中野 愛子
Aiko NAKANO

現場経験を活かし、今まさに人事のプロフェッショナルとして、組織を支える重要な役割を担っている中野さん。けれど、そのキャリアパスは平坦な道のりではなかったといいます。

〈Profile〉eMC2019年取得、東京都在住。キジトラ猫と暮らす、マーケティング支援企業の人事部マネージャー。趣味は散歩とものづくり。

そのキャリアパス

 中野さんは大手マーケティング支援企業である株式会社インテージの人事部プレイングマネージャー。5人という少人数のメンバーのなかで、労務対応や体調不良者の休職・復職対応、キャリア系の研修や、女性活躍推進関連の施策の企画や実施、キャリアの相談窓口など、とても幅広い対応をしています。
 マーケティングの現場にいたときにマネジメントで苦労したことから、マネージャーの支援をしたいという気持ちが強く、さらに、社内でフィードバックの研修講師をしたりも。その明るい笑顔と力のある瞳に、中野さんの意思の強さと行動力がうかがえる気がします。
「大学は理学部生物学科で勉強していました。ただ仕事選びにあたって世のなかにアピールしやすい強みって何かなって考えたとき、データ解析だと思って。当時、インターネットを活用した調査が黎明期だった。マーケティングって面白そうだなって思って、インテージに入って22年です。その過程で合弁会社に出向したり、チームリーダーも経験して、結婚、出産のタイミングで関西に引っ越しました。
 大阪では企画営業にも携わり、それなりに実績も出て、管理職になったんですが、離婚したことで、仕事と育児・家事の両立がとても難しくなった。そのとき初めてキャリアについて悩みました。管理職になったのも離婚も自分で決めたのに、それで困るって自業自得だよなって、でもこういう人って誰に相談したらいんだろうって…。このとき初めてキャリアカウンセラーという存在を知ったんです」。

ここからがスタートライン

「そうこうしているうちに転勤の内示が出て、子どもと東京に戻ることになりました。でも自分はマネージャーとしてチームをうまく機能させられなくて、このときは本当にしんどかった。でも、うずくまってちゃ仕方ない、何か動かなくては、と考えたとき、キャリアコンサルタントが思い浮かんだんです。自分のキャリアについて考えるために、養成講座に通おうと思ったんですね。
 会社の求めに応じて東京に異動して、うまくいかなかった。つまり、自分の考えがなく、会社の求めに応じるだけの自分だったわけです。でも、キャリアの学びを経て、会社と対等に向き合える自分になれたと思います。自分は現場を知っていて、かつキャリア形成の支援ができる、こういう私が人事部でキャリア形成支援、マネージャー支援をしていきたいんです!って異動希望を出したんです。すると、幸運にもキャリコン合格と同時のタイミングで人事部に異動することができた。
 そのときは、「ここから新たなスタートだなって」感じでした。これからどういう形で自分が人事で機能していくのか、自分にとってもよくて、会社にとっても役に立つ動き方って何だろうなって、それをここから模索していくんだっていう感覚でした」。


渋谷で「こる Cor No.18」の撮影の一コマ

 EAPも学ぶことになった理由はどんなものだったのでしょう。
「人事へ異動直後から、体調不良者、体調不良から休職に入った人、復職する人の対応を担当していましたが、立場上、休職期間満了などの、相手にとってつらいだろうと思うことも言わなければならない場面がありました。こういったときに、私の伝え方や対応の仕方が原因で、体調不良者の体調がさらに悪化することもあるかも……と、不安を抱えながら対応していた部分がありました。メンタルの専門知識を身につけて対応することが、自分にとっても相手にとっても必要だと考えたので、人事異動の1年後くらいには、当たり前のようにEAPの学びを始めていました」。

今、振り返ると……

「それから6年間、今この時点で見ると、人事のなかで自分としてやりたかったことはやれたかなと、感じています。会社のなかで初めて通年のキャリア相談窓口を立ち上げて、必要な人がきちんと相談できる場所を作れたこと、そして同じタイミングでセルフキャリアドッグを導入させてもらったことも、実現できてよかったと思っています。
 私は社内外のキャリコン、どちらにも相談できる環境が大事だと思っています。人事部のキャリコンに話したくない人もいるから。なので、社外のキャリコンをもう少し活用しやすくできないかなぁと思っていたのですが、昨年、会社に能力開発ポイントという自己研鑽の福利厚生サービスの利用範囲にキャリアコンサルティングとコーチングを入れてもらうことができました。これで会社としてかなり体制が整えられたと感じました」。


オフィスで仕事中

自分って

 強い思いと実力でやりたいことを確かに実現していく姿は「あっぱれ」と言うほかありません。分析のプロの中野さんは、自身のことはどう分析しているのでしょうか。
「マイペースです。期待されるのが嫌いです。期待されると頑張らないといけなくなるので(笑)。好きにやらせてほしくて、放っておいてほしいんです。ゼロから1を作るのは好きだけど、1を10にしたり、100にするのは苦手だし、あまり興味がなく、それは得意な人がいるし、その人にお願いしたい。そういう意味では、みんなが好きなことをして、私も好きなことをして、みんなハッピーならそれでokという平和主義者です」。
 そんな中野さんが人事の仕事に対して大切にしていることは、どのようなことでしょう。
「人事として、キャリアコンサルタントとして、『三方良し』、これを常に頭においてやっています。本人にとって良く、会社にとっても良くて、世の中平和になる状態をどうやったら実現できるかをいつも考えている。私自身も自然体で周りと調和して生きられるのがいいと思っているから。
 世のため人のために役に立つ人がいい人間、いい大人、というのは、割と一般的な意見かと思いますが、私もそう考えていました。でも、キャリコンの勉強を始めてから、その意識がなくなりました。人にいい影響を与えなくちゃとか思わないし、そんな存在である必要もないなって。
 今までは、世の中でこういう動きをしたら生きやすいと思う方向に動いてきたと思っています。社会に自分をギュッと合わせることで社会の中に存在しているという感じていますが、そうじゃなくて、私ってこう、これが好き、これがいいと思う、そんなふうに自分のままで社会のなかで機能できたら、今とは違う感じなんじゃないかと思うんです」。

これからの挑戦

「つまづけるところには全部つまづいて強くなった。そんなですので、柔軟性ある強さ、しなやかさ、みたいなものが身についたんじゃないかなって思います。
 労務対応では、会社と不調和を起こしている人と会社をどう調和させていくか、それがミッション。理屈だけじゃうまくいかないこともある。そこをうまく調和させていくときに、私が人生でコケてきたことや、折り合いを付けてきた術なんかが役に立っているんじゃないかなって思います。
 自分のことも他の人のこともジャッジしない。これは、私がキャリコンの学びの延長で触れた、とても大切にしている考え方です。労務対応をしていると、人に対する批判的な言葉を耳にしますが、話半分に聞いて、自分が直接見たこと、感じたことと照合し、複合的に人や状況を理解する参考情報する、という活用のしかたをします。良い悪いの判断をしないで、人に接することはとても大切なことだと考えています。
 その人の、そのときのありのままに認める。自分に対してもそうです。そうすると、未来にたくさんの可能性があることに気がつきます。その人の、そして、私の未来は、今と違っている可能性が高いのです。そうやって人は変わっていくことができると、私は信じています。『自分のありのままの状態で、社会と調和して幸せに生きること』が、これからの私の挑戦です」。


ひとは変わっていくことができる・未来も変わっていく