長谷川 佳代
Kayo HASEGAWA
「アンダーグラウンドでディフェンス。輝かしい成果に繋がるものでもない。何もないようにするのが大事な仕事なんですよね」。長谷川さんがスペシャリストとして日々戦っていること、そこにある思いとは。
〈Profile〉eMC2016年取得、東京都在住。専門サービス業界の人事部リーダー。掃除とおいしいものを食べてストレス発散しています!
挑戦のその後
「大手サービス会社の人事部で、取得資格を活かしてめざましい活躍をしている長谷川さん。「女性活躍」「両立支援」をキーワードに、メンタル・キャリア・ハラスメント等を含んだ総合的な窓口を、ほぼ自力でプロデュース!」
―こんなくだりで長谷川さんを「こるNo.2」でご紹介したのは2017年のこと。当時こんなふうに話してくれました。
「キャリアコンサルタントの資格を業務に活かそうと思っていたのです。が、実際の業務のなかではメンタルに関する問い合わせや面談が多くて、実務上でメンタルの知識や対応方法が必要不可欠になってきたことが、eMC資格取得のきっかけとなりました」。
また、悩みがあっても相談しにくいという「人事の壁」を乗り越えるべく、誰でも好きなときに訪れて、こころや体の健康について知識を得たり、自分について考えたり、両立支援、ハラスメント、キャリア、メンタルといった悩みの相談先がわかる窓口を作りたい、そんな思いでwebのポータルサイトを立ち上げたのでした。あれから5年、長谷川さんはどんなときを過ごしてきたのでしょう。
「とにかく忙しいです!やっていることはあの頃と大きく変わっていないのですが、どんどん増えていて……。今は、人事のなかで人事相談職場環境改善グループというところに所属をしています。
ストレスチェックの対応、産業医や心理士とのつなぎ、ポータルサイト運営、などは継続していますね。ただ業務として増えてきたのが面談なんですね。相談を受けて必要な連携先に繋いだり、環境調整をしたりがすごく大きくなっています。相談窓口に自主来談する人と、部署や管理職からの職場についての相談や、異動やキャリアに関する面談も多いです。職場としての問題が出てくると職場全体へのヒアリングや改善への提案などもしています」。
面談において
あらためて大事に思うこと
長谷川さんの働きは、まさにEAPコンサルタントそのものです。今、このような多様な相談対応を長谷川さんと上司の二人でこなしているというから大変です。さらに……
「メンタルとか死にたくなるといった相談は、私に担当がくるんです。重たいケースも少なくないなか、面談をやっていて、あらためて大事に思っていることがあるんです。
①自己一致
②共感的理解
③無条件の肯定的関心
つまりは、C.ロジャーズの3原則です。ここがしっかりしていないと相手と同調(シンクロ)したり、線が引けなくなったり、自分自身が落ち込んでしまい、自分を保てなくなってしまう。
相手を尊重するし、その気持ちに寄り添って理解しようとはしますが、自分のことではない、という気持ちを冷静に持っていないといけないと感じます。自分のセルフケアのためにも、共感はすれど同調はせず。ここはしっかりと勉強して、理解しておいたほうがいいと思います」。
その語りには経験に裏付けれた説得力があります。長谷川さんは面談でどんなことを心がけているのでしょう。
「やっぱり、相手を理解しようと、その話に関心を持って一生懸命に『聴く』。これは徹底しています。丁寧に話を聴くなかで、何が辛かったのか、自分だったらここはキツイな……と思った部分があれば、「これは辛いですよね。よくやっていましたよ、一人で抱えて頑張ってきたんですね」と純粋に自分(私)の感じたことを伝えると、涙を浮かべて泣き始める人も多い。 逆に、自分が心からそう感じていないなら、口先だけのことは絶対に言わない。涙を見せる人は、この辛さをやっと誰かに話せて、わかってくれた……という思いから、いろいろと話をし始める人も多いですね。相手が話を始めたらしっかりと傾聴するようにします」。
距離を置くことは大事
人事のスペシャリストならではの豊富な経験をふまえて、人事が相談対応するメリット・デメリットを教えてくれました。
「環境調整がやりやすいのは、やはり人事の強みですね。そして、事前にいろいろなデータを取り寄せられるので、アセスメントに役立ちます。 ハラスメント問題に対しては、加害者や被害者など関係者の話が聴き取りやすいので、多角的な視点で状況を理解し、問題に対して俯瞰的なジャッジにも活かせます。何か問題が起こったときは当人だけでなく、人事が動くことで所属部署を巻き込むこともできるし、自分(人事)発動で面談を促すこともできる。
職場環境にまつわるケースでは、部署全体の職場環境調査を行うこともできますし、ストレスチェックの集団分析のデータや、個人データ、各種のアンケートなどからのデータとクロスマッチできることで、問題の解決や改善に向けてどんなアクションを起こせばいいかが見えやすいと思います。
一方で、デメリットとしては、やはり、どうしても距離が近いことで、依存的になる、面談が終わっても『はい終了』にできないんですね。社員同士という繋がりは切れないですから。 また、人事にはいろいろな情報が届くので、ついフィルター越しに見てしまうこともあると思います。環境調整がしやすい面は確かですが、組織的判断としてできないこともあります。それに対して『せっかく話しても何もしてくれないじゃないか』『自分のマイナス-になる情報を流されて終わった』なんて悪意をぶつけられることもあります。でも、そういう目線を向けられても同じ会社では逃げられないというキツイ部分もあります。 自分ごととしては、同じ業務をやっている人にしか相談系の愚痴は吐けないですしネ。相談相手にとっては私一人が対象ですが、私にとっては数多く持っている相談者の一人なので、その人と対面するときは全力で向き合うものの、その他の時間すべてを向けることはできません。申し訳ないなと思う気持ちがあるなかで、すごい勢いで不満のメールがきて、疲弊してしまったりもあります。距離が近い分、「裏切られた」と思われることもあり、大変だった実体験はいろいろとあります。
社内で人事が相談対応することの難しさは身に染みて実感してきました。でも、うまく環境改善できたときは、とても感謝されることもあります」。
キラキラしてるなぁって
長谷川さんは人事の仕事をどんなふうに捉えているのでしょう。
「誰かのサポートにはなりたいというのは、本当に完全に下地にはあると思います。だからやれている部分はありますし、何か言われたことをスルっと丸投げするみたいなことはやりたくないので、逆にどんどん抱えちゃう部分があるんですよね。そこまでやらなくていいんじゃないって。でも今は相談の一つひとつに真摯に向き合うことが大事なんだと思うし、自分のリソースになっていくのかなと思ってますね」。
苦笑いする長谷川さん。本当にひたむきで一生懸命、誰かのために心を尽くして動く人、であることが伝わってきます。この先には何を見ているのでしょう。
「そうですね……ここは悩ましいところで、人事として幅広い人事業務のなかで、このニッチでディープな心理相談対応をやっていくのがいいのか、それとも、もっと他に幅を広げていくほうがいいのか、悩みます。
同じ人事のなかでも、自分がしていることはアンダーグラウンドでディフェンスの仕事なので、派手な成績や輝かしい成果に繋がるものでもなく、普通で当たり前の業務。何もないようにするのが大事な仕事なんですよね。
だから、採用とか教育とかやっているメンバーを見ると、『嗚呼、キラキラしてるなー』って。私は真っ黒な夜の海を泳いでるなーみたいな感じなので(笑)。たまに採用や研修のお手伝いをすると、とても新鮮に感じますし、上司は言うんですよね。これだけやってるのは良くないよって。 キラキラを見ると、自分はここで、この先ずっとやっていけるのか?と思うこともあります。でも、日々何か起きるので、とりあえず目の前の問題に向き合うことが優先です。元々はキャリコンになりたいってところから始まっている業務なので、やれるまでは頑張ろうかなって思います。その先に何が見えるのか? そこが見えてきたら、きっとまた新しいやりたいことに向けて、全力で進み出せると思います」。
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