北村 尊
Takashi KITAMURA
お金・仕事・心……。「伴走者」として、全方向からクライエントの人生を支える北村さん。起業は「誰かのために」生きることを選んだ結果でした。
〈Profile〉eMC2019年取得、名古屋市在中。株式会社ブリック代表取締役。妻・9歳の男の子の3人家族。最近の趣味は企業や地域の歴史を調べること(半分仕事です)。
休職・リワークから起業へ
約20年のサラリーマン生活の後に訪れた休職期間。リワークに通いながら人生について考える時間を過ごしていました。
「もともとは今の働き方はまったくイメージしていませんでした。休職して会社に籍はありましたが、レールから外れてしまった人間に対して冷たい会社だとわかっていたので、復職しようという気はさらさらなかったんです。
一番最初に浮かんだのは『株式投資で食べていければいい』という考えでした。株式投資は入社してすぐからずっと、20年くらいやっていましたから」。
株式投資ではなく、起業してクライエントを支える人生に舵を切ったきっかけはなんだったのでしょう?
「もともと私、占いが好きで、年に1回か2回顔を出している易者さんがいるんですけど、その方に株式投資で食べていこうと思うんですが、と相談したんですよ。そうしたら『充分食べていけると思うよ、ただ葬式に誰も来てくれなくなるけどね』って言われたんです。
つまり『株式投資で資産を増やしても、誰のためにもならない。そんな人生でよろしければどうぞ』ということですよね。その言葉に『それでいいのか?』『自分はなんのために生きていくんだろう?』と考えたときに、虚しさを感じたんだと思います。
そこでこれまで培ってきた株式投資の知識を広めていければいいんじゃないか、と考えました。私の知識を活かしてもらって、皆さんの生活が豊かになったり、人生が楽しくなったら私も嬉しいですし。通所している方と関わるなかで、お金や仕事についての制度や仕組み、他にも方法や道があるということをご存知ない方も多かったんです。そういう方たちのお役に立てたらいいな、という思いもありました」。
人生の伴走者として
株式投資の深い知識に加え、EAPメンタルヘルスカウンセラーとしてサポート領域を拡げて独立した北村さん。どのようなことを大切に クライエントに向き合っているのでしょうか?
「ご相談は多岐にわたることがほとんどです。お金の相談でいらしたはずなのに、お金の話はほとんど出ずに、お仕事やご家族の話になることも少なくありません。実は根底に他の問題が内在することもあります。その人が何に問題を抱えているのか?をいつも意識して、深く見立てを立てられるようにお話を聴いています。
クライエントと関わる上では『無理させない・クライエントの主体性を尊重する』ことを心がけていますね。無理に株式投資を始めなくてもいいし、自分が思ったタイミングでやればいいんじゃないですか、というスタンス。強く背中を押すことはありません。答えは自分の中に持っているということをいつも意識しています。
相談に乗っている方の資産が増えていく様子は目に見えるものです。また、その過程でクライエントの見えない内面が変化していく姿を見ることがやりがいですね。貯金ができなかったところからできるようになったり、もともとあった貯金が増えていったり、資産に不安がなくなったことをきっかけに、辛いと言っていた仕事を辞めて、たとえ給料は下がってもやりたい仕事に転職される方もいます。そういう姿を見ることが楽しいですね」。
クライエントにとって、北村さんはどんな存在なのでしょう?
「ある人からは『なかなか貯金できないなかで、北村さんの存在はお目付け役ですね。スイーツを買おうかと思う時に私の顔が浮かんできて、本当にいいんですか?と問われているような気がする』と言われました(笑)。
伴走という言葉がぴったりだと思います。一緒に走る、完全に相手のペースに合わせる。ただ声がけは欠かさない、という感じでしょうか。人それぞれにタイプがありますよね。苦しみながらも頑張ろうとする人もいれば、ついつい怠けてしまう人もいる。その人のタイプを見極めて、伴走の方法も変えています」。
クライエントの変化に寄り添う
「株式投資は、知識よりも自分の欲求や不安をコントロールすることが必要なんです。買った株がガーンと下がったりすると不安になりますよね。そういう不安や、新しい株式を買いたいといった欲求をいかにコントロールするか、ということですね。
クライエントと2年3年関わり続けていると、物事のとらえ方や感じ方が変わっていくんですよ。初めは上がった下がったで一喜一憂していますが、だんだんと「まぁ上がるときもあるし、下がるときもあるよね」と、そういう気持ちになる。
また、株式投資を勉強してもらうと、ご自身が働いている会社のことや業界のことを違った視点で見れますしね。転職や次のキャリアに対して興味を拡げることもできますし、いろんな意味で株式投資って使えるんですよね」。
そんな株式投資とEAPとが共通するところは、どんなところでしょう?
「偏見を持って会社やクライエントを見ない、ということでしょうか。勝手に決めつけないこと。株式投資では、他の人たちが気づいていない会社の良さを見抜く上で大切な姿勢です。クライエントに対しては、思い込みをもって『この人は単にさぼっているだけだ』『わかっているのにやっていない』という目線で見てしまうと、見るべきところが見えなくなることもあると思っています。なるべくフラットでいることを心がけています」。
起業して5年間を振り返って
㈱ブリックを起業して5年が過ぎた今、仕事や起業への思いに変化はあったのでしょうか?
「仕事内容には変化はありませんが、オンラインツールが浸透して遠方の方ともやり取りができるようになったというのは変化かもしれませんね。実際東京のクライエントさんもいらっしゃいますし。やっぱりリアルの方が好きですが、1対1でなら違和感なくお話を聴けるようになってきたかなと思います。
いくらでも時間の調整ができて、家族との時間もやりくりできるという点では、起業したメリットを実感しています。もうすぐ10歳になる息子とは、塾や習い事の送り迎えが一緒に過ごす時間になっています。土日は仕事が入ることが多くて遊んでやれることは少ないですが、平日は調整すれば16時に帰ることもできます。塾まで並んで歩く道中が、息子とゆっくり話す時間になっています。
起業したことでサラリーマン時代は絶対会わなかったような人とお会いするようになり、人脈が拡がったことも大きいですね。交流会は好きではないので一切行かないんですが、紹介・紹介でいろんな人にいろんな形で繋いでいただきました」。
EMCA機関紙「こるNo.8(2019・秋)」での登場時の家族写真
これからの展望
これから北村さんが目指していることはなんでしょうか?
「私が一人でお話を聴けるクライエントさんは、物理的に限られています。ですから、今来てくださっているクライエントさんが、私と同じような立場になって周りの方々の力になっていただけたらなと思っています。クライエントさんに『学んだことを他の人にも伝えたいな』という気持ちが自然に発生してきて、後の世代に引き継いでいっていただければ、私がこの世に生まれてきた意味があったのかなと思います。
まずは、目の前の方に真摯に向き合う。目の届く範囲の方々の力になれたら、それだけでOK。そして、その方が次にご自身の目の届く範囲の方々……そしてその先……と無理なく拡がっていけば、理想だなと思っています」。
広く遠くを見つめる北村さんの眼差し。静かに、でも着実に変化を生みながら、遠くへと進み続けています。