三瓶 貴子
Takako SAMPEI

「福祉の世界には君のような人が必要なんだ」と背中を押され、福祉の扉を開けた三瓶さん。三瓶さんの5年間は、いつも誰かのために全力でした。「本当にいろいろなことを経験しました!でもネ」。その表情には言葉にならないほどの思いが詰まっていました。

〈Profile〉eMC2020年取得、東京都在住。就労移行支援事業所の就労支援エキスパート。ワインと映画と猫をこよなく愛し、人生の偶有性を楽しんでいます。

キャリアは自分で拓く

 まったく新しい福祉の世界に三瓶さんが飛び込んでから、まもなく5年目を迎えようとしています。新宿区にある「プラーナ新宿」という障害者福祉施設で支援員を務める三瓶さん、そのキャリアの道のりはどのようなものだったのか、から始めましょう。
「もともとは大手電機メーカーのグループ会社が運営するスイミングクラブで水泳のコーチを長くやっていたんです。障害のある方も教えていたんです。今、思い返すと、そのときから障害者福祉とご縁があったのかなぁなんて思います。人事総務部に移って、主に従業員の健康管理をやっていたのですが、メンタル不調の人がとても多かった。なんだか本当に このままで日本は大丈夫なのかっ?!って本気で思ったんです。そんな話を上司にしていたら、『それならばキャリアコンサルタントの資格を取ってみたら?』って言われたんです。
 そこでリカレントで勉強を始めました。でも資格をとっても今の会社ではポジション的に、直接は活かせないことがわかっていたんです。そんな時、養成講座の先生に言われたんです。『仕事は自分で創っていくもの、キャリアは自分で切り拓くものだ』って。その言葉は刺さりましたね。じゃあ‟待ち“じゃダメだ。本当にこの仕事をやりたいなら、自分で一歩踏み出さないとって。そのタイミングで早期退職制度があったので、思い切って転職することにしたんです。50を過ぎていたんですけれど(笑)」

キャリコンだけじゃ全然足りない

 これが三瓶さんの人生の分かれ目になりました。「今の所属先、プラーナ新宿の採用面接で、代表者から『今、障害者の就労支援には企業のことをわかっている人が必要だ、ぜひ来てほしい』と言ってもらい、確かに企業を知っていないと十分な支援はできないんだろうなって思ったんですね。ならば役に立てるかなって思いました」。
 就労移行支援事業所プラーナ新宿は、障害のある人が社会で就労するためのスキルを身につけて就労準備をする場所です。同時に企業へ障害者を送り込むという営業的な役割も担っています。三瓶さんはそこでキャリアコンサルタントとして、障害のある利用者さんと企業とを繋ぐパイプ役として、他の支援員には真似できないノウハウと情熱を持って支援に取り組んできました。
 三瓶さんはこの仕事に就いてからEAPメンタルヘルスカウンセラー資格も取得しました。その理由は……。
「キャリコンだけじゃ全然足りない。キャリア支援に行く手前の気持ちのところで、悩んで動けなくなっている人も多いんです。キャリアと心理のカウンセリングは違うから、使い分けることで必要なサポートができる。身につけたことが日々本当に役に立っています」。


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愛が一番・でも愛だけじゃダメ

「朝は9時から。10時に利用者さんが来て、午前中がタイピングの練習など自ら取り組むカリキュラムをこなし、午後はアンガーマネジメントや脳科学といった知識講座が中心です。私はキャリア面談も随時しますが、カリキュラムの中では就労講座を担当、それに伴い就職活動をサポートします。応募書類の添削や面接練習、企業の採用面接にも一緒に行きます。プラス、自分がメインにしているのが就労定着支援です。
 精神障害者は就職しても半年以内に半分は辞めちゃうというのが現実、そこで、継続就労できるようにしっかり支援を続ける必要があるんです。具体的には、1ヵ月に最低1回以上、企業を訪問し、当人とも面談して、もし何か問題が発生していたら解決していくという動きです。
 やりがいはとってもあります。自分が必要とされているという感覚がすごくある。障害を抱える利用者さんたちの人生は本当に波乱万丈で、愛情に恵まれなかった人がとても多い。だから支援には、まず愛情が一番だなって私は思うんです。ただし、愛だけじゃダメなんです。やっぱり専門知識もいるし、度胸も行動力も必要。なぜって見て見ぬ振りもいくらでもできる。でも、勇気をもって彼らの苦しさや悔しさを理解して、一緒に背負う。積極的に関わっていくというのも、ひとつの行動力だと思います」。

パンドラの箱が空き
つぼみが花開く

「施設に通うこともままならないような利用者さんがサポートを受けて劇的に変化していき、安定して通所ができるようになる。結果、めでたく就職できて、さらには就職先で高い評価をもらえたりすると、『やったぁ‼』と思います。この仕事で格別にやりがいを感じるときです。
 就職が決まると日々が一変し、新しい出会いによって恋人や親友ができたり、新たな一歩を踏み出すことで疎遠になっていた家族との関係が良好になったり、パフォーマンスが評価され正社員になったりと、魂がキラキラと輝いて日々がガラリと変わる。そういう人を何人も見てきました。
 障害を抱え死ぬことばかり考えていた恵まれない境遇にいる人の、人生の再出発を見届けるのはある種の奇跡です。勿論、上手くいかないときもあります。それでも、彼らの中で確実に内的変化が起こっているのを感じます。
 そこまで人生変えた秘訣ってなんだろう?って考えたとき、そのキーポイントはやっぱり『自己理解』だと思うんです。そのためには適切な愛情と的確なサポートが必要です。サポートは例えば、脳科学やアンガーマネジメント、コミュニケーション力を高めるための支援プログラムだったり。生活リズムを整える支援も徹底的に取り組みます。
 自分のことをちゃんと理解した上で、自己肯定感・自己効力感・自己尊重感の3つが必要になる。『自分はやれる』と信じるチカラやありのままの自分を受け入れ大切にするチカラが整ってくるとパンドラの箱(心の傷や闇、抱えている問題を例えています)が開いてワルイモノが一気にあふれ出る。そして苦しめられていたことから解放される。そうなると不思議なことに、様々なことが上手く回りだすんですよ。
 じゃぁ何が本当に一番大切かというと、私はきれいごとじゃなくて、本当に『愛情』だと思う。それは支援員の自己満足な愛情ではなくて、相手にとって必要な愛情を注ぐということ。共感と思いやりと相手を尊重する姿勢…。するとまさに『つぼみが花開く』みたいな感じで変わるんです。
 これは何も障害のある人だけの話じゃないと思うんです。健常者も同じことがいえる。そう思います」。


ヒプノセラピストの資格も持つ

覚悟はあるか

「私たち支援者の仕事は人の人生を背負っている。だから責任があります。自分たちの支援のやり方によって障害のある人の人生は変わってしまう。支援員の影響力は大きいです。
 なかなか就職が決まらなかったり、ストレスで障害の症状が悪化したりすると、就職は無理なのかなぁと諦めたくなるときもあるんです。でも、そんなときこそ支援員は障害のある人に寄り添う。寄り添って一緒に人生を考える。この一緒に、がポイントなんです。正直なところ私もめげることがあります。でも一緒に頑張ろう‼ ってなれば乗り越えられちゃうこともあります。そこが支援の醍醐味なのかもしれません。
 これまで辛いことや大変なことがあまりにも多くて、『生きてちゃいけない』とさえ思ってしまっている人が、『生きてていいんだ』って思えるようになることが、最も大切なことなんです。よくここまで生き抜いてきたね、あなたは幸せになっていいんだよって、伝えたい。
 障がい者は社会的弱者ではなく、個性的で無限の可能性を秘めた大切な人財なんです。その人財を社会で活かるように支えることが、私達、対人援助職のミッションなのではないでしょうか」。