングは簡単にできることではないということが少しずつわかってきて。専門用語も多いし、学ぶほどに深く、専門的な学びは簡単じゃないな、と感じています。
 できれば、自分が外国人なので、日本に住む外国人に向けてメンタルヘルスの学びが活かせればいいと考えているのですが、まだ力不足なので、日本の福祉大学に入ろうかと。精神保健福祉士とか、社会福祉士とかを模索しているところです」。
著しく変化するITの分野でクラウドやAIなどの新しい技術を学び、資格を取り……と学び続ける日々を送る李さんは、「新しいものに対してまったく抵抗感がない」と言います。何事にも正面から向き合い、しっかりと自分のものにする探求心に溢れる姿勢は、メンタルヘルスの分野でも変わりません。
「ITだけでなく新しい道もできたと感じているんです。力をもっとつけて、日本に住む外国人としての経験を活かしていきたい。最初は夢中でも慣れてくると溶け込めていないかもしれないと感じたり、言葉がわかるようになってもネイティブの人とは違うと感じたり、それらの不安を受け止めて、助けたい。これから自分も、福祉の道、メンタルヘルスのための道を進んでいこうと思っています」。
前に進むエネルギーの源は好奇心とチャレンジ精神という李さん。一緒に学ぶ仲間の存在、という新たなエネルギー源を得て、新しい道をどこまでも進んでいくのでしょう。