瀧川 梨詠子
Rieko TAKIGAWA

総務部に健康管理室、女性相談窓口と複数の部署をマネージする瀧川さん。コロナで弱る社員の心を支えるためにEAPメンタルヘルスカウンセラーを取得。「デトックス」と定期的に心の靄を晴らしに訪れる社員もいます。社員にとっての最適な支援は何か、その在り方を考え続けています。

〈Profile〉eMC2021年取得、埼玉県在住。専門商社の総務部長、健康管理課で従業員支援のため資格を取得。(人事異動があり現職は秘書室長です)趣味は史跡と博物館巡り、三毛猫と暮らしてます。

後悔はしたくなかった

 穏やかな笑顔でやわらかく言葉を紡いでいく瀧川さん。EAP取得のきっかけは「もう私には何もできることはないのか」という強い責任感でした。
「2016年に総務部へ異動になり、総務の責任者として健康管理課の業務も見ることになったんです。健康管理課には社内看護師が1名いて、フィジカルはその方がしっかり看てくれていたんですが、メンタルをケアする人材がいなくて」。
 メンタルの相談は、看護師の方が一次受付をし、必要と判断したら産業医につなぐ形を取っていましたが、2020年、コロナとともにメンタル不調を訴える社員の数は急増していきました。
「飲みに行くことも趣味もできなくなって、社会と断絶しまう社員が増えたんです。特に単身赴任の外国籍社員は母国に帰れない、日本に友人もいない。淋しいってよく言うようになりまして。話を聴くだけっていうのは限界があると思っていたんです、支援の方法として」。
 「後悔はしたくなかった」と語る瀧川さんは、大学で心理学を専攻していた自分が学び直してメンタルを担当できるようになればと思い、社員の心の支援を学べる手段を調べ始めました。
「すべて産業医の先生に繋ぐことも、なかなかできない。私自身もメンタルの対応で何が最善か判断できない。何もできずに退職を見送るしかなかった社員がたくさんいたんです。自分にいろいろな選択肢や可能性が見えていたら、違うアプローチができたのかもしれない。しんどい思いをしているのを間近で見て、何もできない自分が一番歯がゆい」。

学んで気づいた視座

「今の仕事にこれこそが必要な資格だと思い、2021年にチャレンジしました。仲間の皆さんと一緒に学んで、いろいろな事例を共有できたことが、すごく良かったと感じています。自分の価値観や生きてきたバックボーンなどのフィルターを通してしか、周りの方を見ていなかったことに気づかせてもらいました。その人が生きている世界の真実は、その人にしか感じることができない、私が判断してはいけないと感じました」。
 この気づきは、相談を受ける瀧川さんに変化をもたらしました。
「一番変わったのは、多少のことではあたふたしなくなったこと。動揺したりもらい泣きしたりは減った気がします。話を聴いてモヤモヤしたり、引きずられたりしている自分、一緒に上司に叱られた気持ちになってる自分に気づけるようになりました。起きた出来事をその方がどう受け止めて、どう感じているのか、ちょっとだけ味わわせてもらうところで止めておかないといけないって。
 あと、カウンセリングと組織の問題、課題解決がごっちゃになっちゃっていたことにも気づきました。この上司、理不尽じゃないかとか、こういう思いをしているのなら、上長のあの方に言って、あっちの部署と連携を取ったらどうにかできないかな、とか。相談を受けている最中に対策を考え始めて、先走って組織調整に入っちゃったこともあったんじゃないかなって。本当はどうしたいと思っているのか。ご本人の望みをしっかり聴いて、自発的に『私こうしたかったんです』と思ってもらえるように、カウンセラーとマネジメントの仕事を分けるようにしました」。
 自分の中で仕事を分けるようにした瀧川さんですが、マネージャーの立場での社内カウンセリングは「相談者側の期待」という難しさが伴っていました。

「私はいま壁打ちの壁だ」

「ホントに難しかったです。何を期待して話してくださっているのか、会話で掴んでいくしかないって思っていたんですけれども、聴いちゃえばいいんだって思って。カウンセリングのつもりで話してもらえるのか、具体的にあそこの責任者に言って欲しいのか。組織の中なので、何を希望するのか、ある程度聴いてもらった方が社員も相談しやすいのかな、と思いまして」。
 瀧川さんには、役に立たなきゃという気負いと同時に、メンバーの話を聴く怖さもあったといいます。
「呪いの言葉でも何でも聴きますよ、私はいま壁打ちの壁だ、って思うことで、メンバーたちの相談事を怖がらなくなりましたし、何もしてあげられないのに期待ばかりさせちゃうかな、っていう変な気負いもなくなりました。『そんなことがあったんだね』って聴いて、隠れている思い、掬い取れていない思いを二人で一緒に確認する感じで、壁になってます」。
 社員の悩みを聴くことを重ねて気づいたこと。そこには、瀧川さんが社員に寄り添い、見守ってきた温かな時間を感じます。


マルタ共和国への旅行から

瀧川流レジリエンス

 学びは、支援の方法だけでなく、自分自身をコントロールする面でも活きている、と言います。
「自分をコントロールできていない人には、人様の話を聴く資格はないな、と思ったので、『自分ポイント制』みたいにして自分のことをケアするようにしています。
 自分の体力と精神力をゲームっぽく数値化して、体力ゲージ100くらいあったのに70に下がっちゃったな、どろっどろに甘いコーヒー飲んで30回復、とか。もう1回同じ失敗をしたらプレステ5買おうとか。そうすると10回目に失敗したときに『どうしようまた失敗しちゃった』って思うところを、『よし、あれ買える!』って思うんですよね。ゲーム好きなので、ゲーム感覚で自分を上手いこと乗せていこうって思ってやってます。
 体力と精神力の配分をうまくやらないと倒れると思ったときに、生活の知恵として始めたゲージへの置き換えですが、EAPを学んで、こういう手法があってもいいのかと思い、アップグレードして意識してやるようにしています。ギスギスしたりカリカリしたりしていると、誰も話しかけてきてくれなくなるので、自分を茶化すくらいの感じで」。
 瀧川さんのこの「しなやかさ」が、「やれるだけやってみよう」と決断し実行する強さを支えています。


社内でのセミナー風景

広がる世界

「悩みを聴いていて思ったのが、感謝されない存在になっていくっていう悩みが結構多いなって。家族も働いて当たり前みたいな感じらしく。なので、労ってくれるカウンセリング研究所があったらいいなと。一緒に良いところを一覧にしてくれて、『ここ当たってる、ここも当たってる』って。気軽に受けられるように、手相とカウンセリングの融合とか、いろいろあったら楽しいのになって」。
 ライフワークとして心理支援をやっていきたいという瀧川さん。EAPの学びのなかで感じたカウンセリングの効果が大きいといいます。
「ロープレでクライエント役をしたとき、話を聴いていただいているうちに、長年執着していた辛い気持ちがフッて楽になって。そんなカウンセリングを私もできるようになれたらいいなって。
 ニコニコしてたり、恋愛しました!ってキラキラしている方を見るのは楽しいし、元気をもらえる。私にとって、他者ってそれぞれ違う資産をいっぱい持っている資産の宝庫のような感じがするんです。良いものをいっぱい持っているのに、壊れちゃったものだけを見て『辛い』ってなっている人に、『いっぱい持ってるよ』って思い出してもらいたい」。
「EAPを学んでから、もう一つ世界が増えて豊かになった気がする」という瀧川さんが、ライフワークとして学びを重ねていく先には、どんな世界が広がっていくのでしょうか。「純粋に学ぶって楽しい」と微笑む瀧川さんの瞳は、未来を見つめてキラキラと輝いていました。