安田 俊美
Toshimi YASUDA

安田さんに会った瞬間に、おそらく誰もが、その穏やかな笑顔と柔らかな佇まいになんともいえない安心感を覚えるでしょう。そして話を始めたら、ほっこりと癒される。その背景に興味が湧いて、「何をされているんですか?」と尋ねたくなるのです。

〈Profile〉eMC2020年取得、千葉県在住。フリーの保健師、夫・義母の家族・その他2人の息子夫婦と孫3人。水泳と磯での遊泳が大好きです。

房総半島の最南端で

「千葉の房総半島の最南端、海辺の町で海女をしているんです(笑)。あ、でもそれはネ、趣味の一つなんです、磯で遊ぶのが大好きで。普段は保健師をしています」 と優しく微笑む安田さん。現在はフリーの保健師として、従業員の健康管理と同時に組織に対してEAPコンサルティングを提供しています。保健師という仕事は産業領域ではよく聞かれる重要な専門職です。 「私の場合は、保健師になるために看護師の専門学校に3年行って、そこから保健師の学校に入り直して1年間また学んで、保健師になりました。子どもが好きなので、元々は学校で働きたいと考えていたんです。看護師の資格を取ってから養護教員になろうかと。  でも、看護学校に行っていたときに、保健所実習というのがあって、がんの治療や受診を拒否されて独居で生活している高齢男性の家庭訪問に同行したんです。その方の身の回りのお世話をしながら、看護職としての視点で援助する保健師さんを見て、ああ、地域の中でこういう活動をする仕事っていいなと思って、私も保健師を目指してみようと思いました。  看護師は病院や施設の中で働く人が多いですよね、保健師は身近な地域で働く看護職です。ケアの対象は赤ちゃんからお年寄りまで病気に関わらず、すべての人の心と身体の健康増進が仕事なんです」。  その後、市役所の保健師になった安田さん。そのときは本当に何でも屋で、毎日が目の回るような忙しさだったといいます。 「帰宅が遅い事が続き子どもや介護が必要な義父のことを思うようにみてあげられなかったんです。家族に必要とされるとき、傍にいたいし、母親としても後悔したくないという思いが募っていました。それで、子どもが高校生のときに一度、現場を離れたんです」。

自信がなかった自分が変わった

「その後、家族の状況も変わり、また仕事に戻って地域の基幹病院に勤めていたのですが、保健師を持っていたことで安全衛生管理や職員の健康管理を少しずつやらせてもらうようになって、ちょうど法令化されたストレスチェックの立ち上げのお手伝いも頼まれたんです。それで、人事と関わるようになって、その後、職員健診や健診後のフォローをさせてもらうようになったんです。  そういったなかで、自分が気づくことはいろいろあっても、『こうなんです』っていう強い断言ができなかったんです。その病院に勤める前にしばらく現場から離れていたブランクがあったので、自分に自信がなくて。でも、提案という形で、これはどうですか? あれはどうですか?ってアクションを起こすと、どんどん取り入れてくれて。すごく面白かったんですよね。  ただ、やっぱりブランクのある自分の知識や経験って通用するかなって不安を抱えてはいたんですよね。それで、勉強したいなって思っていたんです。ちょうど人事の人が「自分がカウンセリングとか勉強したいよ」って言った、その一言で「そうだ!カウンセリングを勉強してみよう!」って、いろいろ調べたなかでリカレントに繋がったんです。  養成コースで学んでいくうちに、『あぁ、変わってない、自分の感覚がこれでいいんだな』って確認できたし、新しい学びも多くあり、私にとってはすごく自信になりました。これはとても大きな学びでしたね」。

EAPコンサルティングの学びが活きている

「加えて受講したEAPコンサルティングコースも面白かったです。そのときにいろいろ教わったことが今の仕事にすごく役立っているんです。今、2つの会社で保健師をやっているのですが、そのうちの一つは、実は始まりは、心と体の健康づくりのためにこういうことをやりたいんですって、いわゆる売り込みして(笑)、提案を採用してもらったんです。それまでの自分だったら企業の経営層の前でプレゼンをするなんて考えられないことでした。
 もう一つは、千葉の産業保健センターのメンタルヘルス対策促進員と両立支援促進員というのをやっているんです。中小企業の経営層に対してメンタルヘルスの啓蒙とか環境改善の提案をするのですが、これもコンサルティングクラスで教わった、まずちゃんと人の話を聴けないといけないよってこと、そして、企業文化を知らないといいコンサルティングはできないって学びが活きたと思います。  聴いて聴いてとにかく会社から教わろうって。その上でどこから切り込んでいくか、なんですよね。EAPコンサルティングの、それがすごく難しいところでもあり、面白いところでもあります。会社が苦労して従業員のためにやっていることが、実はメンタルの健康にとても役立っていていることに気がついてもらえたりして、すごくハッピーな仕事です。特に面白いのは健康教育で、皆さんとメンタルヘルスというお題の中でキャッチボールしながらいろいろ考えるのは、とても楽しいんですよね」。


自宅前で

何ができるのかを精一杯

 弾けるような明るい笑顔で話してくれる安田さん。本当に楽しそうなんです。 「もうちょっと仕事を増やしたいなって思うんです。実はネ、公認心理師の資格を取ったんです。でも独学で取ったので、言うのが恥ずかしいくらいです(笑)。  今、サポートしている2社は、全社員と面談させてもらうんですね。60人くらいいるんですけど、それぞれの変化も見られるし、人間関係ができてくると一緒にできることが増えてくる。その面談にも学んだスキルがすごく活きているなって感じます。  面談、好きですね。でも、今でも緊張します。そんなときも基本で習ったワンダウンとリスペクトで。 保健師ってつい知識を与えたり助言したくなっちゃう職種なんですよね、でも、その時間のなかで、その人の何を見て、自分に何ができるのか、保健師とか心理職としてだけでなくて、一人の人として何ができるかを精一杯やらせてもらえばいいかな、って思うと、緊張がサッ~となくなる。ワンダウンで教えてもらうんだからって。  だから、すごく仕事が楽しく思います。思うようにならなかったり、迷いや、失敗しちゃった?ってこともあります。でも、教わったことを柱に自分が精一杯その人に体当たりして、向かい合えたってことが私には大事に思えるので、自己肯定感がめちゃくちゃ上がりました。この勉強をして。だから、自分自身がすごく変わったというのがあります。  いろいろ自信がなくて、自分どうするんだろう、これでいいのかな?もっとわかりたいと思ったから、リカレントに行った。そして、『自分でも役に立てるかも』『ありのままの自分で良いんだ』と思えるようになったのは、勉強させてもらったおかげですし、人生の中でいろいろ悩んできたことも、ああ、こうだったのかもしれないって俯瞰的、客観的に考えられるようになって、乗り越えていけるって思えた。すごく自分の力にもなりました」。  そんなふうに思える安田さんの座右の銘は「誠意をもって」と「正直」。 「正直でいることは自分に対しても正直です。それがすごくラクです。どっから見られても正直でいればいいし、自分がそのときの精一杯、誠意を尽くせたらいいんだって。ありのままでいられるから、ラクです。ラクだから今、とても楽しいんです」。 だから安田さんの笑顔はこんなにも柔らかで透明感があるんだ、と紐解けた気がしました。


磯遊びが大好き

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