根岸 美幸
Miyuki NEGISHI
さっぱりしていて潔い。ちゃきちゃきしていて心底、情に厚い。鎌倉の下町に、これほど似合う人もいないでしょう。根岸さんには心を開かないでいられない。人を信じることを教えてもらうことで、孤独や辛さから前を向けるようになるんですね。
〈Profile〉eMC資格取得2019年、神奈川県在住。社会福祉法人鎌倉市社会福祉協議会 地域福祉課生活支援係 生活支援コーディネーター、母+姉家族(ちびっこ怪獣3人の大家族、趣味は、最近釣りを始めました!早起きして休日は、釣りに行くのが楽しみです。
迷いはなかった
根岸さんがアパレル業界での長年の経験と築いたポジションを手放し、福祉というまったく違う世界へ飛び込んだのは2009年の11月。「鎌倉社会福祉協議会」に支援職として入職、あまりにも違う福祉の仕事へと劇的なキャリアチェインジを果たします。そこには一体どのような思いやきっかけがあったのでしょう。
「前職を辞める前に職場でパワハラみたいなことを受けていて、メンタルが落ちてしまい会社に行けなくなってしまったんです。課長代理になったタイミングや忙しさ、いろいろなことが重なって。2カ月くらい有休消化で休んだ後、復職しましたが、そんな折、チームの後輩がメンタル不全になった。とても放っておけなくて、何か力になれないかって思ったんです。チームもバラバラになっていたから、チームがひとつになれる方法ってないのかなって、漠然と考えながら探していたんですね。
そこでリカレントを知って、心理学やカウンセリング学びたいって思ったんです。リカレント銀座に通うようになって、クラスのいろんな仲間のなかで視野が広がりました。勉強は楽しかったですよ~。自分が辛かったときも「ねぎちゃんメチャ頑張ってるよ」って励ましてもらったり。誰かにわかってもらえるって嬉しいものだなぁって、心から感じました」。
順調にeMC資格を取得後、ある日、EMCAからのメルマガに掲載された鎌倉社会福祉協議会の職員の求人に目が留まりました。
「専門資格と身につけたスキルを活かせる仕事ができるなら、それで、もしも人を元気にすることが自分にできるのなら、絶対やってみたい!と思ったんです」。
自分の志を明確にして決めた選択に迷いはありませんでした。こうと決めたらやり抜く強い意志と責任感を持ち、潔い。明るく、ちゃきちゃきしていて元気いっぱい、さっぱりしていて、それでいてめちゃくちゃ情に厚い。根岸さんのそんな持ち味が支援員の適性にピッタリと評価され、数多くの応募者から見事に採用となりました。
信じていいんだよ
「あんしん生活課あんしん生活係」の所属で、JR大船駅そばにある「スリー・プラス鎌倉」が職場となり、鎌倉市に住む生活困窮者と、生活保護を受けながら一般就労を目指す人々への個別支援が担当業務となりました。
「朝9時から1時間半ほどの面談をして生活の様子を聴いたり雑談したり、自己分析カードを使って自己理解を深めたり、外の世界を全然知らない人もいるので、一緒に買い物に行ったり。
ここで一番重きを置いているのは、『信じていい人がいるんだよ』ということをわかってもらうことです。苦しい人生のなかで人間不信になっている人も少なくないので、ここでは誰もあなたを否定したりしない、そのままでいいんだよって。自分を傷つけたりしたら、それは怒りますけど、ここではちょっとくらいわがままでも許してもらえる。彼らにとって信頼できる存在でありたいって思うんです。
人を信じることができる、そこに半年かかる人もいれば、1年かかる場合もあるんですけれど。誰かに無条件に受け入れられる体験を積み重ねていくことで、少しずつ社会や働くことに気持ちが向かうようになったらいいなって。皆を孤立させない、支援を途切れさせないようにすることも重要な仕事です」。
そう語った根岸さんの強い瞳には、「苦しいときにはいつでも肩を貸すよ、その心にどこまでも寄り添って、支えていくから。自分はいつでも隣にいるよ」、そんな厚い情と責任感があふれていました。この仕事がまさに天職ではないか、たどり着くべくして、この福祉の世界に根岸さんはやって来たのではないかと、感じさせられます。
3年後、新たなフィールドへ
根岸さんがこの仕事に就いて丸3年が経ちました。実はこの2023年4月、人事異動があり、根岸さんはスリープラス鎌倉での個別支援から離れ、地域福祉課で生活支援コーディネーターという担当になりました。今度はどのようなお仕事なのでしょう?
「具体的には、行政である地域包括ケアシステム以外で、高齢者が地域でイキイキと生活できるように、まだないものを作ったり、地域住民同士のネットワークを繋ぎ合っていくような役割の仕事です。
地域でも特色がいろいろあるので、求められることや実施している内容も違うんです。例えば、自分が担当する地域だと高齢者も多いので、75歳以上の人に向けての配食サービス。お弁当を作るボランティアがいて、配達しながら安否確認も兼ねています。地域に魚屋さんがなかったりすると、生活支援コーディネーターが地域住民と話し合って、魚の移動販売ができるように業者さんに交渉したり、実現したら地域にサービスがよく利用されるように普及活動をしたり。
今までは個別支援で、その人の人生が豊かになることを一緒に考えていたけど、対一人じゃく、地域全体の高齢者みんながよくなる方法はなんだろう、というのを地域の人たちと考えないといけない。わかってもらおうというのが一人じゃないので、なかなか難しそうです。自分はまだ地域にどんな資源があるのか全然わからないので、民生委員さんに教えてもらいながら、少しずつ地域の人たちに顔を知ってもらって、いつか何か困りごとがあったら、相談してもらえるようになったらいいなって」。
この3年間で得たもの・そして
「ほぼ丸3年、就労準備をやらせてもらって楽しかった。どんなに今が苦しい状況でも、その人の持つチカラを信じることの大切さを学ばせてもらいました。多分、彼らにわかってほしかった[自分を信じてくれる人はいるんだ]って思いが通じたのか、だからみんな安心して何でも話してくれたんだなって思います。
今までの生育歴上、大人が嫌いとか虐待を受けてきた人が、自分に「信じてもいいんだね」ってサインを送ってくれたときに、ああ、やっていてよかったってしみじみと思いました。支援者として何をしたらいいかっていう視点は、彼らに教えてもらったなぁって。
でも、今回の異動はみんなに申し訳ないなって。異動のことを話したとき、みんな本当に頭が真っ白になっちゃって、言葉にならない人もいました。でも、今回の異動で地域資源のことがもっとわかるようになれば、またいつか彼らに有益な情報を提供できることにもつながっていくと思うので、修業だと思って頑張ります。
福祉の仕事って奥深い。面白い、興味深いなって。新しく始まった地域福祉課の生活コーディネーターは、地域の高齢者の方々との関わり方はもちろん、ひきこもりや障害を抱える困難な方々とも大きく違うだろうし、それぞれの地域の特色に合わせないといけないので、本当にまた一から勉強ですね。
今度は、いつものこのキャラの感じでいくと怒られるかなって(笑)。もうちょっと静かにしていないと(笑)」。
いたずらっ子のような茶目っ気たっぷりの笑顔とエネルギーで、根岸さんは周りの人々の気持ちをぽかぽかと温め、一歩を踏み出させることができる人。どこで誰を支援しても、その持ち味とチカラは十分に発揮されるに違いありません。