須賀 えり子
Eriko SUGA

心理カウンセラーとして活躍している須賀さん。国際EAPコンサルタントの資格取得後に、希死念慮という事案も実際にあり、学んだことで役に立っていないものはない。どの分野の学びもまったく無駄にならないと、力強く語ります。

〈Profile〉eMC2022年取得、東京都在住。(株)Ai・フィールド代表取締役。企業様向けの組織開発コンサルティング、ストレスチェック支援。夫とふたり暮らし。趣味は神社めぐり、シュノーケリング、猫好き。

経営者の心のあり方がとても大事

 EAPメンタルヘルスカウンセラー活動コンテスト2022で最優秀実践賞を受賞。300人を超える会員の前で心打つスピーチをしてくれた須賀えり子さん。2014年に『株式会社Ai・フィールド』を起業。現在、キャリアコンサルタント、EAPコンサルタントなどを含め、対話型の組織開発コンサルタントとして活動を行っています。
「私自身は、経営者になりたいとか、会社を興すなんてことはまったく考えてなかったんですけれど、必要に迫られて法人化したという流れなんです。同時に、従業員雇用も始めたんですが、離職率が75パーセントと、みんな続かない。その頃、義理のお父さんの介護がきっかけで、心理学を学ぶようになりました。すると、どうして離職率が高かったのか、よくわかったんですね。『経営者の心のあり方がすごく大事なんだ』という理解の必要性を感じまして、こういうことを世の中に伝えていきたいと考えるようになりました」。

新宿御苑にて

自分自身の心の課題

「心理学に触れて、自分の中にある心の傷、思い癖があるということにも気づき、衝撃的でした。自分自身の心の課題がすごくあったんです。そこを遡ったときに、中学生のときに、私が感動した『啐啄同時』という言葉がありました。
 啐啄同時とは、学ぼうとする者と教え導く者の息が合って相通じる様子。鶏の雛が卵から出ようと中から突く音と、親鶏が外から殻をつつくのが同時であることから来ています。
 私の夢は、そんな子どもの成長のタイミングを逃さないでフォローができるような、啐啄同時を意識した子育てができるお母さんになりたい、ということだったんです。子どもの気持ちに寄り添える母親になるんだという想いを抱えていたのに、子どもに恵まれなかったことから、自分のことが人間として欠陥商品のように思えてしまって。そこから自分自身のことを否定するような考え方、思い癖が大きくなっていたようです。
 そういう状態だから、従業員さんとのコミュニケーションの不具合が起こります。そして、それが職場の中でどんな影響があるのかを、まざまざと実感しました。従業員さんには従業員さんの考え方があるし、経営者は経営者としての考え方がある。どちらが正しいということではなく、それぞれが大切に思っているものの形や色が違うんだなって。経営者として、彼らにどう寄り添っていけばいいのかに気づくことができました。
 その後、関わりのある経営者の方から『須賀さんは我が社のお母さんですから、これからもよろしくお願いしますよ』って言っていただける機会がありました。この時、本当に涙が出るくらい嬉しかったんです。叶わないと思っていた子どもの頃からの夢が違う形で叶ったことで、心が一気に癒されていきました。EAPの実践を通じて初めて夢を叶えることができたのです」。

心理的援助ではこころの寄り添いが何よりも大切

仲間たちと共に

 その後、キャリアコンサルタント、EAPメンタルヘルスカウンセラー、国際EAP コンサルタントCEAPを取得した須賀さん。学びのなかで良い出会いもありました。
「以前、社内の事例会議で、いろんなカウンセラーさんの意見を統合して、まとめていくっていうことの必要性をとても感じました。
 今は、デジタル化が市場の流れですので、企業が求められていることを、カウンセラー主観、コンサルタント主観としてお伝えできるような、データベース化みたいなものを、チームで作っている最中です。EMCAで一緒に学んでいた方もいるんですよ。私一人だと限界があるのと、どうしても独りよがりになっちゃうんですよね。カウンセラーさんも社内でまだ求めているので、希望される方がいたら教えていただけると嬉しいです」。

自然体験型研修も提供

いま一番伝えたいこと

「心とからだ・人の心と自分自身・心と成功。これって3つ繋がっている、そう思うんですよね。経営者の方達って、真っ先に会社のために成功とか数字を追い求めようとする。でも、まず自分の心と体を整えていくことが大事だと私は思うんです。そしてその上に周りとの人間関係、コミュニケーションを整えていくこと。さらにその上にこそ成功、目標達成がある。この三角形の図式の順番ががとても大事なんです。
 私が確信を持てたエピソードがあります。実は2020年、IT企業の経営をしている主人が脳出血を起こしました。救急担当医にCTスキャンの画像を見せられて、『ここに脳出血の後があります。ここにまで出血が及んでいくと、リハビリは免れないと思ってください。出血が止まらなければ、命の保証はありません』と言われました。その一瞬、完全に固まりました。そして、あたふたと荷物をこっちに置いたり、あっちに置いたりしている自分がいる。その時に、私自身がパニックになっていることに気づきました。まず私が冷静にならないといけないのに、現実を受け止められていない自分自身を客観的に見ることができた。
 こんなふうに自分自身の心の状況を客観的に見られるというのは、心理学を学んだからだと思います。命の保証はないいと言われたとき、あのままパニックになっていたら、と思うと、怖いです。私自身が気持ちを整えることが大事。まず冷静になろうとしました。そして心の動きが身体にも影響するので、主人との会話で『大丈夫だよ、私がいるから安心してね』ということを伝え続けました。そしたら運よく出血が止まりました。5日で退院できて、リハビリもそれほど必要がなく、ことなきを終えることができました。もし私がパニックになって、一緒に主人もパニックになっていたら、おそらく出血が止まってない可能性もあったと思います。従業員さんへの指示も病院の中からできて、会社の中も混乱することなくこの2年間を無事に過ごすことができました。お客様にも安心していただいて、何ひとつ途切れることがありませんでした。
 だからこそ、『心と身体、心と自分自身との繋がり、心と成功。この三角形の図式の順番は、とても大切』そう伝えています。上の成功ばかり求めていてはダメなんです、と。人はいつの間にか頑張りすぎているんですよね、今の人たちは。情報過多の時代で、少し動けば多くの仕事をこなせるし、いつの間にか頑張り過ぎていて、それが普通になってしまっている。そして、いつの間にかメンタルが落ちてしまっていることに気づけていないというのがある。だからこそ、私たちカウンセラーの専門家の面談がとても求められる時代なのだと感じています」。
 そう語る姿からは、子どもの成長を陰ながら支える母の優しさと芯の強さが伝わってきました。須賀さんの啐啄同時は、「須賀さんでないと」と、その温かなサポートを必要とする企業さんたちとの間で、これからも続いていくことでしょう。