獅子野 正昭
Masaaki SHISHINO
大切な部下をつぶさないためには「傾聴だ」という思いに至り、EAP講座に飛び込んだのは5年前のこと。貪欲に学び、身につけたスキルをすぐに形にしてEAPサービス会社を独立開業! 燃え続ける情熱の炎と止まらない行動力のゆくえは?
〈Profile〉eMC2020年取得、東京都国分寺市在住。メガフランチャイジー企業の役員、ミッションステートメントは『火を灯す!』趣味はゴルフとサウナとジャズセッション(ベース)。
エネルギーを発散できる
場を求めてた
獅子野さんは学習塾とスポーツ事業を手がける(株)リックプレイスの執行役員。現在は20教室の学習塾と8店舗のインドアゴルフスクールを統括・運営しています。入社から約9年間で現在の役職になった獅子野さん、一体どのような歩みを経てきたのでしょう。
「小さい頃からずっとスポーツ選手になりたいと思ってました。体を動かすことが好きでしたね。とにかくじっとしていられなくて、幼少期には母に犬のリーシュみたいなのをつけられてスーパーに連れていかれていたくらいです(笑)。自分の中で突然感情がワーっとあふれてきて、でも、それっていつでも発散できない。『静かにしてなさい』って言われて、ちゃんと座っていなくちゃならない、時間守りなさいとか、強く押さえつけられちゃうと出ちゃうんです。
多動性と衝動性。発達障害だと思うんですけど。スポーツ、演劇、音楽、一時はグレたり、やんちゃしたりね(笑)。ずっと自分の中で抱えきれないエネルギーを発散する場所を求めて、これまでの人生やってきたなって思うんです」。
まぁ、そうかってだけのこと
衝撃的な発言も、獅子野さんにはまったくの躊躇もありません。
「回転寿司では食べる順番が決まっていて、最後は必ず食べるモノが決まっていて、それで終わらせないといけない。これを20年来貫いていて、そういう細かい儀式がすごくて、自分の世界にはいっぱいあるんです。昔から自分のルールが厳しくて、それが破られたり、周りから尊重されないと、今でもすごくストレスを感じてしまう」。と話してくれました。
獅子野さんは、2021年頃の春の頃、うつっぽい状態になってしまい、クリニックを受診。背景には、会社経営で、これまで誰も成し遂げられなかった売上げの新記録を達成したことで、どうやら燃え尽きてしまったのでした。
この偉業も、獅子野さんがEAPで学んだことを健康経営に存分に活かして業績を上げていけたからこそ成し得たことでした。それとは裏腹に、抑うつ症状は薬でも改善が見られない。そこで「発達障害が起因では?」と、医師に簡単なスクリーニング検査をしてもらったところ、IQテストをするまでもなく即座にASDとADHDの重複でASDの傾向が強い発達障害であると確定診断が下りました。
けれど獅子野さんは何も変わりません。
「診断受けて、まぁそうかって。僕、儀式がすごいんですよ。コーヒーを毎朝8時15分に淹れる等、細かい儀式がいっぱいあって、20年来。自分の厳しいルールが破られたり周りから尊重されないと気持ちが波立っちゃう。あらためて診断受けて、発達障害の人たちの気持ちがわかるなって。
みんながグレーゾーン・スペクトラムであって、誰が健常・病人なんてことじゃない。自分や周りの困りごとに対処すればいいだけのこと。自分のことを周りに理解してもらえるよう努めたり、環境を調整したりすればいいんだって。これまで、自分のことを欠陥品だって思っていたけど、特性を理解して、その対処の仕方や活かし方を学べたことで、自分が人にも自分に対しても説明できるようになって、すごくラクになった。
もしも心理やEAPの学びがなかったら、診断に対してきっとすごくショックを受けていたと思うから」。
精神保健福祉士になる
獅子野さんは、2023年の春、会社経営の傍ら2年間、専門学校の通信コースで学び、精神保健福祉士(PSW)となりました。ワァーっと充満するエネルギーで集中して勉強し、17科目の国家試験さえ軽々とクリアです。
「リカレントではすごくいい勉強をさせてもらったけど、やっぱり民間資格。国家資格をとっておくと、独立開業しているし、肩書としても強いかな、もっと支援に活かせるのかなって思って。でも、リカレントで学んだことがそのまま試験に活かせたので、ほぼ無勉強でもいける科目もあった。
特に何が良かったかって実習です。B型の事業所では障害のある人が楽しそうに仕事する姿にとても感動しました。利用者さんは8時半くらいから並んで、早く働きたいって作業場が開くのを待ってるんです。なんでだろ?って。働く場所が彼らのかけがえない居場所になっているんですね。
利用者の中にはクレプトマニア(窃盗症)の人がいて、その人は寂しくなると妄想が出て盗みをしちゃう。でも、日中、仲間と作業しているときは盗みたくなる欲求が出ない。働くってお金を稼ぐだけじゃなくて、自己有用感を得られたり他人と触れ合えたり、心の健康を維持したり、人間にとって本当に大切なことなんだなって、新しい視点から[働く]を見直すきっかけになりました。
一方で、すごく考えさせられることもありました。統合失調の利用者さんが自宅でパニックになって、死のうと手首を切って、家に火をつけた。たまたま実習中にそんな事件があって、家に片付けに行きましたが、リアルな支援現場の厳しさと当事者の置かれている過酷な現状を目の当たりにして、支援の難しさに圧倒されました。
福祉は社会的弱者を救うと思っていたけど、よりよく生きるための、いわゆるノーマライゼーションであり、あらゆるソーシャルワークのアプローチがあるということを学びました。ソーシャルアドミニストレーション※に自分の企業人としての強みが活かせるんじゃないかって。だからいつか福祉施設をやりたいと思うようになりました」。
※ソーシャルアドミニストレーションとは、社会福祉運営管理ともいい、社会福祉を合理的、効率的に運営すること
職場のスタッフたちもメンタルヘルスケアに取り組んでいます
高校生に伝えたメッセージ
心の火が消えそうな人や、消えてしまった人に再び火が灯るよう手助けをしたい。そんな熱い思いを胸に『あなたに火を灯す』というコンセプトで、パラレルキャリアとして2020年に「株式会社FLAME YOU」を立ち上げた獅子野さん。その後、知人を経由して東京都から特別授業をする依頼をされて、1年間、都内の夜間高校で、ストレスについてや怒りのコントロール、感情のメカニズムなど、学校の要望に応じて個々のオリジナルプログラムを作り、高校を5、6校まわりながら、1年~3年生すべてのクラスで30回以上もの講演をしたそうです。
「夜間高校で、一見授業とかちゃんと聞かない、普段先生が椅子に座ってもらえないような学生たちだったんですけど、すごく食い入るように聴いてくれたり、帰り待っていてくれて一緒に帰ったり。メッセージが届いたのかなってすごく嬉しかったですね」。
きっと学生たちは等身大で、飾らずに同じ目線で一生懸命に伝えてくれる獅子野さんの姿に胸を打たれたのではないでしょうか。「俺らのためにこんなに熱くなってくれるんだ」と。やんちゃな学生たちにこころのメッセージを届けることができるなんて、すごいスキルです。
ジャズは人の生命の強さを鼓舞するような音楽
これもADHDの強み
「心理の世界って本当におもしろい。カウンセラーの数がまだまだ全然足りないって聞いてるし、これからいろいろやってきたいことがありますね。僕はずっとベースの演奏をやってきて、音楽活動をしてきたんですが、音楽も心理援助のアプローチとしておもしろいと思っています。体がだんだん動かなくなった老後の趣味や友達作りに音楽のセッションというのはすごくいいと思うんです。音楽で繋がっていける福祉施設とかも作れないかなーって思う。
PSWの知識やメンタルの経験が活かせる何か。もうやりたいことのアイデアがどんどん広がっていく感じ。これもADHDならではの『強み』です(笑)。
福祉とか心理とか、ビジネスも、結局ゴールって同じで、人が幸せに生きられるように、というところを目指している。自分はそういったところで仕事を続けることで、シナジーを起こしていきたい」。
熱い思いを炎のように燃え上がらせ、ワァーっと形にできる力を持つ獅子野さん、これから人々の心や社会にどんな火を灯していくのでしょう。