山口 幹生
Mikio YAMAGUCHI

BPO会社の取締役を務めていた山口さんが、カウンセラーとして独立開業をしたのは2年前のこと。独立前、独立後、そして今…。感じていること、考えていること、そして、カウンセラーとして大切にしていることとは、どんなことなのでしょう。

〈Profile〉eMC2021年取得、東京都在住。2020年より個人事業主としてカウンセリング(メンタルクリニックでのカウンセリングや社外メンター含む)、人事系コンサルに従事。朝のゆるいジョギングが日課。

年収は激減したけど
やりがいは全然ある

 リカレントで学んでいたときは、BPO会社の管理部門で取締役を務めていた山口さん。実践クラスの終了を機に退職。eMCの資格取得を経て、2年前にカウンセラーとして独立開業し、「Mental Progress」を立ち上げました。
「現在は、週2日メンタルクリニックのカウンセラー、週3日SNSの相談員、週1日企業の社外メンターをしています。また、不定期で企業から人事系の相談や、個人契約のカウンセリングを行っています」。
「独立して? 年収は激減したけど、やりがいは全然あります。それまで会社ではずっと管理部門をやってきて、自分がやりたいことをやるというよりも、ずっと縁の下の力持ち、という感覚でしたので。ダイナミズムというか、大きな動きみたいなものはありませんでしたね、営業分野と違って、正直あまり面白みを感じていなかったんですよね。
 それが今は、自分が商品で自分を売っているようなものなので、自分で考えて思う通りにやっています。頑張って限界がすぐ来る世界じゃなくて、頑張れば、自分の可能性をどこまでも追求できる。当然、リスクはたくさん背負い込みましたので、あまり人にはおすすめはできないですけど(笑)、自分的には満足している感じですね。
 今58歳なので、辞めなければそれなりのサラリーと、再雇用で65歳ぐらいまではいけるかもしれなかったけど、企業の中にいるとなかなか成長できないと思って。だから年甲斐もなく夢を追いかけたんです。失敗したら『それ見たことか』みたいに言われるかもしれないけど」。
 その一歩を踏み出すことに迷いはなかったのでしょうか?
「無計画でドンって一歩踏み出せる人間でしたね、昔から。だからそんなに大げさには、自分の中では捉えてはいませんでした。大学生の頃から一人で海外に行ったり、新卒で入った会社を10年で辞めたりしたときも、次を探さずに辞めて、1年間好きなことをしたりとか(笑)。多少のストレスはかかりつつも、割とスッといけちゃう感じでしたね。
 その背景は、承認欲求だったかもしれません。何か人と違った自分でいることで認められたい、っていうのはあったと思います。3人兄弟の真ん中だったので。最近はずいぶん自己受容ができていると思うし、がむしゃらに頑張らなきゃ、っていうのもなくなってきたけど、昔は自己肯定感が低かったと思います」。

学びを決めたときには
独立を考えていた

「大学生の頃からですね、心理学を本格的に勉強し始めたのは。最初は消費者心理を分析して販売促進に繋げる広告をやりたかった。新卒で入社した会社では広告の部署に配属されたんですけど、大きな企業だったので、その後は事務企画とか、いろんな企画部署を転々として10年働いて退職して、1年休んで、次に就職した先がITベンチャーで。
そこで、管理部門に入り、そこからメンタル不調の社員の面倒を見るようになって、これまで学んだ心理学やメンタル疾患に関する知識が現場で活用できるようになりました。そのときの産業医の先生が同い年で、酒飲み友達。その先生と一緒にメンタル不調者の対応をしていた期間が長かったんですよね。
 リカレントで学ぼうと思ったときには、もう独立する気持ちはありました。『退職した』と言ったら、リカレントで一緒に学んでいた人たちはビックリしていましたけど、自分の中では気持ちは固まっていたんですよね。
 リカレントでは、ずっと付き合いを続けられる仲間ができたのが一番の財産だと思いますし、この関係を大切にしたいですね。それとロールプレイですね。教科書に書いてあることは知っていることが多かったし、傾聴という言葉も知ってはいたけど、いざ実践でロープレをやってみると、なかなかうまくいかないものだな、と思いました。そういった意味では、傾聴を実践しながら学べたのは良かったと思います」。


頑張れば、自分の可能性をどこまでも追求できる

カウンセラーとして
大切にしていること

「やっぱり、傾聴がしっかりできないと、ラポール形成が絶対に無理なんですよね。ラポール形成ができないと、なかなかうまくいかない、こちらの言っていることがクライエントの心に響かない。傾聴・受容・共感、これはマストだな、というのを実感しています。
 メンタルクリニックではラポール形成に失敗すると、カウンセリングがそこで終わってしまいます。クリニックでの初回は患者さんがカウンセラーを見定めるんです。初回のカウンセリングの後、受付で他のカウンセラーにしてくださいと言われることも全然ありありの世界ですからね。最初の50分でラポールが形成できなければ、次のカウンセラーさんを探されてしまうということもあるので。実際、最初の頃はそういうこともあったので、しっかり傾聴してラポールを形成することは本当に大切だと思っています。
 最近は、脳神経科学をベースにカウンセリングを組み立てていて、櫻井武さんの本をよく読んでいます。感情とか心が脳内ではどういう仕組みで生まれてくるのかということが書かれていています。インテークからカウンセリングを行う中で、思考の変容と行動の変容を脳の仕組みで説明すると、前向きな思考を促しやすいのでとても役立っています。特に、不安が強い患者さんやクライエントさんには不安のメカニズムを説明して不安の意味を理解していただくと、不安を糧に問題を解決しようという意識を持っていただくことに繋がります。
 また、ABC理論をベースに感情と脳の記憶の仕組みとの関連をクライエントさんに説明すると、感情と思考の関係を理解できるので、認知行動療法に結びつけることが容易になることも何例かありました。もちろん、高校生、中学生に対しては難しい言葉を使わずに、相手に合わせながら伝えていますが」。

本能のままに進化していく

「これから先は、もっと直接契約のカウンセリングを増やしたいなと思っています。業務委託契約だと、委託料が安いから貧乏暇なしになってしまうので、直接のクライエントさんと契約を増やしたいというのが一つ。
 あとは、企業さんとの関わりは続けたいと思っています。今は、主にメンタリングになります。メンティーと話す内容は多岐に渡るんですけど、自分の企業経験からアドバイスをしていますが、人事の方と会社の経営などのお話もできるチャンスもあるので、組織作りとか社員の育成とか、そういう形で企業との接点も持っていきたいと思っています。
 心理カウンセラーと、企業に対す人事系のコンサルという接点を持ちながら、2本立てで食べていけるようになればいいかなって思います」。
 山口さんにとって、大切にしたいこととはなんでしょう?
「まず成長・進化すること。そして収入と家族を含めた人間関係かな、大切にするものはね。月並みですけど。進化って、よりよく生きたいという人間の本能的な欲求から生まれてきているので、本能に従ってこれからも進化していきたいですね」。