髙野 眞喜子
Makiko TAKANO

障害者施設での仕事以外にも、親の会やクリニックの自助会でもパワフルに活動をする髙野さん。娘さんの不登校や発達障害、カウンセリングを受けたことをきっかけに、親としてしなければいけないという思い込みから解放され、さらなる活動の幅を広げていきます。

〈Profile〉eMC2022年取得、神奈川県在住。『ここわサロン』運営、夫・義母・25才娘と息子の家族、家族との関係で人生観が大きく変わり、カールロジャースとの出会いで指針を得ました。これからです!

不登校の娘をなんとかしたくて

「2021年から障害者施設で生活介助の仕事をしています。もともと就労移行支援センターで働きたいと思ってましたが、家の事情でフルタイムでは働けず、週2、3回勤務の仕事はなかなか見つからなくって。それで、若干違うんですけど、障害者施設で働き始めました。それと同時に発達障害や不登校のお子さんがいる親を対象とした親の会を始めました。それと、2022年からはメンタルクリニックの自助会にも参加しています。

 心理学を学ぼうと思ったきっかけは娘ですね。娘が今、24歳なんですけど、小さいときから『育てにくいお子さんですね』って幼稚園の先生から言われたこともあり、小3で不登校になりました。その当時は全然知識がなかったので、私としては娘を学校に行かせたいって思いばかりができてしまって…娘が14歳のときに発達障害ということがわかりました。
 二次障害が起きて鬱っぽくなってしまうこともありました。そういう経験があるなかで、行き渋りやひきこもり気味の方向けの当事者会を始めたんですよ。それは、知人の男子大学生から居場所がないからやってほしい、と言われたから始めたんです。そこには10人弱来ていたんですけど、娘のこともあって、わかっているつもりだったんですが知識がないこともあり、なかなか上手くいかなくって。
 そこから心理について学びたいなって思いました。ちょうど知り合いでリカレントでキャリコンを取った人がいたので、その人の紹介でまずキャリコンを取り、勉強をしていくなかで、EAPのことも知ったので、そちらの勉強も始めました。自分の知らない世界だったので、カール・ロジャーズの受容・共感・自己一致の考え方を聞いたときはすごい衝撃を受けました。それで、もっと勉強がしたい!という思いが強くなった感じですね」。


自助グループで活動しています

実際にカウンセリングを受けて

「EAPの勉強をして、自分自身と向き合うことができました。学んでいるときに途中で自分自身がわからなくなって混乱してしまったときがあって、リカレントの先生にお願いをしてカウンセラーの方を紹介してもらいました。
 カウンセラーの先生に、『私のクライエントは髙野さんであって、お子さんは私のクライエントじゃないから、髙野さんの幸せを考えていきましょう』と言われて、すごく気が楽になったというか。娘をどうにかしないといけないと思っていたので、私の問題と子供の問題とを分けて考えられるようになりました。
 自分が今まで子育てをしてきたなかでいろいろ感じたことや、上手くいかなったことも、間違いではなくて、自分自身が成長できる糧になった、いい経験を積めたなって思えて。
自分と向き合っていくなかで、専業主婦だったことに対してコンプレックスがあり、何も社会に触れてなかったというか。でも、そういったことも、ある意味キャリアだって思えたんで、自信を持ってやっていこうと思いました」。


ガーデニングも好き

傾聴や共感の大事さを実感

「あと、学んだことで一番変化を感じたのは、他者理解ができるようになったことですね。自分にとって正しいと思ったこととは別な考え方があると気づきがありましたね。特に、子供たちとの関わり方ですね。娘もそうですが、息子は自分と似ているからわかっていると思うことが多かったんですが、17,18歳になったときに難しさを感じて。ああ、全然わかってなかったなと思いました。子供たちへの接し方、言葉のかけ方あたりは変わってきたなって感じます。
 娘の不登校や息子の反抗期も経験をして、子供たちを通して他の子供たちをみる機会にも恵まれました。同じように辛い思いをする他の子供や親がいるっていうことに自分自身、目を向けられたというか。そこから親の会をやったり、自助会に参加したりとか、他の人に目を向けることができたのが大きかったなって思います。
 今、障害者の方の生活支援をしていますけど、最初に言われたのが、介助よりも一番は傾聴ですよ、と。まさしくそうだなって、傾聴が人と関わる上で7、8割方大事なことだなって思います。体力的には大変なところもありますけど、すごく楽しくできてます。
 自助会でも本人が苦しんでいる人も多いけど、子どものことで辛い思いをしているお母さんとの出会いもあって、そこでも傾聴っていうのがすごく大事で役に立ってます。相手の話を共感して聴くことで一緒に悩みに向き合えるようになりました。自分の悩みと近い人と関わることができて、私自身、もっともっと勉強したいという気持ちにもなります。
3年ぐらい前からキャリコンの勉強を始め、今は64歳なんですが、60歳を超えて自分の人生に大きな変化があって、その変化自体がすごく楽しいって思えますし、娘のことで本当に辛い思いをしてきた時期もありましたけど、それも今に活かされているなってすごく感じます。
娘が不登校だったとき、学校に行くのは当然、学校に行かせることが自分の役割だと思ってたんですよ。よく、娘に『なんで学校行かないといけないの?』と言われたとき、私は『今の時代、日本に生まれたら学校に行かないといけないんだよ』って言ってたんですよ。親の会をやっていますが、今のお母さんたちの悩みは悩んでいた頃の自分と同じで、どこか学校に行かせないと不安だと話す方が多いですね。お母さんが子どもに対して本当はどう思っているのか、学校に行かせたいのか、子どもにどうなってほしいのか。同じことで悩んできた私が偉そうなことは言えないですけど、お母さんの気持ちも大事にしつつ、子どもの気持ちにもお母さん自身が目を向けられると楽になるなって思います。時代が変わって、学校の支援のあり方や学校の選択肢は増えて、発達障害に対する理解は増えていますけど、親が思う子供の将来の不安は変わらないなって」。

地域に根ざした活動を

「実際に始めようとしているのは、自宅のリビングを全面改装して誰でも気軽に来れるようなサロンを開こうと思っています。自宅近くにメンタル不調の人が気軽に行けるカフェがあったんですけど、主催の方がご高齢でつい最近閉じてしまって。地域に住む方がお茶を飲みにきたり、娘は手先が器用なので、作ったものを販売したりできるアンテナショップにもなればなって思ってます。
 あと、民生委員の活動を始めました。まだ始まったばかりですけど、子どもたちの登下校の見守りをしているので、そこでまずは自分の顔を知ってもらえたらなって。そこから子育てや介護に関して地元で活動していきたいなって思っています。そう考えられるようになったのは、リカレントで学んだからだと思っているので、勇気をもらえましたね。
 せっかくなので、キャリコンの資格を活かして小学生、中学生へのキャリア教育に携わっていくことも考えています。今は新卒で就職をしても離職率が高いと聞くので、子どものうちから自分がどんな人間なのか、自分で将来のことを考えるなど、進学以外の視点で考える機会があったらいいなって思います」。
さまざまなビジョンを描いている髙野さん。傾聴を大切にしながら、地域での活動の幅を広げていくでしょう。

自宅のワークスペースにて