伊藤 伸之
Nobuyuki ITO
今後は、ガツガツというより、仕事と私生活と両立しながら穏やかに進めていきたいなぁという伊藤さん。積み重ねてきたキャリアのバックグラウンドと深い学び。そして、包容力のある人柄で。以前の職場の部下が今も相談に来るというのも、納得です。
〈Profile〉eMC2018年取得、愛知県在住。名古屋市立高校にてキャリアナビゲーターとして高校生のキャリア教育を行っています。趣味は資格取得と登山。
いろいろな資格を活かして
前職は大手製薬メーカーで、長年にわたる営業、企画から新人教育へとキャリアパスを歩んできた伊藤さん。セカンドキャリアとして、今はまったく畑違いの仕事、高校生を対象とするキャリア支援を選びました。
「これまででいろいろな資格を取ってきていたので、せっかくなので活かしたいなぁと思って、今の仕事に決めました。高校生へのキャリア支援という仕事では、資格だけでなく、前職で培ったスキルや人との繋がりがすごく活きていて、大きな武器になっているのかな、と思います。名古屋の市立の高校に常駐して生徒に対してキャリア教育やメンタルヘルスの相談対応を行っています。デスクのある拠点は一ヵ所の高校ですが、応援要請があれば、あちこちの高校に出向くこともあります。
高校にキャリアコンサルタントが配属されているというのは、そんなに例がないのかなぁと。スクールカウンセラーやキャリア支援アドバイザーだとか、そういう方々は常駐ではないんですが、我々は常駐。でも、立場は教員ではありません。なので、高校生にとっては話やすいのかもしれませんね。同僚も私も、民間のいろいろな企業で働いてきたバックグラウンドを持つ人が多いので、民間の仕事の仕方や採用面接のやり方を、具体的に教えられます。これから就職したり、専門学校や大学に進学する生徒たちなので、生徒から『面接練習してください!』と頼まれることも多いですね。メンタル不調の生徒もいますので、そういった生徒に対して、カウンセリングまでではないですけど、話を聴いています。
今は、メンタルヘルスカウンセラー、ファイナンシャルプランナー、キャリアコンサルタントの3つを武器にしていろいろ面談しています」。
そう話す伊藤さんは、優しい笑顔と穏やかな声。生徒達に慕われている様子が伝わってきます。
理論・理屈はわかってきても
「前の会社では管理職を長くやっていたので、部下から相談を受けることが多かったんです。心理面の相談もあり、鬱っぽくなっている子もいました。『こうしたほうがいいよ、気にするなヨ、頑張っていれば何とかなるよ』とか、どちらかというとアドバイスや激励ばかり。今考えると、サポートとは逆方向の働きかけをしていた気がします。
相談し終わったときに、釈然としないような感じの子も結構いたので、『自分が言ったことは正しかったのかな……もっと違う言い方があったのかな……』と、反対に自分が悩むようになってしまいました。特にメンタルの相談の場合は、そういうことが多かったです。
それでメンタルヘルスマネンジメントの資格を取ろうと。管理者なので、会社全体を考えていけるのは、組織へのコンサルティング的なアプローチが含まれる「1種」かなと思い、ラインケアの2種と1種を両方勉強して、取得しました。
ですが、職場におけるメンタルヘルスケアの理論や理屈はわかってきても、傾聴のやり方はメンタルヘルスマネジメント検定の教科書には具体的に書いてないことなので、『どういう話し方をしたらいいのかな』と思うようになりました。そこで、『実際に相談するやり方を学ばないといけない』と探し始めて、リカレントに辿り着いたわけです」。
理論から実践へ
「eMC格を取得して、人の話を素直に、丁寧に聴けるようになったのは一番の変化です。相談してくれる人が自ら答えを見つけられる促しができてきているかな、と思います。今の仕事でも、話をしっかり聴いてあげられていると思います。休みたいという生徒に対しては、何かしら生徒にも理由があるので、『休みたかったら休めばいいんじゃない?』と伝えることも。
就職で悩んでいたとしても、ちゃんと話を聴いてあげて、どういったことで悩んでいるのか、本人の今の気持ちや、就活や将来に対する考えや願いをしっかり理解できるまで、丁寧に話しを聴きます。まさに心理とキャリアを合わせたような相談援助なので、この資格の勉強をして本当に良かったと思っています」。
人との繋がりがないと
EMCAの全国支部会でも西日本・神奈川ブロックで2期連続で支部長を務めるという大貢献ぶり。伊藤さんは、とても人の繋がりを大切にしています。
「そうですね。会社以外での知り合いが増えてくると、会社以外の情報がすごく入ってくる。これは大きなことかなぁと思います。その人がまた他の人を紹介してくれたりもしますので、いろんな経験・職業の人たちと知り合うことができます。高校でのキャリア支援の仕事は、まさにそういった仲間との繋がりから紹介してもらったんです。今の職場の同僚たちもそれぞれバックグラウンドが違うので、話を聴くと、あぁそんなことがあるんだ、とか、新しい発見や気づきがあって、自分にとってすごくためになります。
人との繋がりがないと、なかなか自分の人生って膨らんでいかないよなぁっていうイメージを持っているので、いろいろな人と繋がっていける今の環境は、とてもありがたくて嬉しいですね」。
資格取得は登山と同じ
医薬品の登録販売者、販売士1級(リテイルマーケティング)、1種の衛生管理者、メンタルヘルスマネジメント1種、知的財産など、いろいろな資格を持つ伊藤さんですが、それが仕事に必要だからというだけではないようです。
「最初はちょっと空いている時間に資格を取ってみようかなって始めてみたんですけど、今は資格を取るのが趣味みたいな感じになっています(笑)。1つ取ったら、じゃあまた次は何を取ってみようかなって。そんな感じですね。
趣味といえば、登山も趣味です。時間があれば山登りに行きます。山はどこも辛いですよ(笑)。登っている最中は、なんでこんな辛いことやっているんだろうって思うんですけど、山頂に辿り着いて景色を見ると、清々しい気分になる。すると、また下界に降りたときには、やっぱりまた行ってみたいなぁって。
資格取得も登山と同じです。勉強している時間は苦しいんですよね。遊びたい、自由なことやりたいよ~って。そんな辛さと戦いながら勉強して試験日を迎える。けれど、この試験会場に行くっていうのが自分のなかではすごく楽しくて!!
両方とも最初は何かきっかけです。登山で登っている最中が、資格取得では勉強の時間。山頂に立つ、というのが、試験会場に行く時間。ドキドキワクワクです。山頂でご飯を食べるのが、試験中のイメージですね。これがすごく楽しいんですよね。もしも山頂が合否の結果をもらう場所だとしたら、次はもう嫌になっちゃうかもしれない。でも、合格通知をもらうのは、下山した後です。下山した後にゆったりと温泉に浸かるのが、試験の合格証をもらって安堵感に浸る……という感じですね(笑)。そして下山すると、また山に登りたくなるのと同じで、合格証書をもらうと、『あ、なんかまた次の資格取りたいな』って思う。『次は違う山に登りたいな』と同じで。登山と同じで資格取得も趣味。あれよあれよと(笑)」。
どこかでふっと
「これから? 今と大きく変えていくつもりは、今はないんです。仕事と私生活を両立しながら、穏やかに進めていきたい。これからガツガツと何かをというより、これまで経験して培ってきたことを、これからの自分の人生にもそうですし、周りの人たちの人生にもプラスになるような、そんな働きかけを水面下で、みたいな感じでできたらいいなぁと思っています。
あまり自分が前に出てきてガツガツというより、『気づいたら伊藤さんがいてくれたから、なんか上手くいったのかもしれない』なんて、どこかでふっと思い出してもらえるような、そんな存在になっていきたいんです」。
朗らかに笑う伊藤さん。資格取得を山登りと重ねたお話しは、とても響きが良く心に残ります。資格を勉強中の方々の励みになると同時に、ふっと伊藤さんのことも思い出すことでしょう。