石床 淳子
Junko ISHITOKO
大手企業の人事、秘書、そして人材コンサルティング会社で人材育成の仕事に従事。現在は独立し、積み重ねてきた 人脈を活かして、人材育成のコンサルタント、研修講師、カウンセラー、と多岐に渡って活躍しています。
〈Profile〉eMC2021年取得、東京都在住。人材育成コンサルタント。 夫、娘 チワプーと一緒。趣味 料理(作ること・食べること・呑むこと)。
EAP学びたいと思った
2つの理由
石床さんは長年ビジネス研修を行ってきて、近年、受講生との会話に「変化」を感じ、対応に迷うことがあったそうです。その変化を経営者の方と共有し、知ってもらいたい。それにはどうすればよいか。それが石床さんをEAPの学びへと駆り立てました。
「研修をすると終了後、受講生から質問をいただきます。例えば、『お客様からクレームがきました。どうやって返していいかわからない』とか、仕事のアドバイスを求められていたはずが、ここ10年くらい、話しているうちに泣き出す人がいたり、話す内容が始めとはだんだん変わってきたりして、私自身戸惑うことがあります。
これ、もしかして私が今までやってきた「コンサル」や「アドバイスをもとめられている」のではなく、いわゆる「カウンセリング」ということではないか? と強く感じ始めました。話を聴いてアドバイスはできるけど、それだけでは何かちょっと違うって思うし、EAPを学んだ今ならば相談者がメンタル不調になっている、とわかりますけど、その頃は何を言いたいのかわからない、何をしてほしいのかもわからない、それを理解するために重ねて質問をし続けていていいのだろうかと、私自身が迷ってしまい、不安を覚えることがありました。
長くコンサルティングを行ってきてある程度の自信もあったのに、今の私がこのまま対応してはいけない、相談者が抱えている問題は私では正しく解決はできない。何かコンサルとカウンセリングの間には境界線があるのだ、ということを感じました。そして、その境界線をしっかりと見極めるために勉強しようと思った。それがEAPを学ぼうとしたきっかけですね。
私のクライエント先は中小企業が多いのですが、社員の方にメンタル専門の対応が必要と感じることがあり、直接経営者にお会いして『受診させてあげてください』『専門家に診せてあげてください』とお願いしても、『いやいやそんなことない、石床さんが話、聴いてあげてよ、話しやすいんだからさ』と言われてしまう。それはやっぱりよくない、やがてはもっと悪くなって、やがて休職をせざるを得ないことになるかもしれない。そう考えたとき、資格がある人が、『これはちゃんと受診をするべきですよ』とアドバイスすれば、納得していただけるのではないか。そういう意味でも資格を取りたいと思いました」
石床さんは誠実さの塊のような人。透明感のある柔らかさのなかにも、背筋がピンと伸びた雰囲気が漂い、その真っ直ぐさが伝わってきます。
就職はバブルの時代
「就職はバブルの時代の証券会社だったんです。人事に入り、そこから秘書室に移って、副社長の第一秘書をやりました。その時代はパワハラがあってもそれは普通のこと、男女対応に差があってもそれが普通でした。『この仕事が一段落したら絶対辞めてやる!』と何度も思いましたが、忙しさや、そのなかでの達成感で結局辞められませんでした。自分でもよく生き抜いたなって思います(笑)
そのときに学んだことが今に繋がっていると思っています。良い意味でも悪い意味でも。証券会社や人材育成コンサルティング会社で学んだこと、経験したことは、現在、人材育成コンサルティング、ビジネス研修、カウンセリングの仕事をしていく上での基本になっています。今は、とても貴重な事を学べたと感謝しています」
今は企業で働く人に寄り添いたい
「今、企業人にはEAPが必要だと、とても強く感じています。企業で働く人に寄り添いたくて、数ある心理カウンセリングの講座の中からリカレントを選んだんです。企業の中で働くことの悩みは私自身、企業で働いた経験から共感しやすいですしね。
また、仕事に影響する悩みは職場とは限らず、家庭やプライベートにあるときもありますよね。その点でも、家庭を持ち、子育て、親の看取りをした経験を重ね、あらためて働く人の傷つく気持ちが実感としてわかるので、働く人の支援をしたいという気持ちを強く持っています」。
学びが活かされてること
「研修でグループワークをすると、たまにユニークというか、とんでもなく目立つ人とかいらっしゃるじゃないですか。私は、顔ではニコニコして、『チームで協力してね~』と言いながらも、『この人チームの足を引っ張ってる。どうしよう……』とイライラすることもあって、ストレスになることもありました。それがEAPを学んでみて、人間いろんなことがあって、その態度や発言になっているんだな、ということがわかりました。
私はちょっと勝気で多感なところがあるんですが、この人もいろいろなことがあって、この状態に行き着いたんだな、と思うようになりました。自分で冷静に気持ちを静められて、人を受けとめられるようになりましたね。相手の発言にいちいち心を乱されず、その人をそのまま認めることができるようになった。少し成長したな、と思います」
自分も動いていかなきゃ
自身の変化を感じながら学びを深めている石床さん、これから目指す姿としてどんなことを考えているのでしょう。
「健康そうに見える会社も実は表に出てないけど、みんな悩んでいます。実際に、いろいろな事情で去年契約更新をしなかった会社で、その時『先生お世話になりました』って皆さんからメールやお手紙をいただきました。
そのなかには、『これからが不安です』とか『今後何かあったらどうしたらいいのですか』という内容のものが多くあり、さらに驚いたことに、その内容を伝えてきた人たちの半数以上は、私にメンタル不調の相談に来ていない人たちなんです。ということは、相談できる人がいるだけで安心していた、窓口がなくなったっていうことで不安になる人がいかに多いか、ということです。
この実情を会社にどうやってわかってもらったらいいのかな、と考えます。確かにカウンセリングにはお金もかかるけれど、何かあったときに相談できる窓口がうちの会社にはある、これだけで社員の会社に対する信頼が強まり、安心して働けるということ。社員を大切に思っている会社と実感すること、そういうことを多くの経営者の方々に理解してもらいたいと考えています。 境界線を正しく理解することでカウンセリングとコンサルティングを使い分け、働く人たちに少しでも力になれたらと思います。
EAPを学ぶ前は、『あの人、ちょっと、鬱っぽいよね』って平気で言っていたのが、もう軽々しく言えなくなりました。正確な専門知識がつくと、冗談にしていいものといけないものが、人としてはっきりとわかるようになりました。これだけでもすごく大事なことを学んだと思います。そういう意味でも、今の社会を生きるには、心理的な問題、こころの繊細な部分について正しい知識が欠かせないと思います。これからも辛い思いを抱えている人たちに寄り添い支援できるよう、しっかりと勉強を続けていきたいと思います 」。
凛として会社の持つ問題に向かっていこうという姿勢。厳しい時代を生き抜いてきた経験と働く人を支援したいという強い思いが、これからも石床さんを支えていくのでしょう。