佐藤 隆一
Ryuichi SATO

「EAP メンタルヘルスカウンセラー活動コンテスト 2017」にて、最優秀実践賞を受賞した佐藤さん。あれから6年、情熱的にメンタルヘルスケアの活動を展開し、たくさんの功績を残しながら、現在は多彩にさまざまな人をサポートしています。佐藤さんのミッションへの挑戦は今も続いています。

〈profile〉eMC2015年取得、千葉県松戸市在住。仕事:①ジャパンケーブルキャスト取締役、②こころの健康塾主宰、③デイサービスの介護職員。趣味:男の料理、バドミントン(中学生コーチ)

ミッションの道のり

「『こるNo.2』(2017年6月刊)で紹介された頃は、NTT 社員としての人生の終盤でした。インターネット事業の「株式会社 NTT ぷらら」の企画・管理担当役員から関連会社であるJCC(ジャパンケーブルキャスト)の役員として転籍、2020 年3 月まで、取締役として、人事労務や財務経理、経営企画から法務などの統括の役割を担っていました。
従前人事課長をしていた頃から、優秀で心優しい仲間がうつ病で休職したり、将来を嘱望されて花形部署に異動直後、職場不適応で戻されたり、を目の当たりにしていました。極めつけは、前職時代からのうつ病が治らないまま入社した中途社員が、うつを再発し自殺するという痛ましい事態に直面したエピソードですね。絶望の渦中の遺族に涙ながらの対応をした。葬儀の帰り道、強く決意したんです。『絶対にうつ病のない職場づくりをしなければならない』と」。
そこから佐藤さんのメンタルヘルスへの全力をかけたミッションが始まりました。


第1回EAPメンタルヘルスカウンセラー活動コンテストで最優秀実践賞を受賞(2017年6月)

揺るぎない価値観

「私の中でこだわり抜いている価値観、それは『何よりも人を大切にしよう』ということ。社員を一人新卒採用したら定年まで2億円もの労務費負担があることをご存知でしょうか。2億円の機械を購入したら、すごい額の保守費を払って大切に扱いますが、社員は大切にするより酷使しているのが多くの企業の現実ではないでしょうか。
あなたにとって一番大切なものは何ですか?と問えば、誰もが命だと答えるでしょう。だからこそ従業員の心身の健康・安全衛生管理が重要なのです。命の大切さを具現化した、人に優しい経営をしなくてはダメなんです。
こんな強い思いでやってきたメンタルヘルスマネジメントの取り組みでしたが、特に注目された成果は、NTTぷらら時代に統括労働安全衛生責任者として、メンタルヘルスマネジメントを中心にしたOSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)を構築し、国際認証であるOHSAS18001(現IS045001)を、IT企業として初めて取得したことです。この認証は、日本では大半が建設業、化学・薬品業、製造業等での労災防止目的で取得されています。そんななか、うつ病発症率が軍を抜いて高いIT企業が、メンタルヘルスに目を向けて、初めて認証を取得した実績になりました」。
時代を先取りした佐藤さんの働き方改革は、人事系の有名雑誌『労政時報』や新聞で取り上げられたり、社会的に大きな注目を集めました。そのような流れで、令和元年度厚生労働省の「メンタルヘルス対策に関するヒアリング」では、調査対象に選ばれたり、コロナ禍直前の 2020 年 の「メンタルヘルスシンポジウム」のシンポジストなど、厚生労働省のメンタルヘルス施策に絡む役割も担ってきました。
また、2019年 3 月には『らびっこ®ちゃんとアイウエオで学ぶメンタルヘルス4つのケア』と題した小冊子を、また2021年3月には『「こころの健康塾」教科書』と題した書籍を出版。そのどちらにもEMCA協会松田直之代表理事の推薦文を掲載し、『らびっこ®』のイラストをたくさん散りばめて、かわいらしく編集しました。
こんなふうに、佐藤さんは企業人として、誰もやっていなかった難しいチャレンジに挑み、目標を実現し、その成果を社会に認められながらメンタルヘルスとの関わりを深めてきました。


ジャパンケーブルキャストにて

※令和元年度「相談しやすい職場環境づくりのポイント」|こころの耳:働く人のメンタル
ヘルス・ポータルサイト (mhlw.go.jp)
※『らびっこ®』は、EMCA支部・東京ブロック役員の藤原公子さんの主宰する(有)ラビッツ・コーコが持つ健康増進・ケアのキャラクター

新たな道へ

「今ですか? 非常勤役員になったことで時間の余裕ができたので、早速個人事業主としての『こころの健康塾』を開業しました。HP:kokoro-kenkou.comこころの健康塾では、地域で不登校や家族関係で悩んでいる方へのカウンセリングを行う傍ら、メンタルヘルスやパワハラ防止など10種類以上のテーマで研修会を実施しています。
さらに、もっと何か日々、社会貢献感を肌で感じられる生活をしたいと思って、ニチイ学館で介護職員初任者研修を受講し、介護職員としての基礎知識を学びました。現在は、ケアパートナー株式会社の契約社員として、デイサービスセンターで週に4日の高齢者介護の仕事に従事しています。
この仕事に就いてから、認知症や脳障害で半身麻痺の方など、重度な疾患や怪我で介護が必要な方や、そのご家族と接する日々です。朝 6時半に起床し、約半日をヘトヘトになって過ごして、家に帰ったらJCCの役員業務や個人事業主活動、EMCA支部役員業務、休日中学生へのバドミントン指導などで、寝る時間以外はすべて動き続ける生活を送っています。目の回るような慌ただしさですが、日々とても充実感はありますね」。
佐藤さんは多忙を極めながらも、2021年EMCA全国支部会の発足時には、大活躍!
「準備委員会の委員長に任命されて、EMCA支部会の在り方をじっくり考えました。支部会の価値が発揮されるための提案をしたり、関東ブロックの初代支部長も経験させていただきました。そのなかで多くの会員さんとも交流でき、人脈も増えたことは、とても良かったと思っています」。


「こころの健康塾」による大学での特別講義

スキルを伝授していきたい

「私は2月6日で67歳になりました。時が流れても「何より人を大切にする」との基軸は、今も何ら変わっていません。介護の勉強や仕事をするなかで、ノーマライゼーションの考え方(※障害をもつ者ともたない者とが平等に生活する社会を実現させる考え方)がカウンセラーやEAPにとっても、重要であることを痛感しています。
 今後、自身のチャレンジしたい取り組みとしては、個人事業主としての『こころの健康塾』の活動と、EMCAのコラボレーションを行い、ますます進んでいく超高齢化社会のなかで、高齢者や家族介護者の気持ちに資する活動を牽引していきたい。また、一緒に活動をしてくれる若手を育成しながら、企画検討から実行までのマネジメントするスキルを伝授していきたいですね」。
 第2期のEMCA支部会では研修講師を養成するプロジェクトチームのリーダーとして、会員さんのスキルアップに注力している佐藤さん。何より人を大切にするという強い思いを、これまで培ってきたメンタルヘルスケアのノウハウとともに大切な仲間に伝えています。