鈴木 充
Mitsuru SUZUKI

数年前に休職した経験を活かし、誰かの役に立ちたいと思いメンタルヘルスの学びを始めた鈴木さん。身体の健康だけでなく、心の健康にも良いと趣味として始めた登山にすっかり魅了され、今では登山ユーチューバー・講師としても大活躍中です。

〈Profile〉eMC2020年取得、愛知県在住。技術系アウトソーシング企業の事業所責任者。妻・21歳娘の家族、趣味はソロ登山とYoutubeで登山動画の配信、ユーザー数280万人の登山アプリYAMAPの元安全登山アンバサダー。

心の不調は誰でもなる
貴重な経験

アウトソーシング会社に勤める鈴木さんは、数年前に事業責任者に就任しました。
「すべてが新しいことの始まりで、プレッシャーやストレスで知らず知らずに自分自身を追い込んでいたんでしょうね。自分はストレスに強い人間だとばかり思っていました」。
 新しい役割と環境下で必死に奮闘する日々のなか、あるとき心に不調をきたし、半年間休職することになりました。
「メンタルヘルスは心の弱い人がなると考えられがちですが、実際は急激に環境が変わるなどの強いストレスを受けたり、小さなストレスを慢性的に受け続けることで、心に不調をきたすこともあります。誰でもかかる心の風邪みたいなものかなって思います。
休んでる間には精神科に併設されたリワーク施設に2ヵ月間通い、カウンセラーの方にもお世話になりました。いろいろな出会いもあって、とても貴重な経験をしました。このときほど、自分と深く向き合ったことはありません」。
 どんな人でもメンタルヘルス不調になるということを身を持って体験した鈴木さん。「同じことを繰り返したくない、他の人にも自分の経験を役に立ててもらえたらいいな」と思ったことが、リカレントで学ぶきっかけとなりました。

わかりあえるではなく
わからないのが当たり前

 心に不調をきたす以前は、『自分ばかり頑張っている』、『自分はしんどいのに周りは助けてくれない』等、被害妄想も多かったそうです。
「人間関係は、夫婦であっても、親友であっても、生まれた時から見ている我が子であってもわからないのが普通なんです。相手と自分はわかりあえるではなく、わからないのが当たり前、自分も相手の話しも聴いて、声かけてコンスタントに会話を続けていかないと、人とはわかり合えない。
 以前は[自分で学んでわかれ]という考えでした。今は、わからないから、相手に敬意をもった態度で接する。わからないから相手にわかる言葉を話そうとする。わからないから相手にわかるように伝え方を工夫をする。相手のすべてを知らなくたって仲良くはできるし、認め合うことはできるということに気づきました。
 今は良い意味で[いいかげん]でいられていると思います。自分を追い込むのではなく、俯瞰で物事を考える。逃げてもいいよと自分の逃げ道を作る。自分が辛いと他人も助けられないですからね」。

山登りが楽しくなった

「復職してEAPを学び始めたと同時に『何か変わりたい!』という衝動に突き動かされました。今までは仕事しかしておらず、休日も家の中で過ごし、趣味もなかったので、何か趣味を持ちたいなぁ、と思い始めました。そんなとき、ちょうど『低山ハイクの健康効果について』特集していたTV番組を観たんです。岐阜の金華山が家から近かったこともあり、ふらっと行ってみようかな、と軽い気持ちで登ったのが始まりです。
 2~3回登ったあたりから、山登りが楽しくて、登山道具も欲しくなって、他の山も登ってみたいと思うようになって、次々と山の魅力に取りつかれていきました。登山をしていくにつれ、登山がメンタルヘルスにとても良いことにも気づきました。

八ヶ岳連峰の最高峰・赤岳(2,899m)山頂にて

ソロ登山の魅力

 私は最初から一人でずっと登っているので、ソロ登山を人にも勧めています。普段生活をしていると、家族・職場・友達と常に誰かのペースに合わせて生きていますが、ソロ登山は一人で、自分のペースで誰にも左右されることなくマイペースに登ることができるからです。
 また、登山はちょっとしんどいのも魅力です(笑)。ちょっとしんどいのが良い理由は、人は常に頭の中で何かを考えて生きています。しんどくなると日常生活のモヤモヤが頭の中から消え、しばらくすると、しんどさから心地良さに変わります。その時間が4~5時間続くことによって何も考えない時間ができるということが、リフレッシュに繋がり、脳を休めることができるのです。
 また、森林セラピーをご存知ですか?
樹木が「フィトンチッド」という物質を発散し、外的である細菌やウイルスなどから身を守る殺菌力を持っています。フィトンチッドには、血圧の低下や脳活動の沈静化などのリラックス効果があることが確認され、さらに免疫への効果があることが確認されています。
 木々の中に立っていると、何もしなくともそれだけで心癒されますが、さらに人間に備わっている5つの感覚「五感」を刺激することで、日々のストレスからも解放されるのです。
 人間はもともと自然の中で生活していましたが、現代の人工的な環境での生活は、本来の人間の生活とは違い、大変なストレスを与えるといわれ、森林セラピーはこのような環境からのストレスを改善するという点からも大きな効果を持っており、人々の心を癒すといわれています。森の中や周辺で耳や目、鼻、手足、味覚等の五感のアンテナを研ぎ澄ませて、木々の息吹や風を感じることで癒されるのです」。


ソロ登山の魅力は尽きない

驚きの展開

EMCAで仲間たちにメンタルヘルスに登山が良いことを勧めていたところ、「YouTubeをやってみたらいかがですか?」と背中を押されたので、軽い気持ちでYouTubeを始めてみました。
 見よう見まねで始めたところ、1年で登録者1000人越え、channel登録者数2000人を超えた頃、新たな驚きの変化が起きました。『YAMAP』という有名な登山アプリから、『ユーザーに安全登山を啓蒙する安全登山アンバサダーになってくれませんか?』と依頼を請けたのです。これには驚きでした。もちろん喜んで安全登山アンバサダーという役割をお引き受けしました。
 メンタルヘルスで人生が終わりかけていたのに、そこから再発防止するにはどうしよう? そのためには勉強しなくちゃいけないな、勉強するだけじゃなくてセルフケアもしなくちゃいけない。そして、登山が大好きになって、その魅力をどんどん周りに伝え始めたらどんどん広がって、YouTube登録者は5700人に! 今では登山していても初めて会う方から声をかけられるようになりました」。
 ユーザー数280万人を超える登山アプリの『YAMAP』でアンバサダーに就任するということは、山への想いや考えと、発信するメッセージの影響力を評価されたことになり、とても名誉とステイタスのある素晴らしいこと!なのです。すごいですね、鈴木さん。

登山で皆を健康にしていきたい

 「最近、EMCAの支部会でも「心も身体も元気になる!ソロ登山のススメ」という講座を開き、山とメンタルヘルスの関係についてプレゼンテーションもしました。皆さん、熱心に聴いてくれましたよ。
 登山はハードルが高いと思われていますが、その効果は絶大です。登山をまだしたことのない方にも『登山に行きたい!』と思ってもらえるよう、YouTubeだけでなく、皆で登山をする会などを企画して、その魅力を伝えていきたいですね。
一回コケても人生やり直せるもんだな! 心も身体も鍛えて、皆さんも健康になりましょう!」