打越 一子
Katsuko UCHIKOSHI

水戸市にある医療法人にお勤めの打越さん。産業医の方のサポートや、就労移行支援事業所での支援を行なっています。穏やかな雰囲気のなかに、進み続ける強さを持っています。

〈Profile〉eMC2019年取得、茨城県在住。医療法人(メンタルクリニック)を母体とする就労移行支援事業所の支援員。夫・義母・成人した娘2人、趣味はドラマ鑑賞。

自身の病気が転機に

 以前は異業種に33年間勤務していた打越さん。メンタルヘルスを意識するようになったのは自身が病気になったことがきっかけといいます。
「2012年に肝炎になり、約2ヵ月間の長期入院をしました。その後、職場に復帰をしたのですが、そのときの経験から、やっぱり産業保健のチームがしっかりしているといいなと思いました。あとは2年間くらいお薬を飲んでいたのですが、どうしても影響でちょっとうつ状態というか、気分の落ち込みがあったりして…。それからメンタルヘルスにどんどん興味を抱くようになり、仕事にしたいなと思うようになりました」。
 メンタルヘルスの道へ一歩踏み出した打越さん。まずは準備期間として、日本プロカウンセリング協会で1年半ほど心理カウンセラーの勉強をします。
「その次にどうしようかなと思っていたときにリカレントとの出会いがあって、EAPメンタルヘルスカウンセラーとEAPコンサルタント、メンタルヘルスマネジメント検定がセットで学べるコースがあったので申し込みをしました。
 カウンセリングを学んで良かったことは、自分や相手を客観的に見られるようになったことですね。その人の行動の裏側にある心理を想像するようになったというか…。人間関係なのでどうしても難しい場合もありますけど、全身で受けとめるんじゃなくて、ちょっと遠巻きに状況を見ることができるようになったと思います。いろいろな考え方や技法があるので、こんな回避の仕方があるのか〜とか、学び続けるのは面白いなと思います」。
 昨年はキャリアコンサルタントの資格も取得し、精力的に学びを続けている打越さんですが、意外にも以前は勉強が好きと思ったことはなかったそう。病気になったことがとても大きな転機になったのでした。
「なぜかメンタルヘルスの学びだけはスッと自分のなかに入ってきました。でも、本当は本を読むのも好きではないですし…。勉強は好きではない方です(笑)。自分が体を壊してみて、はじめて組織について考えるようになりました。組織のなかにいると言えないことや、思うことがあったりしますよね。特に女性だと聞いてもらえないこともありますし。
 リカレントで学びながら、企業に対して外からメンタルヘルスに関するアプローチができればいいなとか、この学びを他の人に伝えて行けたらいいな、とかそういうことを考えていました。
 あとは、自分も休職の経験があるので、復職のお手伝いをするお仕事ってすごいな、そういう仕事をしたいなと思いました。それで、メンタルヘルスマネジメント検定のⅠ種に合格することもできたので、本格的に転職活動をスタートして、2020年の4月に今の医療法人に転職をしました。転職の際、メンタルヘルスマネジメント検定のⅠ種を持っていることは、上司に高く評価してもらえましたね。学びのなかで産業保健の流れが大まかにわかっていたので、ストレスチェックのツールを企業様にご説明したりとか、仕事をする上でも役立っています」。


御岩神社ご神木と

やりたいことができない

 勤務している医療法人には複数のメンタルクリニックと就労移行支援事業所があり、打越さんは産業医の方の書類作成をしたり、見積もりを作ったりというようなサポートをしつつ、就労移行支援事業所で障がい者の方の就労支援をしたりしています。念願の転職を果たしたはずですが、やりたいことと現実の差に、もどかしい思いをすることもあるようで……。
「本当にやりたかったのはリワークのお仕事です。たまに関わることはあるんですが、私は直接支援できる資格があるわけではないので、遠巻きに『なるほど〜』と見学させていただいているという感じです。
 EAPメンタルヘルスカウンセラーなどの資格を取得しましたが、私は医療の資格もないし、精神保健福祉士や心理士でもない。そういった資格があればもっとできたのかなって、もどかしいというか、気持ちの焦りはありました。もちろん冷静に考えると、メンタル不調者の一生に関わる仕事ですから、広く深い知識を持った専門職に任せるのは当然なんですが。でも、たくさんの学びを経て、ものの見方が多様になったのは良かったと思っています。
 あと、今年から障がい者の方の雇用の支援がメインの仕事になってくる予定なので、カウンセリングの学びをもう少し活かすことができるのかなと期待しています」。

人を「繋ぐ」役割へ

焦りを感じながらも、働くうちにやりたいことがいろいろと見えてきた。
「始めは企業に向けて何ができるのかな、ということを考えていました。でも、働いていくなかで、人と企業を[繋ぐ]役割ができたらいいな、と思うようになりました。
 就労移行支援事業所で障がい者の方の支援をするんですが、障がい者の方を雇用しても、企業側の体制が整っていないことが多くあります。法定雇用率を上げようと思って採用されるので、障がい者雇用と合理的配慮が結びついていないんですね。企業側もきっと大変で対応したくてもそれどころじゃないのかもしれないですが、そういったときに『この方の特性はこうで、こういった配慮をしてもらえるとありがたい』とか、そういった[繋ぐ]役割がきちんとできたらいいなと思っています」。
 EMCAの支部活動や学びにも積極的に参加しています。
「今後、支部会で認知症の方やご家族へのカウンセリングを行う機会があるそうなので、参加したいと考えています。やっぱり認知症は自分の両親や夫、義理の母などにも関係のある身近な問題ですし、役立つことがあるかなと。認知症サポーターにも興味があります。認知症の学びは、地域の人たちのためにも活かしていけるのではないかと思っています」。

これから

 常に学びを続ける打越さん。いつかは独立してメンタルヘルスに関わる仕事をしたいと考えているそう。
「まだ先にはなりますが、いつかは個人事業主としていろんな角度から人を[繋ぐ]ことができる人になりたいです。今は知識不足なので難しいですが、自己研鑽は続けていきたいと思っています。
 現実には学んだことはすぐに活かされないことが多いですよね。でも、いつか活かされるときが来るかもしれない。そのときのために私は諦めずに学び続けたいです。皆さんも学んだことが活かされず、もやもやっとすることがあると思います。でも、いつか活かされるときが来たときのために、諦めないで学び続けてほしいと思います」。
 夢に向かって自己研鑽を続けていく。「学び続けることは楽しい」と語る姿は、人に大きな勇気を与えます。諦めずに学び続けたその先にはきっと、打越さんが[繋ぐ]未来が待っているに違いありません。


自宅にて