小見 創介
Sosuke KOMI
小見さんは大手不動産企業の人事部で健康経営を推進する取り組みをしています。なかでも社内の長時間労働者や高ストレス者を対象に任意面談を実施しています。リピーターさんもいるという、小見さんの[お人柄]が表れているエピソードもありました。
〈Profile〉eMC2018年取得、埼玉県在住。不動産会社人事部所属。妻と7歳の娘の3人家族。趣味はロックフェス参戦とスポーツ観戦。
健康経営を目指して
約7年前に今の会社に中途入社した小見さん。以来、ずっと人事部で活躍しています。健康経営の名の下に、あらゆる角度から健康増進のための取り組みを実施してきました。
「人事部で健康経営推進室というものを作りまして、私はそこに所属しており、その名の通り健康経営を実現するための取り組みをしています。業務時間の削減やストレスチェック、イベントの実施、外部EAPとの橋渡し、社内面談などがメイン業務ですね。
また、部署を横断した会社の社風改革プロジェクトの一貫としてDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)という施策にも手を挙げて参画しています。そこでは女性活躍推進や障害者雇用などを中心に取り組んでいます。
今後は大きな社会課題となっているLGBTQについても進めていきたいというところです」。
まだまだたくさんの施策があるようで、本当に多岐に渡り[健康経営]を目指して活動している様子。小見さんの会社では、『健康経営優良法人・ホワイト500』に認定されるなど、社会的にもその施策を評価されています。
外部資源と繋がる必要性
「メンタルヘルスの観点では、契約している外部EAPから四半期毎に社員の利用率を受け取っています。そこからさらに利用してもらえるようにどうしていこうかという話し合いをしていますね。
また、自分が行っている社内面談は、もともと組合との話のなかで長時間労働対策をどうしていくか、というテーマが出たときに、徐々に精神的に不調を訴える社員も出てきたので、まずは面談をやってみようというところで開始しました。
対象は、毎月長時間残業をした社員とストレスチェック結果が高ストレスの社員。長時間の残業者には健康状態チェックのアンケートで面談希望の有無を確認しており、高ストレス者は医師からの診断書をもとに面談の場を設けています。その面談では、あくまで社内の人なのでeMCの資格を取得する際に学んだようなカウンセリングとは少し異なりますが、毎月誰かしら来てくれます。
内容は残業自体についての場合もあれば、人事にモノ申したい!といった方、私生活のこと、不眠についてだったりと、本当にさまざまですね。あくまで任意なので強制ではありませんが、リピーターの社員もいます。
「今はもう一人の女性社員と2人で一緒にやっていますが、正直なところ、社内でできることはこのくらいなのかなって感じているところなんです。やっぱり社外資源を繋いでいくというのが本来の在り方じゃないかなと感じていまして、外部EAPを利用してもらったり、通院してもらうように繋いでいくことが必要じゃないかなと。なので、今後の展望としては、健康経営推進室として、そういった社会資源へ繋いでいき、メンタルヘルスを崩される方やそれ以外の方も含めて、健康増進を図っていければと考えています」。
メンタルヘルスは社会資源と繋いでいくことが大事だと思う
まさか自分がうつ病に
小見さんはこれまでに自身がうつ病となり休職、そして退職せざるを得ない状況まで陥ったことがあります。
「12年くらい前ですかね。昔は自分のメンタルヘルスケアなんてまったく考えておらず、若かったということもあって、多少寝なくても大丈夫だろうくらいに考えていました。当時の会社では外国為替の担当をしていて、毎晩終電で帰って、翌朝6時にはニューヨーク市場のニュースを見て……という感じで、だいたい4時間睡眠でしたね。それが蓄積していくと次第に眠れなくなっていき、うつ病を発症してしまいました。
周りは同じような生活サイクルでも大丈夫だったんですが、周りができているからといって自分も同じとは限らないというところに気づきました。最初は自分が会社に行けなくなったときでも、『これはメンタルヘルスを崩したんだ』っていうことに気づきもしませんでした。眠れないな、という状態が半年以上続いていて、病院に通い始めてから『そういえばあのとき、単純な計算もできなくなっていたな』と、認知機能に障害が出ていたことを知りました。
その頃には、たぶん1時間も寝ていなかったと思います。典型的なうつの症状が出ているのに、恐ろしいことに自分の危機的状況に気づけなかったので、回復するのに結構時間かかりましたね。最終的にもとの会社には復帰できませんでしたが、その結果、今の会社に入ることができました」。
メンタルヘルスを崩す前の
防波堤になれればいい
自分自身の状況に気づくことが困難だったという小見さんですが、主治医の先生からの勧めがきっかけでEAPの世界に巡り会いました。
「だいぶ回復してきた頃に主治医の先生から再発防止のために何をしていくかということについて話し合っていたんですが、まずは自分がどういう状態だったか、メンタルヘルスについて勉強してみたらどうかと言われまして。そこで自分でも調べてみたらEAPというものを知って、勉強することに決めました。
実際にカウンセリングを学んで衝撃を受けたことは、[抵抗]についてでした。自分自身も休職中に通院もままならなかった時期があったので、もしかしたらあのときの自分って[抵抗]が働いていたんじゃないかと、ストンと腹落ちした気がして。思わず先生のところに『自分が通院できなかったのは抵抗が作用していたからだったのでしょうか?』と確かめに行きましたね。
一番辛かったですが、一方で、そんなことが会社を辞める事態にまで至ってしまうんだな、と振り返ることができて、もしかすると自分以外にも復職に失敗する人はそこが原因となっているのかもしれない、とも思いました。
今、私は復職支援には携わっていないですが、社員がメンタルヘルスを崩す前の予防として、少しでも防波堤になれればなと思っています。ただ、社内面談は任意なので、もしかするとある程度は大丈夫な人が相談に来てくれているのかもしれない、と最近は思っています。本当に手を差し伸べなければいけないのは、『相談なんかしなくてもいい』と思っている人なのかもしれません」。
スキルは活かし方次第
「私はたまたま人事部にいて労務関係やストレスチェックが仕事ではありましたが、例えば、そうでなくても上司という立場で部下の悩みを聴いたり、家庭内や子育てにおいても、話を聴くという技術は、社会生活のいろいろな面で役に立つものだと思います。
私の子どもが1~2歳くらいの頃、歯磨きを嫌がるもので、それを怒ったりしていたんですが、EAP講座の先生に相談したら、『小見さん何を勉強してきたんですか! それで2歳児に伝わると思っているんですか!』と言われてしまって、そこでハッとしました(笑)。叱るのではなく、子ども相手であっても[傾聴]だと。そんなところにもカウンセリング技術は活きるんだな~と。
なので、身につけたスキルは活かし方次第なんですよね。どんな場面でも、人と接する以上は使えるんだろうな、と思います」。
印象深かったエピソードを話す小見さんは、柔らかな笑顔でちょっと嬉しそうです。家庭ではいいパパで、人事部では『小見さんに聴いてほしい』とリピートしたくなる温かい存在に違いありません。一つひとつを丁寧に誠実に。小見さんだからこそできる支援を今後も広げていくのでしょう。
優しいパパに間違いない笑顔!