曲 潔
Ketsu KYOKU
人材派遣の仕事をしながら2016年にCDA(日本キャリア開発協会キャリアカウンセラー)、2017年にeMC(EAPメンタルヘルスカウンセラー)を取得。“相手のためになる”を大事にしている曲さんがいつも考えているのは、「もっとできることがあるはず!」
〈Profile〉eMC2016年取得、東京都在住。教育機関のキャリアカウンセラー、スクール運用マネージャー。夫・4才の女の子の3人家族。コーヒーが大好きです。
感銘を受けて決めた仕事
人生の半分以上を日本で過ごしている曲さんが、母国中国から来日した理由は「自立」でした。
「中国の大学、留学、就職の3つ、選択肢があったんですね。親が将来を考えて進学をすすめてくれたのもあって、留学したのですが、留学を決めた大きな理由は、親に頼りすぎている自分。母親の言うことが絶対みたいな感じで、自分の考えも持っていなかった。先輩たちに指摘され、このままじゃいけないことに気づいて、気持ちを親に話したら理解してくれて。親から自立するために日本に来ました」。
大学卒業後、日本で求人情報を扱う会社に入社。そのあとコンテンツ制作会社に移り、3社目に入ったのが人材紹介会社でした。
「2番目の会社が契約社員だったので、正社員の仕事を探そうと求職活動を始めました。でも、当時、自分の興味がどこにあるのかわかっていなくて、いろいろな会社を受けました」。
人材関係の会社の面接を受けた際、何となく興味があるような……と感じた曲さんが人材紹介会社への就職を決めたのは、友人の言葉だったそうです。
「内定をいただいた後に迷いもありまして、人材会社で働いていた友達に話を聞いて。その友達の『この仕事は人の人生に影響を与えるような大事な仕事です』という言葉にすごい感銘を受けて、決めました」。
「相手のためになる」ために
入社して9ヵ月が経った頃、会社の事情もあり、曲さんは人材派遣会社へ。
「人材紹介の仕事はすごくうまくいっていました。求職者にも紹介先の企業にも評価いただいている、この仕事は自分の天職だって思って、転職先は派遣会社に決め、営業の仕事をして……。人の人生を変えてしまうような仕事だということは実感しつつ、ただ会社としては営業の数値が必要で」。
「人のため」と「ビジネス」のバランスをどうやって取っていいのか、自分の面談が人に悪い影響を与えていないか、疑問を持ち始めた曲さん。
「自分が大事にしているのは、相手に決めていただく、相手のためになるということ。でも、文系の方の面談のとき、『文系では先がない』みたいなことを言っている自分がいて、その自分に、なんとなく違和感があって。本当にそうなのかな?って。IT技術者に特化した派遣営業をしていて、IT系の情報を扱っているから、理系のほうが先が見えるだけかもしれない。
半導体関係の仕事で大規模なリストラが発生したときも、相談に来られた方に『辞めるのはお勧めしません』みたいなことを言っていて。次の仕事を探すのが難しかったり、お給料や年収が減ったりするのを見ていたからかもしれない」。
自分が見聞きしたこと、見聞きしたことで固まった価値観で話をしているのでは?と考えるようになった曲さんは、理論的に勉強すると決めてキャリアカウンセラーの講座へ。そして、面談で感じていた違和感の正体に気づきます。
「今、考えると、やっぱり気持ちを聴いていなかった。迷っているっていう相談者の気持ちを」。
EAPの学びで変わった毎日
学びを進めていくと、曲さんには新たな疑問が生まれました。
「うつ病の方にはカウンセリングはできないという勉強をしたんですけれど、自分にはうつか判別できない。仕事の面談で、今日はパッとしないな、みたいな感じがして話を聴くと、鬱々とした日があったとか、朝、仕事行く前に必ずお腹を下してしまうとか。精神面かな、と思うけれども、わからない」。
もっと勉強すれば対応が違うのかと考えた曲さんは、キャリアカウンセラーの資格試験が終わるのも待ちきれず、EAPの勉強を開始。
「多分、EAPを学ぼうと思った決断は、人生最大正しい決断じゃないかなと思います」。
当時、仕事もプライベートも上手くいっていないと感じていた曲さんは、EAPの学びを進めていくうちに、その状況は自分が作ったのではないかと考えるようになり、そして実践してみます。
「EAPで学んだ方法にコミュニケーションを変えまして、今、すごい上手くいってる。プライベートでは、不満があったら言う、望んでいることを気づいてもらうのを期待するのではなくて自分で言う、一回拒否されたとしても傷つかないでちゃんと言うようにしてみたら、不満は解消されたし、楽しいことや楽しい思い出も作れるようになって。4歳の子どもがいるんですけれど、子どもへの対応も、いつも客観視しながら、自分はどうしたらいいのかを考えられるようになりました」。
自分が変わることで得た充足感に満ちた毎日。仕事の幅も広がり、同業他社からメンタルに関する講演やセミナーの依頼も来るようになりました。
「同業他社もメンタルに問題がある方の対応に困っている、でも興味を持って勉強している方は少ないと感じています。勉強していないとEAPの知識を伝えるだけでは理解もしてもらえないと思うので、自分が現場で見てきた実際の状況と、やってきた対応をお伝えするようにしています」。
2019年に人材派遣会社を辞め、現在、講演・セミナーのほかにキャリアコンサルタント、対中国ビジネスのサポート、学習塾運営と、幅広く活躍している曲さん。今の思いと将来の夢を語ってくれました。
七五三
子どもの未来のために
「キャリアカウンセラーとEAPを学んだ2年は、自分の人生にとって大事な2年間だったと思います。EAPを勉強して人の善、善良という意味の善のところが根底にあるように感じて。苦手な人に対しても、どうしてこんな態度、行動をとるのかにフォーカスして接することができるようになって、誰でもかわいいなっていう見方になって。世界が、自分が生きる世界が、すごくきれいっていうか、美しくなったなって感じています。幸せってそういうところかなって思うんです」。
そう言ってやわらかく微笑む曲さんは、子育ての経験を活かしつつ自分の勉強も兼ね、去年の3月、学習塾を始めました。曲さんが営む塾の指導方針にも、『EAPを学んだからこその考え』が活きていると言います。
「自信を持ってもらう、自分の強みを認識してもらうことを大事にしています。3、4歳から小学生を対象にしているんですけれど、 苦手という思い込みや先入観が勉強の邪魔をしていることがあると思うので、精神面からきている苦手にフォーカスして勉強面のサポートしています」。
これからの3~5年くらいは、キャリアカウンセラーとしての自分の知識と経験を活かして、子どもの成長に合わせながら、キャリアを考えることを教えていきたいと考えています。そしてその先は……。
「自分の子どもが自立して、自由に使える時間が多くなったら、子どもの教育でやりたいと思っていることがあるんです。学習塾なのか、形はわからないですけれども、[言葉や数式を勉強したら何に役立つのか]にフォーカスして、子どもの教育をサポートしていきたいなって」。
EAPの学びを活かし、生きる世界を美しくした曲さん。その澄んだ眼差しは、EAPの学びを通して得た数々の気づきで織り上げる未来を見つめています。
1歳の記念に