佐久間 史子
Fumiko SAKUMA
ITベンチャー企業で社内保健室を立ち上げ、キャリアとメンタルの二刀流で活躍している佐久間さん。さまざまな縁で仕事をしてきたなか、社内保健室は「自分でやりたい」と、初めて心から思った仕事でした。
〈Profile〉eMC2022年取得、東京都在住。キャリアコンサルタント。「株式会社ゆめみ」でキャリアとメンタルヘルスの悩みに寄り添う「保健室」を作りました。趣味は筋トレやランニング、ヨガなど体を動かすことが好き。
企業内に保健室を作る
「内製化支援、DXを進めるアプリ開発をしているITベンチャー企業の『株式会社ゆめみ』に勤めています。社内に保健室を立ち上げるまでは、案件のプロジェクトマネージャーを長く務めていました。
当時マネージャーとして、チームに所属する幅広い年代の人たちのキャリアをどう積んでいけばいいのか、いつも考えていました。そして、自分は、『ゆめみ』でずっと働いていきたいと考えた結果、専門的に学ぼうと決め、3年前に国家資格であるキャリアコンサルタントを取りました。そして、いつか必ずキャリア専門の相談室を作ろうと思ってたんです。
そんななか、コロナ禍で会社がフルリモートに切り替わり、メンタル不調の社員が増えてきたと感じました。総務も対応が大変な状況で。だったらまとめて相談室で見ることができるように、EAPメンタルヘルスカウンセラーの資格も取って。今後もメンタル不調者がどんどん増えていくのではないかと感じつつ、資格を取りながら保健室の開設を目指していました。
IT企業はひとり一人のキャリア支援やメンタルヘルス対策が遅れていると感じます。弊社の従業員は今350人程ですが、2026年には1000人規模になることを掲げています。規模が大きくなる分、精神疾患や休職者率も上がると考えられるので、そこを抑えることも視野に入れています。
保健室のネーミングもいろいろ考えました。『カウンセリングルーム』や『相談室』などの固い印象では、私自身も行かないだろうなぁと思ったんですよ。自分は高校生のとき、用事もないのによく保健室に行っていたんです。具合が悪いより実は相談したいことがあって。保健室の先生だからこそ話せることもあって、子どもながらに担任の先生とは違う安心感があったんですね。それでネーミングを保健室にしました」。
リカレントで学ぼうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
「最初、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅲ種を取得したんですけど、テキストを見た時に衝撃を受けて。うちの会社、何一つできていないと。このままでは不調者が増えていってしまうと考え、資格を調べるなかでリカレントに出会ったんです。その1週間後には個人相談会を予約して、2日後にはEAPメンタルヘルスカウンセラー養成講座に申し込みして。
EAPメンタルヘルスカウンセラーを選んだ決め手は、労働者に特化しているところです。さまざまなカウンセラー資格があるなかで、幅広く産業界でカウンセリングだけでなく組織へのコンサルティングをやる人がいないなって思ったんですよね。また、『ゆめみ』には『勉強し放題』という制度があり、養成講座の費用を会社がすべて負担してくれたことも、すぐ学ぶきっかけとなりました」。
リカレントでの学びは多くをもたらしてくれました
心が動くことを追いかけて
「私はもともと人に何かしてあげるのが好きなおせっかいタイプで、最初はホテルマンから始まったんです。1994年のリレハンメルオリンピックに感動して、次は長野だ!ということで長野のホテルで働きました。ホテルで4年ほど働き、その後もサービス業を転々と。
オーストラリアにワーキングホリデーに行ったときは、なぜか正社員で就職して(笑)、ワーキングホリデーの方や留学生などを相手としたモバイルのレンタル会社の店長を任されました。その店は繁盛したのですが、就労ビザが厳しくて取れなくて。その時、社長から『香港に枠があるからどう?』と言われて、おもしろいと思ったので、次は香港に飛んだんです。
けれど、香港でもビザの入手が厳しくて、半年ほどで帰国となりました。地元で友人からホームページを作る仕事に誘われたので、学校に行きながらイラストレーターやライティングを学んで。そこでWeb制作にハマり、もっと大きな仕事がしたい!と思って、東京に出てきたんです」。
海外勤務の経験も
私のパワーはそこだけにある
けれども実は、今勤めている『ゆめみ』も最初は入れると思ってなくって。たまたま転職活動をサポートしてくれた転職支援会社の担当者の働きぶりに感銘を受けたんです。私は今まで働くことに対して、こんなふうにちゃんと向き合ってなかったかも、と思ったんですよね。高卒だったこともあり、最終面接に行っても入社できるとは思っていなくて。
ただ、ゆめみの代表は私にきっと何か期待をして採用してくれたんだろうと思えたので、この会社へ、そして社会へ恩返しをしたい。強くそう思いました。私のパワーはそこだけにあります。今もその気持ちは変わらないです。
これまで高卒ということで苦労してきたこともあり、自分の人生は自分で結構決められないなって感じていたんです。これまでは人のご縁でなんとなく仕事が決まってきた感じですが、今の保健室は初めて自分が心からやりたくて、やっている仕事です。社員として、発起人として責任感を持って全身全霊で取り組んでいます」。
佐久間さんの凛とした表情には、強い意思と自信があふれています。
『ゆめみ』は佐久間さんの自己実現の大切な場所
私にだから与えられた仕事
リカレントでの学びはどのように活かされたのでしょうか?
「自分軸をきちんと持つことをあらためて認識しました。あとは……。ちょっと重い話になるんですけど、実は、私は兄も母も自殺で亡くしました。当時、母がうつになる可能性があると主治医から言われていましたが、私はうつがわかってあげられず、母の心情に寄り添ってあげられなかった。
思い出したくもないので、そこはずっと蓋をしていて……。その蓋を開けてしまったら、自分を許せずに死んでしまうんじゃないかって思っていたからです。
でも、リカレントでカウンセリングを学ぶなかで、自分に向き合う機会が否応なくあったので、思い切って蓋を開けてみたんです。辛かったですね……。でも、そうしたらカウンセラーとして生きていくことがどういったことなのか、わかってきたような気がします。
もしも、自分と同じような人がカウンセリングで来たら、自分はちゃんと向き合えるのかっていう不安があったんですけど、自助グループやカウンセリングを通して、自分を客観的に見られるようになりました。
休職者に対しての声かけや、うつ病などの精神疾患を持っている人へどう対処すればいいのか。まだまだ未熟者ですけど、自分の経験をもとに学んだことを実践しています。
自分自身が強くなりました。今の仕事は、私にだから与えられたと思っています」。
香港の友達家族と
EAPのさらなる発展へ
寄与したい
「企業のトップがメンタルヘルス対策に理解のないなか、『ゆめみ』の代表は「メンタルヘルス対策は従業員への先行投資である」とハッキリ言ってくれていて、このような代表がいるからこそ保健室ができる、と思っています。保健室の立ち上げから約1年半、思ったよりも相談数が多いです。さらに従業員が増えていくので、外部資源を使いながら対策をとっていきたいです。
また、他企業への支援も考えています。私がSNSを通して保健室の活動を伝えることで、他社にも保健室を作ってほしいという思いがあります。1企業でも多く保健室を増やすために、『ゆめみ』がモデルケースになれるように頑張っています。
あとは、EAPメンタルヘルスカウンセラーの普及です。幅広く認知を広げるためにSNSを駆使しています。また、一人でも多く試験に合格してほしいので、受験サポートもリカレントに許可をもらった上で行なっています。キャリアコンサルタントと違って、EAPのほうはなかなか横の繋がりがないなって感じるので、eMCを一人でも多く繋げていきたいです。
まだ研修生という身でありながら、今回のお話をいただいて感謝しています。協会を盛り上げるためにSNSでも話題にしたいです」。
大事な従業員を守るために、自身の健康やスケジュール管理を徹底する。使命感に燃える佐久間さんの活動を通して、企業の保健室が一般的になる日が待ち遠しいです!
パワーとユーモア溢れる佐久間さんはリカレント仲間からも「おもしろくて最高」と人気者