後藤 歌井
Utai GOTO
長い間、インテリア企業で様々な業務に携わる。仕事と介護の両立で悩むなか、eMC資格を取得。大好きな仕事に全力で取り組んできた後藤さんは、常に「今、自分にできることは何か」を考える、前向きな気持ちの持ち主でした。
〈Profile〉eMC2020年取得、名古屋市在住。起業準備中。32年間インテリア業界に従事した経験と、介護中に取得したeMCとキャリアコンサルタント資格を活かした独自の支援法での活動を模索中。
インテリアに関わる
充実した時間から
インテリア企業の中でさまざまな分野の仕事に携わっていた後藤さん。自分自身が好きな仕事をしていることで充実した日々を送っていた、と振り返ります。
「インテリア業界ではクリエイティブな仕事で、新製品のプロモーション等に関わっていました。新製品の良さをパッと感じてもらう、いわゆる感性に訴える仕事だったと思います。その仕事にはやりがいや生きがいを感じていました」。
そんな後藤さんに人生の転機が訪れます。高齢な父親が要介護認定3の状態になってしまったのです。
「充実していた仕事でしたが、好きな仕事ゆえにのめり込んで頑張り過ぎてしまうところはあったのかな、と。また、自分は性格上、切り替えが上手くできないので、仕事と介護の両立は難しいのかな、と感じていました。
介護の世界は先が読めない。子育ては計画が立てられますが、介護はいつまで続くのかわかりません。すぐに元気になるのか、何年かかるのか……。実際に携わってみてエンドレスな世界だということを知りました。また、今はいろいろな支援サービスもありますが、やはり家族でしかできないことも多々あります。
退職すべきか、両立に挑戦すべきなのか、あるいは休職という選択肢もあるのだろうかと、数ヵ月にわたって来る日も来る日も悩みました。その上で行き着いた答えは、こうでした。仕事には代わりの人間がいる、でも家族には私しかいない。今まで家のことを何もしてこなかったので、家族と向き合い、家の中に入って家族の支えになろう。そう思い、退職を決断しました」。
インテリアという華やかな現場の最前線で情熱的に働いていた後藤さんにとっては、とても大きなチェンジであり、確かに苦渋の決断でした。けれど、自ら「今」を受け容れることを選んだ自分を信じて、次なる道を歩み始めました。
2つの資格取得
退職後、後藤さんは、介護の時間の合間を縫って、以前から興味があったキャリアコンサルタントの資格を取得しました。
「養成講座のキャリアカウンセリングの場面で気づいたことがあったんです。キャリアコンサルタントは、通常、求職の相談やキャリアチェンジといった相談を受けます。転職したいという人の原因の多くは、今の職場で何かしら悩みや問題があって、そこから脱出したいという気持ちからだと思います。
心の深いところではどんな気持ちになっているのか、どうして転職という意思決定をしようとしているのか‥‥‥。
それまで心理学を広く浅くは学んだことがあったのですが、その知識だけでは相談者の心理的な部分も含めての十分な支援をするには足りないな、と思ったんです。自分がどのように今後、キャリアコンサルタントの資格を活かしたらいいのか、じっくり考えたんです。そして、人と関わっていく上で、特にカウンセリングを行うには、やはり心理学をしっかり学んだほうがいいということに気づいた。それでEAPメンタルヘルスカウンセラーの資格も取ることにしたのです」。
「今、ここ」を受け入れることで
「リカレントでの学びでは、生活をして生きていくために本当に必要な知識が身についたと思っています。
自分自身の一番の変化としては、心理学をきちんと学んだことによって、自分の気持ちや考え方が客観視できるようになったことだと思います。その結果、以前よりも気持ちが安定するようになりました。思うようにならないことで自分がイライラしたり、病人と接してイライラとしたりすることも多々ありますが、それは、自分が病人に対して求めてしまうものがあるからなんだと思います。
今では、介護も淡々とこなし、「今、ここ」を受け入れることができれば、イライラすることもなくなり、自分を大事にしていれば落ち着いていられるということを、経験のなかで実感できています。2つの資格取得を通じて学んだことは、私にとってとても有意義だったと感じています」。
現在の自分
キャリアコンサルタントとEAPメンタルヘルスカウンセラーというダブルライセンスを手にした後藤さんは、今の自分の立ち位置を冷静に分析しています。
「やっぱり自分は無理をしてしまう性格なので、介護と両立しなければならない今は、頑張り過ぎて身体を壊すことはできない、という思いが強いです。また、もし会社勤めをすれば、会社を休んだり早退をしたり、遅刻をしたり、周りに迷惑をかけてしまうのではないかと思う精神的な負担も大きいです。
なので、今は時間があるときにリカレントでEAP講座のTA(ティーチング・アシスタント)や、実践コースの修了試験のクライエント役をお引き受けたりしています。TAの良いところは、週1回、最大3ヵ月なので、介護との両立もできて、自分への精神的な負担も小さいところ。こんな機会を利用しながら、働く感覚が錆びついてしまわないように、仕事をする緊張感は持ち続けたいと思っています。
今は、家のことを最優先にしつつ介護の目途が立ったとき、イメージしている起業にシフトしていけるように、準備をしていきたいと思っています」。
目指すべき理想に向けて
「カウンセラーという仕事は、自分がこれまでやってきた仕事とはまったくの畑違いのなので、自分にとって大きなキャリアチェンジだった」と後藤さんは言います。これから目指すべきカウンセラー像とは、どのようなものでしょうか。
「自分では、キャリアコンサルタントとeMCという2つの資格で、それぞれ関われる領域があると思っています。異なる2つの資格を活かし、日々学び、自分のカウンセラーとしての独自のスタイルを確立したいと考えています。
「転職を考えている訳ではないけど、何となく職場でモヤモヤする、働くモチベーションが下がっている」といった人に対して、カウンセリングへの意識のハードルをもう少し下げてもらい、気軽に相談してもらって、親身に話を聴いて差し上げたい。一緒に考えて、自身のキャリアを損なわずにモヤモヤの解決に繋げていけたら……と思います。
人は生きていれば必ず悩むものだと思います。その悩みを不用意に友達に話すことで単なる愚痴になってしまったり、反対に、言わなければよかったと後悔してしまったりすることも多いです。なので、自分をいかに大切にするかに気づいてもらうカウンセリングを目標にしたいと思っています。
カウンセラーというのは[聴く力]が大事と言われますよね。その[聴く力]というのは、相談者が言っていることを正確に理解すること、だと思います。どのような悩みを持ってくるのか、まったく予想ができない。だからこそ、苦労話を聴くだけでなく、苦労を克服できるような聴き方ができれば、と思っています。
そのためには日々いろいろな学びが必要だということ、そして、やはり今の社会情勢の在り方を知っておくこと、この2つが大切だと思います。
私自身、介護がいつまで続くのか、介護にかかる時間もどんどん増え、先の見えない不安もありますが、インテリア業界での会社員を辞めて父親の介護に専念するという大きな決断をした経験を踏まえて、[心地よい空間・暮らし][メンタルヘルス][今できる仕事]の三つの柱を整える、カウンセリングを目指しています。一方で、自分がやりたいと思ってもできない可能性もあるので、そのあたりの折り合いをどうつけていくのかが、今一番の悩みです。
最後に、リカレントで学んだことによって、志が同じ方々と出会えたことにとても感謝しています」。