宮川 修
Osamu MIYAKAWA

電機メーカーのエンジニアとして働いてきた宮川さん。間もなく再雇用の終了を迎えます。長年、技術の仕事で培ってきた探求心と、自他ともに認める面倒見の良さを持つ宮川さんが、これから先、一生続けたい仕事として選んだ道は対人支援でした。

〈profile〉eMC資格取得2022年、現在神奈川県在住、電器メーカーで放送用機器のアフターサービスをしています。家族は妻と3人の子供の5人家族。趣味は読書と山歩きピザ焼きボランティア。

エンジニアが
対人支援を志した理由

 電機メーカーのエンジニアとして、長年働いてきた宮川さん。60歳の定年を経て、現在も再雇用で勤務している傍ら、リカレントの横浜校でキャリアコンサルタント養成講座のTA(ティーチングアシスタント)もしています。エンジニアの宮川さんとEAPを繋いだものは、意外にも定年前に取得したFP(ファイナンシャル・プランナー)の資格でした。
「定年間際の59歳のとき、老後のことを考えているなかで、ふと、今までお金の知識ってほとんどなかったな、って思ったんです。例えば、保険の話でも外交の方に任せっきり。『これ、いいですよ』って言われたら鵜呑みにしちゃう。でも、本当はどうなんだろう?って思ったら、全部知りたくなっちゃうんですね。それで、一度体系立てて勉強してみたいと思って、FPの資格を取ったんです。
 FPの勉強のなかに、お金・仕事・健康、っていう図式があって。FPはお金のことを学ぶ、では、仕事のことってなんだろう、って思ったときに、キャリアコンサルタントの資格を知ったんです。会社を退職しても働き続けたいと思っていたし、支援の仕事には興味があったので、リカレントで学び始めて、2019年にキャリアコンサルタント資格を取得したんです。本当はキャリコンサルタント技能士2級を受けたいと思ったんですけど、これには実務経験が必要なので諦めました。そんなとき、リカレントでEAPを知ったんです。メンタルヘルスってこれから必要になるな、知識の幅を広げたいな、と思って興味を持ったのがきっかけですね」。
 ふとしたひらめきから興味を持ち、深く掘り下げていく。エンジニア魂でしょうか。
「やっぱり、何かあったときに必ず理由はあるわけで、なんでそういう状態になるのか仕組みを知りたい、って考える癖はありますね。トラブルがあると、トラブルの原因は必ずあるし、そこは何?なぜ?って原因に辿り着きたくなる。仕事でもそういうことをずっとやってきていますからね」。
 こうして、宮川さんはEAPを学び始め、2021年に資格を取得しました。

公園のベンチで隣に座って
同じ景色を見るように

 EAPの学びは、宮川さんにどのような変化をもたらしたのでしょう?
「人事とか労務ではないので、仕事のなかで直接的に支援をすることはないんですけど、働いているなかで身近な人たちの相談を受けるときには、今までと違った視点で考えられるようになってきましたね。例えば、下請けの協力会社さんの社員で、メンタルやられて辞める人が多いなっていうことに気がつくようになったんです。
 以前は会社を辞めるって聞いても、『あ、そうなんだ、辞めるんだ』、で終わっていたけど、勉強を始めてからは、『え、なんで?』、って理由を聞くようになりましたね。で、よくよく聞いていくと、通院していたり、メンタルの問題が見えたりするようになってきました。今までは協力会社の社員だから、あとはその会社さんに任せるしかない、っていう考え方だったんですけど、『辞めていくって何なんだろう?』っていう踏み込んだ考え方ができるようになってきたのは、EAPを学んだからだと思います。
 協力会社の社員だと、直接面談ができるわけでもないのですが、できる範囲で話を聴くようにしています。話を聴くと、苦しんでいる人がいるっていうのがわかるし、もったいないな、って思う気持ちも出てきました。キャリアを積み重ねてきているのに、メンタルをやられて辞めちゃうっていうのは、会社としてもすごくもったいないし、その人自身も、もったいないって思います。本人は苦しんでいるんだろうな、と思うものの、どうにもならない自分がいて、そこは辛いところなんですけど。でも、以前だったらそういう気持ちにはなれなかったかな、とは思いますね。
 視点という面では変わったな、と思うんですけど、どう活きているかって問われると、まだ活きていないんじゃないかなって思います。自分が相談を受けた相手がいて、その人が行動変容してくれて、楽になったとか、そういったものがあれば、ああ、学びが活かせているな、って思うけど、まだないので…。
 ただ、1on1ミーティングをアウトソーシングする会社で、生身で働いている人たちの悩みだったり、キャリアの話を聴くサポーターをやっているんですけど、それはすごく勉強になっているし、傾聴の学びが活きているかな、って思います。
 共感するってなかなか難しくて、『わかるわかる』って言うけれど、ホントにわかっているのかな? って思われちゃうので、最初はとにかく肯定も否定もせずに全部受け止めて。あとは、クライエントさんと公園のベンチに二人で並んで座って、一緒の景色を見ているっていうイメージで傾聴しています。
例えば、『あの山、綺麗ですね』、と声をかけれたら、『どこが綺麗だと思われているんですか?』とか、『ここが綺麗だと思われている、って感じたんですけど、どうですか?』とか、『そうそう、ここが綺麗ですよね』って返す。『あ、そうです、そうです』、と言ってもらえるようになっていくと、あ、同じベンチに座っているな、っていう感じになってきて。それが、リカレントのEAP講座の教科書でいう『内的準拠枠で見る』っていうことかな、って思っています。以前は最初から、『それはこうだよ』、って指示的に言いがちだったので、そこはすごく意識していますね」。

趣味の一つ・山歩き

昔から人の面倒を見るのが
好きだった

 再雇用後は、対人支援の仕事をしていきたいと考えている宮川さんですが、その背景にはどんな思いがあるのでしょう?
「支援っていうよりは、ずいぶん前からだと思うんですけど、人の面倒を見るのが好きなんですよね。いつからだろう……?会社入ってからですかね。入社して、数百人が生活する寮に入って、寮長をやっていたこともあったし、寮の自治会のお祭りとかイベントとかをやったり、みんなでワイワイやるのが好きだったんですよね。今でもたまに当時の寮の後輩から声をかけてもらうこともあるんです。人数多かったから、こっちは覚えていなかったりするんですけど(笑)」。
 リカレントで学んだキャリコン仲間、EAP仲間からの相談や、情報交換、ロープレ練習などの声がかかることも多いそうです。
「そういうのが、あまり苦にならないんですよね。もちろん自分ができることしかできないし、それ以上のことはできないんだけど、話を聴くぐらいだったらできるかなって思うんですよね」。
宮川さん、面倒見の良さは昔からの筋金入りです。

仕事も学びも一生もの

「EAPもキャリコンもそうなんですけど、やっぱり学びは続けていきたいって思っていますし、まだまだ全然足りてないところいっぱいあるし。CP(カウンセリングプラクティカム)で、定期的にアウトプットも行っていますが、やっぱり、クライエントさんによって全然変わってくるので、学びは継続していきたいですね。
 リカレントの先生にも、『これはライフワークだからね。ライフワークでやらないとダメだよ』っておっしゃっていただいたんです。確かにそうだな、対人支援ってライフワークだな、って思っています。学びを継続しながら資格を活かした仕事ができればいいな、って思っています。理想は、80歳になっても相談に乗れる人。悩んでいる人が少しでも元気になって働けるような、そんな支援の仕事がしたい、って思っている自分がいます。たぶん、健康だったら一生続けられる仕事だと思うし、一生続けたいですね」。