野村 美紀
Miki NOMURA

障がい者の就労支援と英語でのオンラインカウンセリングをしている野村さん。大学院時代をアメリカで過ごし、そこでのさまざまな経験が今の野村さんを形づくっています。

〈Profile〉eMC2022年取得、岐阜市在住。障がい者の就職支援コーディネーター、英語カウンセラー。好きなことは料理、自然や動物に触れること。

アメリカで心理学の道に誘われて

「障害者就労支援は、障害者の方の職業相談、就職面接や会社見学の同行、就職後の定着訪問などをしています。英語のカウンセリングは、主に日本の学校で英語を教えている外国人非常勤講師の方が対象です。文化の違いからくる対人関係の悩みなどが多く寄せられますね」。 明るく朗らかに身振り手振りを交えながら話す野村さん。大学院時代をアメリカで過ごしたこともあり、国際的な香りが漂います。 「高校を卒業後は、英語が話せるホテルのフロントデスククラークになりたい! と思っていたんですが、大学の観光学の講義で学術論文を読む機会があり、感銘を受けた研究者の元で学ぶためにアメリカに渡りました。大学院の修士課程で観光学を学びながらもホテルで働く夢が諦めきれず、必須ではない学部の講義を取ることでインターンとして念願のフロントデスククラークを経験することができました。  そのときにホテルのお客様を眺めながら、『どうしてこの人は今日このホテルで休暇を取ることに決めたんだろう?』『あの人はあのお土産を誰のために買ったんだろう? あげる相手によって購入までの所用時間や支出する額も変わるんだろうか? もしそうなら、何がそうさせるんだろう?』と、人の意思決定の基準とその要因が気になったんですよね。それを心理学の先生に話したら心理学の道に誘われて、観光学研究科を修了後、心理学の研究科に入りました。  ただ、入った大学院の心理学は『応用心理学』といって、一般的に想像するような心理テストやカウンセリングなどを行う心理学ではなくて統計学ばっかり。入る専攻間違えたー!って思いましたね(笑)」。


今でも交流が続いているフレンドシップファミリー

マイノリティを感じて

 ひょんな好奇心から心理学の道へと進んだ野村さん。大学院時代、障がい者職業リハビリテーションセンターでのアルバイトで、事故で車椅子生活になったレストランの調理師の方に、仕事を辞めるのではなく、車椅子に座ったままでも使用できるよう、キッチンのリフォームの提案と実施込みで、職場復帰を全面支援するところを目の当たりにします。それで今の障がい者支援の仕事や職業相談の仕事に興味を持ちました。そして、社会的に「マイノリティ」である人々への支援に強く興味を持つきっかけと出会います。
「実は私、大学院時代に上半身に大火傷を負って、通院しながら勉強をしていた時期があるんです。新しい大学院はシカゴの街中にありました。家賃が高く当時学生でお金もなかったので、治療中の身にも関わらず電車代節約のために往復4時間かけて、徒歩で通学していました。  それに加えて、大学院のとある講義では、20ページくらいある論文を5本読んで批評文を書くことと、新しい研究テーマを必ず1つ考えてくること、という宿題が毎週あり、他の講義と修士論文、そしてアルバイトで、それはもう地獄のような大変さでした(笑)。馴染みのない土地で、ほとんど知り合いもいないなかでの2年間の治療と学業、仕事の両立も大変でしたが、どれだけ治療しても火傷の跡が消えないとわかったのは、辛い経験でした。
 この頃、自分が日本人で英語が母国語ではないというマイノリティだったこと、世の中には病気や事故によって外見にコンプレックスを抱き、思い悩んでいる人たちの気持ちに、自身の経験を持って共感できたことは、それからの私の人生において、とても大きな意味を持つことでした」。


自然豊かなUSAウィスコンシン州に長い間住んでいました。通っていた大学院の冬景色

EAPを学ぶきっかけ

「帰国後、しばらくしてから、『とにかく自分はカウンセラーとして生きていこう』と思い、キャリアコンサルタントと公認心理師の資格を取りました。合格したら何か新しい道が開けるんじゃないか、と思ったのですが、意外と何も起こらない(笑)。  模索しているうちに、相談業務のその先に行きたがっている自分に気づいたんですよね。それでEAPという資格を知ったのですが、本格的にEAPを学ぼうと考えたのは、ハラスメントへのアプローチ方法を知りたいと思ったことがきっかけでした。ハラスメントは私も以前受けたことがあったし、人がされているのを目撃したこともありました。
 当時は上司に掛け合ってみたり、助けようとしたり、いろいろやってみましたが状況は変わらずで、それにすごくガッカリしたんですよね。パワハラで会社を辞めたいという相談がきたり、うつや適応障害になった方の相談も毎日のように受けている。会社に乗り込んで行って『パワハラはやめましょう!』って言うわけにもいかないし。EAPを学ぶことで会社へアプローチができるかもしれない。そう思ってeMCとCEAPの資格も取ったんです」。

学んだたくさんの大切なこと

「実は、自分は涙もろいところがあるから、カウンセリングを人にするなんて無理なんじゃないかと思い、あえて避けているところがあったんです。でも『訓練でできるようになる』とリカレントで教えてもらい、自信を持つことができました。
 また、気の利いたことを言うんじゃなくて、相手の気持ちを傾聴することが大切なんだ、ということも学びました。今まで『良かったですね!おめでとうございます!』と就職が決まった相談者さんに返していた言葉を『どんなお気持ちですか?』って返すようにしてみたら、『就職が決まったことは嬉しいけれど、彼女と遠距離になっちゃうから一筋縄には喜べないんですよね』なんて話が返ってきたりして。『一般的に喜ばしいとされている出来事が、本人にとって必ずしもおめでとうとは限らないんだよな』って実感しています(笑)。
 それと、『自分独りでなんとかしよう』と思い過ぎないことの大切さも学びました。友人から何度か『食料がなくて困っている人に、Mikiは魚をあげちゃうタイプ。そういう場合は、魚の釣り方を教えなさい』って言われたことがありました。その人が今後独りでも問題を解決できるようになるための支援をしなければいけないところを、私がやってあげなくちゃって思い込んでいたんですよね。  ハラスメント問題のことも、以前は相手の問題に自身も巻き込まれてしまうことが多くて……。相手との距離が近過ぎたんですね。リカレントで人と適度な距離を置いて関わる技法も学んだことによって、間接的にできることをやるというように、関わり方を変えることができています。
 また、同じ社会人の仲間と一緒に学べたということがとても良かったと感じています。学生の頃に学校で学んでカウンセラーになる、というのもいいとは思うのですが、社会人になってから、お金も時間も勉強以外のことに使おうと思えば使えたと思うのに、『この講座を受けよう!』と決めて、みんなが一つの場所に集まったということに、純粋に『すごいなぁ〜!』と感激しました」。

人生に無駄なことはない

「やりたいことがたくさんあります! まずはマインドフルネスストレス低減法(MBSR)の講師になるため、現在学んでいるところなんです。障がい者施設を建てることや、HPを作って英語と日本語の両方でカウンセリングとマインドフルネスを教えること、みんなが幸せに健康で過ごせる会社も作りたい! 自分の目標を忘れないよう紙に書いて壁に貼っています(笑)。
『where there is a will,there is a way.(意志があるところに道は開ける)』という言葉が好きで、どんなに不可能と思えることでも、思い続ければ必ずそこに道は作られると信じています。辛い経験も絶対意味があると思ってその都度乗り越えてきたけど、それって後から振り返らないとわからない。 『激しい振り子のような人生だね』って幼馴染から言われましたが、私はもう一回人生を歩むとしても同じような人生をきっと選んでしまうと思う。辛さも激しい分、喜びも最大級だから。大火傷して死にかけた経験や、それ以外のたくさんの辛かった経験も、すべて自分をカウンセラーの道へと繋げてくれた。だから人生に無駄なことはないな、と今思えます。
 これからも私は何らかの形で悩む人を減らしたい、今ある人生を精一杯悔いのないように生きてほしい、人生を楽しんでほしい。そういう気持ちで、できることをやっていきたいって思っています」。


1年ほど前から始めた趣味の登山