伊藤 俊彦
Toshihiko ITO

薬剤師の資格を持ち、薬事コンサルタントとして活躍している伊藤さん。2016年の秋に取得したeMCの資格を使って八面六臂の活躍を見せています。外国人労働者・研修生のためのNPOでボランティアとしても力を尽くしています。

〈Profile〉eMC2016年取得、東京都在住。株式会社アムズメディカル代表取締役、NPO法人グローバルライフサポートセンター所属。薬剤師。妻・子ども2人の4人家族。趣味は旅行先の食べ歩きと映画。

EAPとの出会い

 薬事コンサルタントとして活躍する伊藤さんがEAPを学ぶきっかけは、「テクノロジーでメンタル不調を未然に防ごう」というプロジェクトでした。「私自身が薬剤師としてだけではなく、カウンセラーとして介入することでプロジェクトの価値が高まるだろうと考え、カウンセラーの資格を取ることにしました。産業カウンセラーとEAP、どちらがいいのか。産業カウンセラーでは勉強から試験、実践と、プロジェクトが終わってしまう。従業員をしっかり支援することがこのプロジェクトの重要なところでしたので、EAPでも十分対応できると判断したわけです」。
 資格を取った伊藤さんのなかで、EAPの学びは[あること]と結びつきました。
「あ、繋がるじゃないか、ということになったのですね。私の根底にあった思いと。薬事コンサルタントの仕事は、健康食品や化粧品などヘルスケア産業の企業から法律相談などを受ける仕事。例えば、『これを飲むとガンが治る』という表現。健康食品では法律違反になる。違反にならないように消費者が知りたいことをどう表現するか、薬事法と医薬品、両方に詳しい薬剤師として相談を受けています。
 相談を受けるなかで、『世に貢献する』というヘルスケア産業の方たちの強い思い、信念を、『これは法律だからダメなんです』ではなく、彼らに寄り添って聴き、対応したいとずっと思っていた。その思いと繋がった」。

学びで深まった活動

 クライアントの立場になって一緒に考えていく姿勢、一緒に問題解決に繋げていくことができれば、本当にクライアントに望まれるコンサルタントになるのでは、と考えていた伊藤さんは、コンサルタントとカウンセラーを融合したビジネススタイルを確立していきます。そして、法的ケアだけでは届かないと感じていたヘルスケア産業の問題にも取り組み始めます。
「薬局・ドラッグストアでは患者さんが健康上の悩みを持ってきても、ただお薬出しておしまい、ということが多くて。病院の先生にも薬局や薬剤師にも話せないから、知り合いとかを通じて粗悪な健康食品に流れていく。服薬指導のときにカウンセリングを行うことができれば、病院の先生が拾いきれない悩みを拾うことができるかもしれない。顕在化されていないメンタル不調が原因であることに、本当に抱えている問題に気づけるかもしれない。そうすれば、必要な薬やものを必要なだけ摂取することに繋がっていくと思うんです。
 薬学と法律の知識、それとカウンセリング技術を使えば、健全なヘルスケア産業の発展に貢献できるのではと思い、調剤薬局やドラッグストアに週1で入りながら、カウンセリングの技術を用いた患者対応を形にすることを目指して活動しているところです」。


薬剤師として薬局に立つことも

ひろがる思い

「これからやりたいことは、大きく3つあります」。
着実に、一つずつ、実績を積み重ね、道を切り拓いてきた伊藤さんからは、自信と強い思いがにじみ出ています。
「一つ目は、薬剤師と薬剤師を抱えている企業への教育。カウンセリング技術を使った服薬指導の必要性とその方法を伝えていきたいと思っています。今後、セミナーという形まで持っていって、今、調剤薬局やドラッグストアで実践していることを形にして企業に返していきたい」。
 二つ目は、外国人を採用している企業へのケア。伊藤さんは、縁あって外国人の入管業務を専門とする行政書士の方が立ち上げたNPOに関わっていたそうです。在留資格を失った外国人の駆け込み寺だったそこは、外国人実習生の受け入れ数増加とともにメンタル不調者の駆け込み寺となり、その様子を見ていた伊藤さんはEAP取得後、もっとできることがあるのでは、と彼らのメンタルケアを始めました。
 そして現在、NPOで「外国人のメンタルヘルス」講師として活動すると同時に、企業、管理責任者、実習生指導員、生活指導員にしっかりと教育を行うための行政との共同事業、多文化共生社会の取り組みにも携わっています。
 三つ目はカウンセラーの学びのサポートツールの開発・提供。
「スキルアップ、人材育成のために何ができるか。何時間もかかるカウンセリングの文字起こしの時間を減らせればスーパーバイズを受ける機会を増やせるかもしれない。解析までできれば「あの、あのっていう口癖が減った」、「カウンセラーが話している時間が減ってきた」と振り返りができるかもしれない。そう考えて、文字起こしと解析ができるシステムを企業と一緒に開発しています。ITとAIを上手く利用しながらカウンセラーの技術を上げるための活動をしていきたいな、というのが三つ目のプランです」。

動いたからこそ拓けた未来

活動の場を広げて躍動する伊藤さんの原動力は、青年期の体験でした。
「経済的な理由で一度は諦めた薬剤師の夢を実現できたのは、1本の電話でした。何とかしてやると。薬学への思いが強かったので、会社を辞めて再受験することを決め、いろいろ動かなきゃいけなかった。そして動いたからこそ、今の自分がある。
『自分を変えることができるのは自分だけだ』。当たり前のことかもしれないですけど、それは本当で。自分がちょっとの変化を起こすことができなければ、大きな変化は絶対に起こせない。起こすことはできない。毎日ちょっとずつ変化をつけて活動することの重要性を、身をもって感じているんです」。
 薬事コンサルタントへの道を選んだのも、伊藤さんの「自分を変える力」でした。
「薬剤師になった翌年、医薬品の開発に携わったときに言われたことがすごく響いて。『これは医薬品になる! 素晴らしいものだからお金を集めようとなったとき、薬学に詳しい銀行マンがいなかったら? そこに価値があるかも投資してよいかもわからない。海外では薬剤師がそれをやっている。日本でも薬剤師が薬局や病院に引きこもっていないで、現場に出て活躍するべきだ』。
 新規事業の立ち上げに携わるなかで、いかに薬剤師がビジネスの現場に出ていないか、中小企業に薬事・薬学の知識を持った人間がいないかを肌で感じて。ここで、私の価値を生み出せるのではないかと思った。知らないことは山ほどあるし、技術革新は進む。自分の常識や経験に縛られていると自分の価値が相対的に低くなっていく。自分が変わり続けない限りは成長はできない、そう思って今の仕事をしています」。

「こう変えていきたい」力が
すべてを変える

 変わり続けることを大切にしている伊藤さんは、カウンセラーの在り方も変わる、と考えています。
「カウンセラーとしての本来の在り方というのはあると思います。でも、これからのカウンセラーの在り方は確実に変わっていくと思うんです。コロナ前は機能しないと思われていたオンラインカウンセリングも、2年で当たり前になった。簡単なカウンセリングはチャットボットでできるようになった。すごいAIカウンセラーがいるよ、毎月500円だよ、という日も近いかもしれない。
 でも、人間でなければできないことがある。そこに注力できるよう『学びのサポートツール』なのですが、学ぶ側だけでなく教育も変わる必要がある、人とAIカウンセラーの役割の違いを教育に盛り込むとか。学び続けようとしていく人たちの『こう変えていきたい』っていう力で教育も変わっていく、そう思って活動を続けています」。
 ほとばしる思いが「自分を変える力」となって伊藤さんをまた一歩、前進させます。