加藤 賀都子
Katsuko KATO

Studio Cura(ステューディオ クーラ:癒しの部屋)主宰。開業以来、これまで自分で営業をしたことは一度もない。なのに予約は数ヵ月先まで常に一杯。こんな心理カウンセラーさんがいるんでしょうか⁈ その秘密を教えてください、加藤さん!

〈Profile〉EMCA一般会員6年目、東京都在住。フリーランス(メンタルヘルス&キャリアコンサル)。夫と2人暮らし。趣味は温泉巡り。

40歳になったら自分で何かやる!

「小学生時代から父子家庭で祖母とほとんど2人暮らしで、なんでも自分でやる子どもでした。10歳の頃、ふわふわしている父親を見て、男の人は頼れないと思ったんですね。これからは女の人もきちんと仕事をして自立していないとダメだ、40歳になったら一人で何かやろうって決めて、子ども時代を生きていたんです」と語る加藤さん。
 24歳で地元の福岡から上京して就職活動、当時は女性がそれなりのお給料をもらえるのは銀行と航空会社しかなかったから、と、ガルーダインドネシア航空に入社したのでした。18年間、総務経理部門で働いた後、自分への約束通り、航空会社を離れ独りで起業。カウンセリングやコンサルティングサービス、マネジメント業務等を請け負う事業主となりました。
「屋号は『Studio Cula(ステューディオ クーラ)』、『癒しの部屋』という意味なんです。ガルーダに出入りしていたお花屋さんのオーナーが個人のお客様の第一号でした。その方が友人を紹介いただいて、その方がまた次の方を紹介いただいて…という繰り返しで、お友達紹介でクライエントさんが増えていきました。
 実は私、開業して以来、自分で営業というものをただの一度もしたことがないんです。一人が必ず一人を紹介してくださって、それが影響力のある方だと、たくさん紹介してくださったりするので、そういった方々に支えれられて、お客様がどんどん増えていく形になっています」。
 実は、こんなお話を聴いたのは2019年のこと。忘れられないとても印象的だったことが2つありました。一つには、加藤さんが受けるクライエント・相談は1回2時間で、原則1日一人だけ。なぜなんでしょう?
「持ちの変動がある方もいるから、その気持ちに合わせてあげたいと思って、どんな変更にも対応できるようにしているんです。『今日1日の私のすべての時間は、あなたのためにありますよ』と言うと、クライエントさんはキャンセルしないで頑張って来るんですよ(笑)。
 自分の枠組みの2時間は、たわいもないおしゃべりも含めて、ゆったりとお話を聴きます。頑張って来てよかったなと思える終わり方をしたいので、カウンセリングだけに集中してパッとサヨナラではなくて、対話を楽しんでもらうために2時間はちょうどいい長さなんです」そんなふうに説明してくれました。
 二つ目は、加藤さんのスケジュール帳は予約でビッシリで、何ヵ月間も先まで空いている日がなかったこと。おまけに、予約を受けるのは知人からの[ご紹介]に限ること。それなのにです!
 「おかげ様でカウンセリングだけで一人で十分生活できています」。これには本当に驚きでした。


大好きなスヌーピーの「PEANUTS」で心理相談室をやっている「ルーシー」に似ているね、と描いてもらったイラスト

3年後の今

 加藤さんが「こるNo.8」(2019年秋刊)に登場してから3年、コロナ禍もありました。あれからどのようなことが起きたのでしょうか。
「私はまったく変わらずです(笑)。今も開業時からのスタンスを貫いてやっています。でも、企業ではコロナの影響でメンタルが落ちて休職する人が増えたんですよ。それで休職中の方の面談をすることがだいぶ増えました。例えば、地方から出てきて独り暮らしで、リモートワークでワンルームに独りで1日中いる。オンラインで職場とは繋がっていても、リアル感がないのか、寂しさが増して孤立していき、メンタルダウンしてしまう。私はキャリアの支援もやりたいんですが、こんな状況なので、なかなかキャリアまで手が回らないんです」。

これが私の支援スタイル

「ストレスを解消する場所がないんだろうなと思います。だから、本人なりのストレス解消法を50でも100でも可能な限り全部出してもらうんです。自分のできていたことを思い出してもらったり。これが私の支援のスタイルですね。
 目標設定させていないふうで、実は設定されている、というのがテクニックだと思っています。ぼんやりした目標を具体的に明確にしていくことで、表面的な意識では気づいていないことに気づいてもらう。それには、とにかくしゃべってもらうことが一番、それにだいたい終始します。普段口数の少ない人も一生懸命しゃべってもらう、それにはとことん質問して考えてもらうんです。「もっとない? もっとない?」と詰めていくと、人は考えるもののようです(笑)。
 ただ、メンタル不調への一番効果があると感じているのが、実は「お風呂・湯船に浸かること」なんです。忙しいし面倒なのでシャワーで済ませちゃうんですね。そこを毎日、必ず湯船に浸かる。お湯のなかで毛穴から今日の嫌なことが全部出る、そんなイメージを持ってもらい、そのお湯は絶対に捨てて、最後お風呂を洗って出る。悪いものが全部溜まっているから、そのお湯は洗濯とかにも使っちゃダメ、全部捨てて、と言います。
 面白いことに、この[お風呂作戦]はみんな素直に『やってみます!』って反応するんです。毎日お風呂に入るようになったら会社に来られるようになった人や、在宅でも寂しくなくなったという人も少なくないんです。要は、今日一日を自分で振り返って、嫌だったことを全部捨てるっていう作業が、心理的なリセット効果があるんでしょうね。お風呂作戦を実行してくれた人は、みんな無事に復職しているんですよ(笑)。体が温まることでの癒し効果もあるんだと思います」。


EMCA機関紙「こる No.8」(2019)にも登場

コロナ禍がもたらした変化

 地方の方は、オンラインで便利になったと最初は感じたと思うんです。交通費もかからないし。でもやっぱり、ちょっと会って話したいなって気持ちになるじゃないですか。空間を共有することの安心感とか温もりみたいなもの。それがすごく強くなったみたいで、地方の方は早々に「東京駅まで行きますから対面ではだめですか?」とかでオンラインを卒業する人が増えました。何十回もお会いしている方でも、対面で会えるともらう[気]が違う、なんて言う方もいますね。
 でも、オンラインが当たり前になってすごくよかったこともありますね。休職中の人といつでも繋がっていられる点です。そこは安心感を生んでいるんじゃないかな。システム的にどこに居ても繋がれるようになったのは、私にとっては大きな変化でした」。

一人に一人のカウンセラーを

 自身の支援スタイルや信念は何一つ変わらずに、社会の変化には柔らかに合わせてきた加藤さん。この先は何を見ているのでしょうか。
「もともと最初から、一人に一人マイカウンセラーが絶対にいて、『私のカウンセラーってこの人だよ』っていう時代が必ず来るって思って始めた仕事なんです。だからそれを達成したい、それをもっと広めたい。それに対して自分がどんなふうにしていこうかは今、考え中です。
 自分のミッションとして、自分が関ることによって、『こうなりたい自分』までは絶対にもっていきたい。自分の思い描くところに辿り着けるまで絶対にあきらめないし、あきらめさせません(笑)。お互いに励まし合あって。
 カウンセラーの役割って、自分がすごく辛いときや、嬉しいことがあって自慢したいときとか、何か自分の思いが出たときにふと思い出すけど、日頃はずっと忘れていてほしい黒子の存在なんです。だから何かあったときは私を思い出してね、みたいな存在でいたいんです」。


予定がいっぱいの多忙な毎日