高倉 成行
Masayuki TAKAKURA

前職では、誰もが知るデジカメやカメラ付きスマホを商品開発していた高倉さん。その開発者思考と取り組み方は、EAPの現場でも活き、今も人に役立つものを創り続けています。

〈Profile〉eMC2021年取得、神奈川県在住。株式会社能力開発所属、障害者就労移行支援事業所勤務、講座講師担当。趣味は、写真とドライブ、メダカ飼育、多肉植物などで日々楽しんでいます。

企業に障害を正しく
理解してもらう

 高倉さんは、以前は、ソニー株式会社で商品開発を担うエンジニアでした。その後、学習塾で英語講師や、小池都知事の東京セカンドキャリアのシニア塾では、講師と企画を担当。
 これまでの小学生から80代と幅広い年代の人々に接し、導いてきた経験を活かして、障害者向け就労移行支援事業所『ライフエールあつぎ』へ入職。2年目を迎えた現在は、障害を持つ人に就労のための講座を行うだけでなく、障害と聞くだけで企業の方が一歩退いてしまうところを、どのように伝えていくのか、企業に障害を正しく理解してもらうことも、自分の大切な仕事だといいます。
「障害っていう名前を、実はあまり使いたくないのです。『特性が強調されている方々』と、私は認識しています。その特性を持った人たちが社会や企業に適切に認知してもらえたら、もう少し負担感が軽減されて、受け入れてもらいやすくなるのかなと思います。そのあたりが日々の戦いですね。
 実際に障害を持つ利用者さんと企業を訪問するときには、障害の診断名や症状は十分把握した上で、例えば、『この方は自閉症といって、コミュニケーションに少し難しさを持っていますが、就労意欲も十分で、集中力は高いのです』というような形で伝え、何に対して一番難しいのかを具体的に説明し、それを補う部分も含めて特性をきちんと理解してもらうのが私の仕事かなと思っています」。

寄り添う力を根底に

 障害者雇用を推し進めるには、企業への啓蒙活動が欠かせないのです。
「就労移行のための講座は私の担当で、主に5,6人の少人数の個別支援となります。一辺倒な説明をすると、同じ言葉を伝えても、皆さん理解の度合いは違います。講座内容の理解が異なると、やはりその後の結果が違ってくるので、そこが難しい悩みでした。病名が同じでもひとり一人、症状は異なります。100人いたら100人違うのです。だから、講座のやり方も、その人に合わせていろんなことを考えながら進めていく必要があるんです。
 リカレントで習った『寄り添う力』。これがおそらく自分の講座の根底にあります。その寄り添う力で、その人その人の個性をだんだん知っていくと、この人が就職するのにはどんなところが一番必要か、この人にはこういう講座をやっていったら良いのではないか、と私自身が気づいてくるんです。
 基本は複数を対象に幅広く講座を行っていますが、効果を考えた結果として、今は個別の講座が多くなってきました。コミュニケーションの苦手な人には、個別で、その方に合わせた講座を丁寧に行うと少しずつ話す言葉が多くなっていきます。『そういうやり方があったんですね』と利用者の方が気づいたり、『こういうふうに話せばいいんですね!』などと言われると、とても嬉しくなりますね」。


職場の『ライフエールあつぎ』にて

いろいろな悩みを聴いて

 EAPを学ぶようになったのは、在職中の少しずつの心の変化からでした。商品開発業務を離れ、60歳になってから新入社員教育を担当した5年間に、いろいろな悩みを聴くようになったのが、最初のきっかけでした。
「入社してくる新入社員も最初ハッピーに見えるんですが、所属部署が決まって配属になり1、2ヵ月経つと、いろんな悩みが出てきます。毎年、そのような悩みを持つ新入社員がいました。
 また、時同じくして中堅社員の間には、早期退職が流行っていました。やはり早期退職になると、心を病む方が多くなります。躁鬱症状が出るという場面を幾度も見てきました。たまたま早期退職を勧める側も、相談を受ける側も両方担当していましたので、このようなことで悩まれている人たちがいるということを知り、複雑な気持ちにもなりました。
 東京都が監修するシニア塾の塾生の方々にも、同じように心に傷を負っている人たちがいました。リタイアして職業人生から外れると、寂しさや孤独感から自殺したいとか、日々がつまらないとか、そういう方も少なからずいます。気持ちの取り方・受け方、そこを一生懸命説明して、だんだんわかっていただけるような感じで説明していきます。そういう人に塾を卒業するときには『ここに来て良かった』と言って帰ってもらえるときは、なんとも嬉しかったです。
 また、学習塾で講師をしていたときは、ペンを持てない中学生がいました。父親が弁護士で小学校のうちからペンを持つ練習をいつもやらされていたとのこと。ペンを持つということに非常に違和感を覚えるようになったと、話してくれました。そのストレスが、精神の不安定さを招くようになったのだと思います。
 そういう方たちをたくさん見てきたなかで、自分が今後どんなことをしていけばいいかを考えたときに、EAPを知りました。
 リカレントで、最初は『キャリアコンサルタントの相談ごととして、ハンデを持った方の相談にのることもありますよ』『キャリアコンサルタントを取った方はEAPメンタルヘルスカウンセラーも持っていますよ』とスクールカウンセラーの方に言われて、同時に取っちゃえと思いまして。
 勉強は大変苦しかったですね。けれど、同時に学んでかえって良かったかと思います。知識が被る部分もかなりありますし、キャリコンを持っていると助かることもあります。結果、自分のためになりました」。

伝えるための努力も

「今は、専門書を読むことが増えました。暇さえあれば読んでいます。勉強の量も、受験しているときと同じくらいしていますね。
 利用者の方に知識をインプットしすぎてしまうと、情報量が多くなり混乱を招きます。よって、それぞれの症状に合わせて支援の方法を考え、お話をしていきます。専門書だけでここ1年間に読んだ量は35冊ほどになります。覚えているのがどの程度かは別ですけど、ピックアップして症状を確認し、ああこういう症状もあるんだっていうのを理解したうえで講座資料を作成していきます。資料には、絵を入れたり、漫画っぽくしたりもするんです。
 また、講座での話し方も注意が必要です。同じ資料を使っても、教え方や話す速度によって理解度が異なりますから。講師の話し方7割、資料3割ぐらいで接する方が良いのではないかと思っています」。
 利用者の皆さんがわかりやすく、興味が持てるよう、高倉さんならではの工夫も凝らしているのです。

基本的なビジョン

「私はソニーに入社するときから、世の中の人たちに役に立つものを創りたいと思って入りました。今もそれは変わっていません。『どうしたら皆さんの人生が豊かになるようなものを創れるのかな』と。やはりずっと45年以上、それが自分の気持ちのなかにある。
 人に豊かな生活を送ってもらいたいというのが、私の基本的なビジョンの中に組み込まれているんですね。それを目指して、あとは私がどのようにやっていくかです。やり様が大切だと思います。強い信念を持ってやっていけば、本当にそこに到達できるのか・・・・・・。
 でも日々は試行錯誤ですね。講座を通じた支援でも悩むときが多いです。本当に自分のやり方が良いのかどうかとか、間違ってないかとか思うときもあります。そういうときは、本を読んだり、最近はYouTubeからヒントをもらったりします。本+YouTubeで講座のやり方を考える。自らYouTubeで動画を発信している障害のある方もいます。動画の中で『障害について、みんなにはこういうふうな説明をしているけど、当事者の自分はこう思うんだ』と本音が語られていたりするので、重要な参考になるんです」
 新しいものも柔軟に取り入れ、噛み砕いてわかりやすい形にし、自身の講座で効果的な支援として活かしていく。高倉さんのもの創りへの挑戦は、現場こそ変われど、熱い思いは今も変わらず、人々の人生が豊かになるために考え続けています。