東 啓祐
Keisuke HIGASHI

長年、自動車関連サービス会社に勤める東さんは自身のメンタル不調をきっかけに心理学を学び始めました。組織レベルでメンタルヘルスを推進していきたい東さんは、日々、部下とのコミュニケーションに学びを活用しています。

〈Profile〉eMC2022年取得、東京都在住。自動車関連サービス企業の執行役員。趣味はテニスと家族団欒。30代にメンタルヘルス不調で半年休職、メンタルヘルス不調者の撲滅が生涯のミッション。

一度辞めたからこそ実感したこと

「自動車のリースやレンタカー、カーシェアを始めとする車両関係の業務を取り扱う会社に勤めています。執行役員として、社内のリスクマネジメントに携わっています。リスク管理などの言葉もありますが、会社のなかの審判みたいな仕事をしていますね。社内の就業規則において、クレームや不正に対して人事が下す判断が適正かどうかに関与することもあります。
 今の会社に勤めて約30年ほどですが、実は入社して10年ぐらい経ったときに2年ほど、スポーツクラブを経営する会社に転職しました。そこからもう一度会社に入り直した感じですね。転職しようと思ったのは、ずっと営業の仕事をしていたんですけど、会社から評価もされて同期よりも早く昇格するなかで、期待や目標が高くなるにつれてどんどん仕事や役割だけが増えていって。きっと、そのときは精神的にきつかったんだと思います。一生懸命に働きすぎて、他の会社を見てみたくなったっていうのがありましたね。もともとテニスが趣味で、わりと真剣にやっていたこともあり、自分が好きなことを仕事にしてみたくなりました。
 実際に他社で働いてみると、どこの会社も一緒だなって気づいたんですよ。そして、仕事と自分の好きなことは一緒にならないってこともわかったのと、人間関係が嫌で辞めたわけではなかったので、また同じ会社で働けたらと思って、それで今の会社に戻りました」。

メンタル不調を経験して

 東さんが営業の仕事をするなかで、心理学を学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
「今の会社に戻ってからの2、3年間はものすごく一生懸命に働きました。契約社員みたいな形で入社し直し、他の会社で働いていた2年間に私の同期や後輩が上のポジションについていたこともあり、遅れを取り戻そうとすごく働いたら、うつになってしまいました。
 そのとき、半年休職をして復帰をしたんですけど、うつになった経験がとても苦しくて。なんとか乗り越えることができたんですけど、社内で同じ思いをするような社員が少しでも減ってほしいという思いも芽生えて。35歳のときにうつになってから、学び始める47、48歳までは身の周りで気にかける必要がある社員がいれば、自分なりにケアをしました。スッと寄りそって、こう、押し付けがましくない感じで、相手が関心を持つように話すとか、心理教育みたいなことを感覚的にやってましたね。自分と同じ苦しみを味わってほしくない、っていう気持ちが大きかったです。
 営業から管理部門の所属になったときに、少し時間にゆとりが持てたので、勉強をしたい、資格を取りたい、って思いました。何に関心があるだろう? と思ったときに、いろいろ探すなかでリカレントに辿り着いて、カウンセリングの勉強を始めました。
 私がうつになった経験は、誰かとのコミュニケーションが上手くいかなかったというよりも、組織レベルでの問題だと思ったんですよね。組織、企業の中でどうメンタルヘルスを根付かせていくか、というのが大事だと感覚的に思って。企業のメンタルヘルスの状況改善のようなことを進めていければと思い、勉強を始めました」。


職場にて

部下のメンタルケアに
学びが活きる

「今の仕事でカウンセリングをするというのはないですが、仕事上での上司や部下とのコミュニケーションには大いに活かされています。特に部下には、より気をつけなきゃいけない、という思いがあります。
 今まで営業の仕事をしてきていろんな人と接するなかで、人に合わせながら関係を保つことを感覚的にやってきましたが、カウンセリングについて学んで、コミュニケーションの術を学べたというか、こう言ったら相手はどう感じるのか、言葉だけじゃなくて目線なども意識するようになりましたね。
 心理学にもいろいろな種類があって、組織としてメンタル不調者を出さないためとなると、組織心理学や社会心理学、そういう領域にも入ってくると思うんですよね。自分が関わっている組織の中でどのような影響があるかとか、EAPで学んだスキルは役立っていますね。
 例えば、部下に仕事を依頼して、やってくれた仕事に対して『とっても良くできたね』と言うよりも、『すごく助かったよ。とっても頼りにしているよ』と伝えるとか。『良くできた』とか『また頑張ってね』という言葉を上司からもらったときに、本人のモチベーションが上がるかどうか。組織マネジメントとしても、上司の態度や表情で部下がどういう感情になるのかを、すごく学べたと思います。無言でいることにも意味があるとか、言うタイミングにも気を配ることで工夫もできますし。
 仕事のストレスを上手に消化できる人・できない人っていうのはいると思うんですね。ストレス反応とか、メンタル不調のサインを早めに見抜けるようになったので、こちらから声をかけたり、面談の機会を持ったり、相手に発散させたりとか、そういうことができるようになりました。上司として部下のメンタルケアにはとても役立っています」。
 東さんは自らの学びから自然体でラインケアを見事に実践しています。

セルフケアにも大いに役立つ

「私の両親はともに鹿児島出身なのですが、いわゆる戦後の封建的な夫婦という感じで。奥さんは旦那さんに一切歯向かわないとか、イエスしか言わないとか。そういう親を反面教師にして、自分はそうしないと小さい頃から決めていました。心理学を学んでからはその気持ちは強くなりましたね。
 あとは、セルフケアもできるようになりました。自分もストレスコーピングについて学び、みんなそれぞれ考え方も違うっていうことや、考えても仕方ないこともあること、ここまでやったらいいとか、自分がうつになってそれを乗り越えたときに、自分の身の危険や命を守る上で、これ以上は頑張らないという区切りができました。学んだ理論や知識が自分を大切にするというセルフケアに役立ってますね」。


軽井沢保養所で家族テニスにて

 

メンタル不調撲滅を目指して

「いろいろと考えてはいるんですけど、まだ具体的には見えていないですね。今は70歳を超えても生涯働き続けたいと思っています。今後、いかに社会に役立ちながらも多少でもそれに見合う報酬を得られるか、っていうことは最近よく考えるようになりました。企業で働いている方にとって、健やかでモチベーションが高い状態で働ける環境をいかに維持できるか、コンサルというとおこがましいかもしれませんが、そういったことを考えています。企業で働く方のメンタル不調を撲滅するっていう、それに向かって何ができるか?っていうのを考えているところです。
 今の会社では、組織マネージャー向けに研修とかレクチャーをしてみたいなって思いもあります。そこで少しでも何かしらの気づきだったり、組織が変わっていくきっかけになればなって。そういったことはすべての組織や企業にニーズがあると思うので、人脈を広げて、私は営業経験が長いのでそういう人たちをマッチングするとか…。
 今の仕事も頑張りながら、いつかくるキャリアチェンジに向けて今後も頑張っていきたいですね」。