江頭 道雄
Michio EGASHIRA

リカレントメンタルヘルススクールのなんと0期生!? EAP講座の初めての受講生から、EMCAで長きに渡り学びを積み上げてきた江頭さんは、エンジニア・スペシャリスト。EMCAのDX化にも、有識者として大きな力を貸してくれました。自分のこころと真っ直ぐに向き合う、とても誠実な人柄が印象的です。

〈Profile〉eMC2013年取得、埼玉県在住。家電IT系システムエンジニア・スペシャリスト。妻・息子2人の核家族。趣味は映画鑑賞、ドライブ、知的探求、苦手なこと:アドリブ

激務からメンタル不調に

「もともと大手の電機メーカーに勤めていました。自動車や携帯電話の開発に関わる、当時でいえば最先端事業でとにかく過密スケジュール。自動車は人命を預かるので繊細な設計が求められ、携帯電話は常に新たな機能を追加していく。数百人がバトンリレーのようにして短期間で開発が進んでいく。誰かが足を引っ張ると全体の予定がずれ込んでしまうので、いつも緊迫した状態で仕事をしていましたね。『自分のせいでスケジュールを狂わせることはあってはならない』と言い聞かせて仕事をしていたので、常に心の中で糸が張り詰めているような感じでした。
 メールも一日に300〜400通くらい届く。見落とすと問題になるようなこともあるので緊張感があります。それでも一日に何件か問題が起こり、火消しに追われて…というのを繰り返していたので、気が休まる日がなかった。そんな生活がずっと続いていました。
そんな日々を繰り返すなかで第2子が生まれ、それと同時期に主任になりました。それが家を購入した年でもあったので、ほんとにストレス強度『高』の状態。そのあたりから体調がおかしくなっていきました。
 いろんなことが起きていましたよ。指先が痺れたり、記憶力が低下したり、早朝覚醒をしたり…。あと、微熱もずっと続いていました。いつ測っても37度くらいあるような感じ。当時、心療内科は敷居が高くて行かなかったんですけど、おそらく抑うつ状態になっていたと思います。周りの同僚に話したりもしたんですけど『ああ、俺も早朝覚醒よくあるよ』みたいな環境でした」。

カウンセリングでもらった潤い

 不調をきたしながらも働いていた江頭さんですが、カウンセリングを受けてみることになります。
「あるときほんとに辛くて、社内カウンセラーの方に相談をさせてもらったんです。カウンセリング1日目のことは、いまだによく覚えています。『自分のことを知ってほしい、この気持ちをわかって欲しい』という感情が内側から溢れてきて、涙が出そうでした。
それから毎月カウンセリングを受けるようになったんです。のどが渇いたときに水を欲するように、カウンセリングが楽しみでしょうがなかった。そういうことがあって、カウンセラーっていい仕事だなって思えるようになっていきました。
 カウンセリングを受けた2年間はすごくいい経験をしたと思います。2人のカウンセラーの方にお世話になったんですが、一人はベテランのご年配の方。こころのひだに入っていくような感じでした。後任のもう一人は大学卒業したてのような若い女性。少しクライエントとして引っ掛かるというか、物足りなさを感じるというか…。『自分だったらこういうふうに質問するのにな』と思ったりなんかして(笑)。それで自分がそっちの席に座りたいなと考えるようになりました。とても失礼な話なんですけどね(笑)」。


Recurrentとのお付き合いも10年

リカレントとの出会いと学び

「その当時、これ以上エンジニアをして進めていくには限界を感じていたし、勤めていた会社の事業も撤退に向かっていたので、ちょっとこころの勉強をしようと思って早期退職をしました。それで検索をしたら、リカレントメンタルヘルススクール開校の記事が載っていて受けてみることにしたんです。第1期生?というかほとんど0期生ですね。まだパイロット版みたいな状況でした」。
 最初の生徒としてとてもプレッシャーを感じたといいます。
「何も実績がないわけじゃないですか。スクールを修了しても何になれるのかとかもわからないし、始めは資格とかもなくて……。EAPコンサルタントや産業カウンセラーの資格取得、メンタルヘルスマネジメント検定を受けたりなど、並行していろいろやりました。実績を積んでいかないと自分たちの存在を否定することになってしまいますし、後輩たちに示しもつかないと思っていたので、プレッシャーは大きかったですね。必死になって勉強しました。
 それに、前に進むための力をつけたかった。次に何になるとしても、ここでしっかりと身につけないと前に進めないという気持ちがあったので、それがモチベーションになりました」。
 リカレントでの学びは、それからずっと日常で存分に活かされています。
「こういうことを学校で早く教えてもらいたかったと思いましたね。家族や親族、周りの人との関わり方がだいぶ変わりました。昔は相談されたらアドバイスをするような人間だったんですが、今はまず共感から入ります。自分と相手との関係を間主観性で捉えて『あ、今日は自分軸がズレてるな、ニュートラルじゃないな、軌道修正しなきゃ』とか考えたり。会社では相手を傷つけない、自分も傷つけないアサーティブな関係性を築くようにしています」。
 自分が変わることで、次第に周りに柔らかい人たちが増えていきます。
「昔の自分は『これ以上自分に近づくな!』っていう負のオーラを纏っていたと思うんです(笑)。でも今はこんな感じで自分の周りの人間関係が柔らかくなりました。相手に無理なことを求めなくなりましたし、自分でも結構いい感じなんじゃないかと思います」。

エンジニアとカウンセラーは
似ている

 リカレントで学んだ後、一度は退いたエンジニアの道に再び戻った江頭さん。エンジニアとカウンセラーはまったく違う職業のように見えますが、とても似ているといいます。
「カウンセラーは相手のお話を聞きながら、『ここかな?ここが問題なのかな?』とやさしく聴診器を当てるように見立てを行いますよね。システムの開発をするときも同じです。ものを言わないハードやソフトと向き合いながら、いろんな角度から仮説と検証を繰り返して『やっぱりここが悪かったんだ、ここに原因があったんだ!』って。そんな探偵みたいなところが、似てるし、楽しいなと思います。
 今はおかげさまで厳しい局面でも前に進む力を身につけて、エンジニアのスペシャリストとして周りから必要とされているので、当分はエンジニアとしてやっていこうと思っています。でも、今の日本の世の中って、所得格差や少子高齢化などのさまざまな問題があって、こころの余裕がなくなってきているように感じますよね。これからの人たちにとって、どんどん生きづらくなってくるのかなと思うので、そういった人たちに前向きに生きていく力を引き出す手助けができればいいなと考えています。どんなことができるのかは これからの検討課題ですが、何かしら関わっていきたいなというふうには思っています」。

自分の内面を見つめ続けること

「何をしてもうまくいかないときは自分を見つめ直すといいと思います。自分があまりよろしくない気持ちでいると、周りにそれが投影されてしまって、ギクシャクすることがあります。そんなときに『確かに自分が最近いい気持ちでいなかったな』と気づくことがよくあるんですよね。社会は自分の鏡なので、自分の内面を見つめ続けていくってことが大事なんじゃないかなと思います。そうすればきっと幸せな道が拓けていくのかなと思いますね」。
 どんなときも内観し俯瞰し続けること。江頭さんの語る言葉は、たくさんのことを考え、乗り越え、誠実に自身と向き合ってきた時間が織り上げる、優しく柔らかなものでした。