毛塚 恵子
Keiko KETSUKA

就労移行支援事業所で障害を持つ方の支援をしている毛塚さん。「精神疾患と仕事との両立で悩む方のサポートがしたい」、という想いを抱き、半年(2ヶ月)前に新たなスタートを切りました。毛塚さんの想いの源と、その先に見えているものとは…?

〈Profile〉eMC2021年取得、千葉県在住。就労移行支援事業所 就労支援員。夫と二人住まい。趣味は銭湯、いけばな、お茶飲み、甘味処でまったりすること、散歩。

ある日突然「ポン」と糸が切れた

 株式会社クラ・ゼミの就労移行支援事業所『アクセスジョブ』で、精神疾患や発達障害、高次脳機能障害といった障害を持つ方たちの支援員をしている毛塚さん。転職して半年。リカレントでの学びを活かして、一人ひとりの利用者さんに想いを馳せながら支援計画を立てています。「精神疾患と仕事との両立で悩む方のサポートがしたい」。この想いのきっかけになったのは、自身の経験でした。
「当時、営業の仕事をしていたんです。仕事が忙しく過重労働の状態でした。さらに、結婚というライフイベントが重なったことがきっかけで、メンタル不調になってしまったんです。
 ある日突然、『ポン』と糸が切れたような感じでした。仕事をしていても文字が頭に入ってこない、思考が停止する。あらゆる音が過剰にうるさい。身体も鉛のように重い……。とにかく、しんどかったですね。私自身、精神疾患を持つ弟や友人が身近にいたので、『あ、私もそうなったな、これは休まなきゃダメだ』と、すぐにクリニックを受診しました」。
 自身の抑うつ状態に、自ら気づいた毛塚さんは、休職に入ります。
「休職してからはクリニックで治療を続けながら、カウンセリングやリワークを受けました。リワークプログラムには、今、思えば認知行動療法や対人関係療法が随所に散りばめられていましたね。カウンセリングやリワークを通して自分が回復していく過程を実感していくうちに、メンタルヘルスの分野への興味が湧いていきました。それで、『自分自身が経験したからこそ、精神疾患と仕事との両立で悩む方のサポートをしたい』、という気持ちが徐々に高まっていきました」。
 その後、体調と収入が安定するのを待って、毛塚さんの『新たな夢』に向けた『新たな学び』が始まります。


お散歩でリフレッシュ

学びを通して
経験が次々と紐づいていった

「リカレントでの学びを開始してからは、『ようやく繋がってきたな』、と思いましたね。自分の経験とリカレントでの学びが次から次へと紐づいていき、さらに学びを続けていきたい、という気持ちが膨らんでいきました。
 自分が精神疾患を経験したことにEAPメンタルヘルスカウンセラー養成講座で身につけた専門知識をプラスすることで、精神疾患で悩む方や、障害を持つ方の力になれたら……。それはとてもやりがいと意味のあることだろうなと思い、障害福祉や産業保健の分野などで活かしていきたい、という気持ちが強まっていきました。
 とはいえ、どこから入っていけばいいんだろう、ってチャンスを探っていたんです。そんなとき、たまたま従業員の健康をサポートする部署である産業保健の事務職のお仕事が見つかって。当時は何でもいいからとにかくメンタルヘルスに関わる仕事がしたい、ってずっと思っていましたから、『これはチャンスだ!』と、即応募しました。今ここで新しい世界に飛び込めば、きっと次に繋がって、何かが得られるという気持ちでした。思い続けたことでチャンスを引き寄せた、っていう感覚がありましたね」。
 産業保健での事務職の仕事を経て、毛塚さんは現在の就労移行支援事業所で、支援員として新たな道を踏み出します。「支援員としてスタートしたばかりなんですけど、利用者さんが何をやりたいのか、どういう思いを持って、どういう方向性で就職したいのか、ということに想いを馳せて傾聴するように意識しています。リカレントで学んだことが活きていると感じます。
 利用者さんと接する上では、心理カウンセリングの授業で学んだ、『人間は生まれながらにして成長や達成を目指す存在である』、という人間観を大切にしています。利用者さんに肯定的関心を持って、どんな些細なことでも、今できていることや本来持っている力に着目することを意識しながら、プログラムを考えていますね。
 昔の私だったら、もしかしたらD心理学的な、欠点や異常性に着目して、ここが欠けているからここの部分だけ指導しようとか、この部分をとりあえず補填するプログラムを組もう、ってなっていたかもしれません」。


甘味処でまったり

気づいた瞬間

 リカレントでの学びは、新しい道への扉を開いただけでなく、毛塚さん自身の内面の扉も開きました。
「きっかけは、授業でのカウンセリングのロープレ練習のときでした。クライエント役をやっているときに、私の手の所作とか身の構えとかを見た先生から、『相当な怒りを持っているんだね』ってアセスメントされたことがあったんです。それでハッとして。今までなんか抱えていた幼い頃からのモヤモヤして晴れないわだかまりは、全部『怒り』だったんだ、こんなに怒っている人生って何なんだろう、こんなに怒っていたらそりゃ身が持たないし、持たなかったよね、って気づいた瞬間でした。
 精神疾患に至ってしまったのも、それまで自分の感情をあまり大切にしていなかったからなんだな、気持ちを吐き出さずに本当の感情を閉じ込めていたからなんだな、っていうことにも気づいたんですよね。そのことをリワークで一緒だった友人に宛てて手紙を書いたんです。『私、小さい頃から今に至るまで、ずっと怒りに縛られていたのかもしれない』って。そう気づいて手紙にも書いたことで、自分の中でなにか浄化されたような、今までの怒りもふーっと抜けたような感じがしましたね」。
 自身の内面にある怒りに気づいてからは、周囲の方への関わり方も変化したそうです。
「リカレントで学ぶ前は、相手の欠点ばかり見ていたと思います。あの人これができていない、期待通りのことをやってくれない、って思って怒りを感じていたような気がします。でも今は、その人がどういう立場で、どういう興味があって、どう見えるのか。エンプティチェアじゃないですけど、その人の立場や椅子に座って見たとき、どうやって見えているのかを一歩踏み込んで見ていこう、と思うようになりました。だから、以前いろいろなところにアンテナ貼っていたお怒りポイントは、減ったように思います」。


趣味のいけばな

大切にしているものはB心理学

 経験に学びをプラスし、自己理解を深めてきた毛塚さんが大切にしているものとは?
「そうですね、やっぱりB心理学の、『人間は生まれながらにして成長や達成を目指す存在である』という考え方が大切だなっていうのは、ひしひしと感じます。この考え方を学んだことで、自分の意識も変わりましたし、利用者さんだけでなく、家族や周囲の人との関わりも少しだけ変わってきたと思います。
 精神疾患を抱える弟に対しても、今までは、これはできないだろうって値引いていたところが結構あったんですけど、今は、ここはできているんだから、というように、できそうポイントを探すようなことが増えてきましたので」。

欲張りかもしれないけれど

「次は、精神保健福祉士の資格を目指したいと思っています。取得したら現在の就労移行や定着支援に加えて、ゆくゆくは自分もお世話になったリワークのフィールドに挑戦してみたい、と思っています。あとは、これは人物像なんですけど、4つのケアと呼ばれる、1ラインケア、2セルフケア、3産業保健スタッフとしてのケア、4事業所外資源によるケア、どの領域においても精通したメンタルヘルスのサポーターになれたらいいなって思っています。
 そして、自分自身が仕事を通して倒れてしまったので、仕事で悩みを抱えている方たちをサポートしていければ、と思っています。EAPやメンタルヘルスカウンセラーの認知度をあげる活動も、仲間と一緒にしていきたいですね。この学びや活動が、どれほど世の中に有用かを、もっと幅広く知ってほしいと思います」。
「欲張りかもしれませんが」、と笑顔で語る毛塚さんの視線は、その先に進むべき道をすでに捉えているようです。