安島 麻美
Mami AJIMA

身近な人のキャリアチェンジと職場復帰を目の当たりにして、働く人を応援したい気持ちが芽生えた安島さん。さまざまな仕事を経験し障害者の方の就職支援を行うなかで、今、大切にしている思いとは?

〈Profile〉eMC2021年取得、東京都在住。就労移行支援所にて支援員として勤務。家族は父親と母親と妹。趣味は映画鑑賞とカレー屋巡り。社会福祉士取得に向けて現在勉強中。

父親と上司
2人の病気をきっかけに

 現在、18歳から64歳までの障がい者の方の就職支援を行なっている安島さん。集団でのカリキュラムではなく、個別での要望に対応してほしいという障がい者の人が多いそうです。この職に就いたきっかけはなんだったのでしょうか?
「この仕事に関心を持ったきっかけは2つあります。一つは、私の学生時代に父親が脳梗塞で倒れ、以前までの仕事を続けられなくなり、まったく違った仕事に就いたこと。
 もう一つは、以前勤めていた会社の上司が病気になり倒れて、入院・リハビリを経て職場復帰をしたことです。父親と上司の姿を見て、病気や事故にあって今までとやれることが違ったり、マイナスな出来事が起こったりしても、人は新しい道を歩き始められるんだって感じました。特に父親の姿は子どもながらに思うところがありました。
 上司は今までと同じくリーダーとして戻ってきて、時短勤務から少しずつ幅を広げ、最終的には以前と同じくらいの仕事ができるまで復帰しました。家族や同僚の立場で、そういった出来事を経験して、働くことに困っている人を支えたい、応援する仕事に就きたいなと思いました」。

リカレントとの出会い

 家族や上司の姿を見て、人を応援する立場になりたいと強く感じた安島さん。リカレントでの学びのきっかけはなんだったのでしょうか?
「まずは、友達がリカレントでキャリアコンサルタントの資格を取った話を聞いたことです。私も人のキャリアを応援するということに興味があったので、友達をきっかけにリカレントとご縁がありました。
 キャリコンを取る過程で、教育の心理学やカウンセリング技法も習いましたが、キャリアを実際にどう支援するかのノウハウや実績はありませんでした。そういうことも学びたいなと思ったのと、あとは、もっと人に寄り添えるようなカウンセリングやコンサルティングを学びたかったので、リカレントでEAPメンタルヘルスカウンセラーの講座があることを知って、ぜひ受けてみたいなと思ったんです」。

リカレント新宿にて

飲食店での
女性とのやり取りを通して

 2つの資格を持つ安島さんだからこそ感じること、とは?
「新卒から飲食店や事務の仕事、WEBライターなど転々としていました。そのなかで、飲食店で働いていたときの印象的な出来事があります。私が勤めていた店はおかわりが無料で、たまにお店に来られる、たくさん食べる女性のお客様がいました。おかわりは挙手制で従業員にお願いするシステムだったのですが、その女性はいつも恥ずかしそうに手を挙げていました。それを見て従業員たちは、バックヤードで『たくさん食べるわねー、豪快でいいけど、お店にとってはプラスにならないよね』って話をしていました。
 私は、いや、ここは食べ放題のお店だから、そんな恥ずかしそうに手を挙げる必要はない! と思って、笑顔でご飯のお茶碗を受け取るようにしました。すると、そのうち女性が自信満々に手を挙げるようになって、それがすごく嬉しかったんですね。彼女は女性がたくさん食べることにコンプレックスを持っていたかもしれません。けれど、自分との関わりを通して自信を持って『たくさん食べます!』と宣言したかのように明るくおかわりができるようになった。こんな未熟な私でも誰かの気持ちを楽にしたり、自信を持ってもらったり、人の行動を変えることができるんだな、っていうのを、強く感じました。
 それから、やっぱり人のキャリアに携わる仕事をしたいと思い、キャリコン取得後は人事の採用を担当しました。実際に仕事をするなかで、働きづらさを感じている人に楽しく働いてもらえるために仕事がしたい、と思ったんです。その思いから今の仕事に就きました。
 私自身、仕事をしていて辛いこともありますが、それ以上に働くことが好きで楽しいです。働いたお給料を自分の好きなことに使って、自分のやった仕事がお客様のためになり、社会のなかでお金や支え合いの循環が生まれて、また他の誰かに繋がっていく。社会の助け合いの循環というか、そういうのが楽しいなって感じます」。

誰もが自分らしく生きられる社会に…

学びは
気持ちの受け取り方にも影響

 いろいろなキャリアを踏まえて、安島さんは働くことの楽しさを実感しています。学びによって仕事以外で変わった点はあるのでしょうか?
「自分自身のことを客観的に見られるようになりました。感情を自分でコントロールできるようになり、コミニュケーションのなかでも言い方を考えられるようになって、生きていく上で楽になりました。
 私は昔から手がかからない子と言われ、いわゆる優等生に見られることがありました。ただ、やっかまれるようなこともあり、そういう人たちに対してどういうふうに接したらいいのか悩んだこともありました。心理をいろいろ学んで、それはそれ、私は私、と一線を引けるようになりました。
 無理に人に好かれようとしなくていい、自分は自分でいいと思えるようになった。自分がすることと、それを相手がどう受け取るかは別で、その上でどんなコミュニケーションを取るのかが大事だな、と思えるようになりました」。

講義中の安島さん

理解されることの大切さに気づく

「今後のビジョンですか? 大きなところでいうと、障がいを持つ方をはじめ、いろいろな事情を持つ方が自分らしく生きられる社会にしたいです。
 そう考えるきっかけは、父親が会社を辞める理由となった、上司に言われた言葉です。父親は倒れてすぐに辞めたわけではなく、『会社から違うポジションで復帰しないか?』と言われたそうなんですね。ただ、後遺症で体の動きや頭の回転は以前と違ってしまったことから、上司に『ここは障がい者のリハビリ施設じゃないんだよ』と言われて。それを知って子どもながらにすごくショックでした。
 そういうことを平気で言う会社がなくなっていけばいいと思います。私も今は社会人なので、その上司なりに必死に利益を出そうとしていたからだろうという事情はわかります。けれど、それが辛さや困難を抱える人が理不尽に傷つけられるようなこととイコールではないはず。それぞれの人が活躍できる仕組みづくりが必要だと思いますが、そのためには、まず相手を理解しようとする気持ちが大切だと思います。
 実は私たちの事務所にリカレントでEAPの資格を取った職員が新しく加わりました。障がいのある方と接していると、上手にサポートしたいのに思うようにいかなくて、フラストレーションを感じる場面もどうしてもあるのですが、そのときは、きっと相手もストレスを感じているんだと思います。そういったことが解決できるような社内EAPを作れるといいよね、という話をしています」。
 併せて、EMCAが素敵な場所だという安島さん。生徒同士の交流やプロのカウンセラーの講義やCP(カウンセリング・プラクティカム)のグループスーパービジョンを通して、成長できる仕組みが良いと話します。安島さんは、その力強い優しさで、これからも働く人のサポートを続けていくのでしょう。