宇田川 由紀
Yuki UDAGAWA
「EAPスキルを持つ自分私のような存在が組織の中には絶対必要なんです!」と力強く言い切る、その表情には自信があふれています。その手応えを宇田川さんが掴むまで。
〈Profile〉eMC2015年取得、千葉在住。警備会社勤務。夫、母、娘、愛犬ピコと暮らす。旅行、食う寝る遊ぶが大好き。 2歳半から舞台に立ち夢は女優でしたが、映画で知り合った夫と結婚、今に至る。
自分にはこれなんだ!
イオングループで警備業を行うイオンディライトセキュリティ㈱に勤務する宇田川さん。警備は、圧倒的に男性中心の業界で、女性警備員の割合はわずか全体の5.8%(※)なのだそうです。一方で、女性の活躍が期待されている業界ともいえます。
「例えば、商業施設の化粧室や子どもの施設には、やっぱり女性警備員がいてほしいですよね。でも、男性多数のなかに女性が1名という勤務状況も普通で、さらに女性幹部の育成が遅れていて、必然的に男性が上司となってしまう。だから悩ましいのです」。
そう話してくれた宇田川さん。東日本支社長から、「女性従業員は男性上司には相談できないことで困っているかもしれないので、聴き取りをしてほしい」と指示を受けたのが、カウンセラーへの道の始まりでした。
「当時、上司にメンタルヘルスマネジメント検定をとるよう勧められたのですが、机上の知識をもっと自分の職場に活用するにはどうしたらよいのかと模索し、辿り着いたのがEAP講座でした。勉強は大変でしたが、私にはこれなんだ!と信じて頑張りました。 資格取得後は1年に1回は全国の女性従業員のいる勤務先へ出向きました。職場の雰囲気や男性上司には言いづらいこと、個人的な悩みなどを自然体のなかで引き出し、現状の問題を把握して上司へ伝えるんです。それで職場の環境が改善されたり、本人の気持ちがすっきり整理されて仕事のパフォーマンスを上げてもらえるように。
また、警備員は警備業法によって法定教育を定期的に受講する義務があるのですが、エゴグラムを活用したオリジナルの教材を使って、講師として自己理解の研修をしたりもしています」。
※ 警察庁が発行する「平成28年(2016年)における警備業の概況」から引用。現在(令和3年(2021年)における警備業の概況)の女性警備員の割合は6.7%。
まさかこんなことに!
実は、このお話を聴いたのは2017年のことでした。宇田川さんは、従業員のパフォーマンス向上のために組織を内側から変えてゆく「内部EAP」としての活動が評価され、「第1回EAPルスカウンセラー活動コンテスト(2017)」で優秀実践賞を受賞。社内報にも掲載され、その優れた活動によって、社内でもEAPカウンセラーという存在や役割の重要性が理解され、興味関心を持ってもらえるようになったそうです。 そして、この功績は宇田川さんのキャリアにも大きな変化をもたらしました。なんと、普段、宇田川さんは東京で勤務していますが、本社(大阪)に招聘されて講演をしたり、会社の上層部にも名が知られ、役員の方々とも直接に関わったり、さらには女性活躍推進のプロジェクトメンバーとして大抜擢! 「まさか自分がこんなことになるなんて」と、予想外の人生の展開にとても驚いたそうです。
それから今日まで
あれから6年、現在の宇田川さんはどうしているでしょう。
「現在は総務部管理課に所属しています。数字の管理もするんですけど、採用面接とか、今、施設のケアとか総務対応や、社長の命で社内表彰企画を任されています。ちょっと大変な部分もありますがいい仲間と組んでやっているので楽しいですね。
以前、女性活躍推進プロジェクトで事務局をやっていましたが、それは今、事業化されたんですよ! 女性が活躍できて、会社が発展でき、それがお金になること、その3つの peace(ピース:平和)を考える事業です。スリーピース推進室からスリーピース事業課に成長し、今ではきちんとお金を稼げるようになっています。例えば、警備業に特化するマナー研修を提供したり、災害時の防災に関してのノウハウを教えるゲームをイオンのお店で展開したり」。
なるほど、相談にまつわる業務は、まさに「特別な存在」としてプラス@としてこなしているのです。
「今、カウンセラーとして認めてもらって常駐でカウンセリングをやっていること、安全衛生委員会の事務局、警備員の新人教育をしています。以前に作ったエゴグラムを使ったコミュニケーションの研修プログラムをブラシュアップして使っています。毎月1~2回やっていますよ。当社は常に警備員を必要としているので、多くの新人さんがいるんです。
新人さんに、新しい環境に飛び出すには、エゴグラムで自己理解をして、自分のアプローチをもっと意識して接することで相手の答えが変わってくるんだよ、といった話をしています。初めは警備会社なのになんで心理学?って感じでポカ~ンとしてる新人さんたちも、エゴグラムの検査をして、自分のエゴグラムを書いて、自我状態の説明をすると、腑に落ちる。「あってますね~」ってなるんです。 私に対しても最初は『誰この人?』みたいでも、私が心理の専門資格を持っていることを話して、「なるほど」って納得すると、俄然目が輝いてくる。 会社の上層部もこういった研修はとても大事だから、どんなときでもしっかりやる必要がある、と言ってくれて、コロナ禍でも研修は続けられたんです。一時は、本当に届いているのか?私が伝えていることはこれで本当に正解なのか?って自問自答する時期もありました。そのとき、たくさんの専門書を読み漁りました。そして、得た知識を伝えることも上手になってきたのかなって。最近は手応えを感じられるようになりました」。
認められている実感
「うちにはイオングループの公益(内部)通報制度もあれば、弊社独自の公益(内部)通報制度もあるんですけれど、そこに電話をかけるほどじゃないけれど相談に乗ってほしいことは、ぜひ私に連絡してください、って言っています。3ヵ月に一度くらい連絡がきますね。公益(内部)通報制度の一歩手前みたいな感じです」。
心理の支援も経験を積み、手応えも感じるようになった宇田川さん。EAPカウンセラーとしての自信もつけて、会社のなかで希少な存在となって、とても活躍していることがわかります。
「例えば、『Aさんが悩んでいるんで、話を聴いてやってくれ』と管理職から声がかかるときは、周りが心理カウンセラーとして自分を認めてくれていると思う瞬間ですね。『Bさんが辞めたいって言ってるから相談に乗ってやって』という話が増えたので、内部EAPの重要性も評価してもらっているのかなと感じます。 あと、女性職員の採用面接のときに『一緒に入ってよ』と言われたり。女性って面接では上手く猫を被って上手に取り繕うので、本性をアセスメントしてよ、という意味合いなんですね(笑)。 また、メンタルがおかしくなっている人がいたときに、『状態を見極めてほしい』と言われて、現場で面談させてもらったり。メンタルヘルスに絡む部分のアドバイスを求められるようになりました。「私の見立てはこんな感じ」という、心理職としてのクライエント理解を大いに参考にしてもらえるようになった。これはすごく感じますね。 あと、会社のなかでメンタルヘルスマネジメント検定の1~3種を取ったら資格手当がつくようになったんです。すると、みんながちょっとずつ取り出しました。メンタルヘルスは大切だと会社が理解し、従業員への意識づけを会社として本気で取り組むようになってくれるようになったと思います。これ、きっかけは私だよな!って(笑)」。
次のステージはこれから
「52になったんですよね。次のステージじゃないけど、会社では私一人では組織的にはもう動かなくなると思うので、私みたいな存在が何人か全国の拠点にいるべきかなって考えがある。横の繋がりを強化していけば会社全体一つになっていくという目標・願いがあります。ただ、お金を生むものでないから定着が難しくて。 だから、個人の目標も大事にしたい。地域で施設を借りてサークルとかやりたいですね。コミュニケーションの悩みや介護・子育ての悩みとか、そこから自助団体のような動きをしたり。そんな社会貢献できたら嬉しいなぁ。 さらに、占いを習って、そこに占いを入れたりして。心理相談のハードルを下げてくれる方法の一つとして、占いにはすごく魅力を感じているんです。いつかそういうことをする個人事業者になれたらいいなぁ、と思っています」。