亀山 絹美
Kinumi KAMEYAMA
社員一人ひとりとまっすぐ向き合う亀山さん。真摯な挑戦の積み重ねから築き上げたキャリアと、たどり着いたその先に見えたものとは?
〈Profile〉eMC2018年取得。岐阜県関市在住。スポーツ・福祉サービス企業の取締役総務部長として勤務。仕事、家事、介護の三立で日々忙しいながらも、己書道場師範として芸術活動も楽しんでいます。
パート社員から総務部長に
ドルフィンジャンプ!
スイミングスクールやスポーツジムなどを運営する社員数170名のドルフィングループで、取締役総務部長として経理から総務・人事まで、幅広く管理されている亀山さん。入社して14年目になりますが、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなく、数々の困難に直面してきました。
「高校を卒業して、市役所に勤め始めたのがキャリアのスタートでした。結婚して一度は仕事を辞めたんですが、ワープロや簿記の資格を取得して、会計事務所を中心にパート社員として、いろいろな仕事をしてきました。今の会社は、たまたま近所のスイミングスクールで経理の募集が出ていたんで応募しました。パート社員で入社したんですが、すぐに正社員登用になって、今は総務部長をしています。
入社して初めて、これから経理部門を立ち上げるんだと知りました。それも私一人で(笑)。ちょうど会社が大きくなっていく転換期だったんですね。もともとは家族経営で、個人事業が少し大きくなったような会社だったんです。そこから直営のスイミングスクールやスポーツジムが増えていき、新しい事業も軌道に乗り始めて、30くらいの施設を運営・管理するようになっていました。でも法人企業としての管理機能は追いついていなかった。
経理の募集についても、これまで会計事務所に丸投げしていたところから[自社でやらなくては]となったときの求人だったんですね。だから、それはもう大変。でも、逆にそれまでの会計事務所勤務などでは経験したことのなかった仕事もできて、新鮮さを感じているところもありました。
また、総務や人事も管理する人がいなくて、結局引き継ぐことになりました。社会保険手続きとか人事考課とか、そういったことも全然詳しくなかったんですけど、必要に駆られて、そこから懸命に学んでいきました。頼られると嫌とは言えずやってしまうタイプで。がむしゃらにやりましたね」。
会社には自分の居場所がある
どうしてそこまで頑張ることができたんでしょうか。
「実は、その頃の私は一番自信をなくしていた時期だったんです。……というのも、度重なる流産を経験して『自分は女じゃない』と思い込んでしまっていたり、お子さま連れの家族を見ると、悲しい気持ちや自分を責める気持ちになってしまっていたりしました。
また、子どもが小学校からずっと不登校になってしまったりして……。だから仕事に夢中になることで、家のことから逃げていた部分もあったかもしれない。仕事は本当に好きだし、会社には自分の居場所がある。家では子どものことをどうしても考えてしまうので、仕事はそんな家から離れられる場所だったんですよね。
仕事では『できない』と言うことが悔しいと思ってしまうタイプなので、社労士さんにしつこいくらい聞いたり、自分でも懸命に勉強したりしながら、めちゃめちゃ仕事に熱中していました。そんな姿勢を信頼してもらえたのか、パート社員からすぐ正社員に登用してもらい、幅広い業務を任されてきたんです。その仕事のなかで、体調を崩したり、メンタルの不調を訴えたりして仕事に就くことが難しくなってしまっている社員の『話を聴いてあげて』ということも出てきました」。
自分を変えたいという思い
さまざまな思いを抱えた社員と向き合うことがEAPを学ぶきっかけになりました。
「本当は私、人と話すことが得意じゃなかったんです。とにかく人付き合いが苦手で、パート社員で働いてきたときも、なるべく女性が少ないところ、人数が少ないところを探していたくらい。
それが入社して6年くらい経った頃だったんですが、研修を担当して関わっていた新入社員が、入社してまだ間もない5月連休明けに「出勤すると気持ちが悪くなる」という状態になってしまって。それまでも自分なりに、不調を訴えるスタッフさんの話を聴くことはできていたのですが、やるからには専門的知識も学んで、ちゃんと聴いて、ちゃんと対応したい、と思うようになりました。知らない人と話すことが嫌で避けてきた……そんな自分を変えたいという思いもあって、思い切ってEAPのコースに申し込んだんです。
いざ申し込んだものの、やっぱり通うのはすごく嫌でした(笑)。知らない人ばかりっていうこともあるし、なぜか私『隣の人とペアになってください』みたいな場面で、いつも一人でぽつんとなってしまうんですよね。それがすごく恥ずかしくて。いつも心のなかで「どうしよう…どうしよう…」と思っていました。でも、少しずつだけど、同じメンバーと関わっていくことに慣れていったんですよね。
それでも、毎回ちゃんと通えたことも大きかった。自分に自信がなくて、子どものことで自分はダメなんだと落ち込んでいくなか、それでも頑張ってコースには最後まで通えた。
そうして一つのことがクリアできたことで、少しずつ変わっていけたんだと思います。一人ぽつんといる自分が恥ずかしかったのが、『一人でもいいじゃん』と思えるようになったし、周りの人に対しても[人それぞれ]と思えるようになってきました。すごい! と思った人も大変な状況を経験していたりする。そういうことを幾度か聴いていくうちに、『どんな人にも悩みがあって、一緒の部分もあるんだ』と、わかってきたのかもしれません」。
社員ひとり一人に送る思いを込めた手描きメッセージ
傾聴と共感に戻ること
EAPを学んでどんな変化があったのでしょうか。
「ずっと探求しているのは共感することですね。いまだによくわかっていないんですけれどね。よくわかっていないし、全然できていないと思うから、コースでも繰り返し扱ってきた傾聴と共感は、実際の現場でのコミュニケーションの最中にも思い出して、『まず聴こう』と思えるんです。スタッフさんの話を聴きながら、次に何を言おうかと考えている、そういう自分に気づいて修正することができる。『傾聴と共感に戻ろう』と自分を正せるようになったと思います。
最近では、経営層との対話のなかで、相手がまだ話したい状態なのに、こちらが話し始めて被ってしまうことがあって。そういうときにちょっと一呼吸置くことや、相手の主張に反論があるときも、いったんは最後まで聴いて、それから『社長はそう思われるんですね』、と受けとめてから、『私はこう思います』って伝えることを意識しています。
カウンセリングを勉強していなかったら、気づくことすらできなかったと思います。日々できてない自分に気づくことができる。そこは成長した点でしょうか。
それから、疲れているときや精神的に追い込まれたときに出てくるサインに気づいて、調整するようにもなりました。自分自身も見つめることができるようになってきたなぁ、とも思います」。
優しいお母さんという表現がぴったりの亀山さん
170人の社員の
「優しいお母さん」
そんな亀山さんが目指しているのは、どんなイメージなのでしょう。
「ずっと会社のなかの[お母さん]でありたいなと思っていました。[バリバリ仕事ができる部長さん」みたいなのじゃなくって、[優しいお母さん]。私の思う優しさは、その人の話をしっかりと聴いてあげること。会社の中では『それは違う』『あなた悪い』って、起きている状況だけで物事を判断して、意見を言ってしまうことが起こりやすいけれど、私は、まずはその人の気持ちをわかりたいし、その人が元気で働けるようになるなら何でもしてあげたい。そう、社員一人ひとりがいつも元気でいることを願って行動する姿勢そのものが、優しさなんだと思っています。
そんな思いから社内で取り組んでいることに、パート・アルバイトも含む社員全員への手書きメッセージがあります。社員の誕生日や賞与支給の際に、学んだ己書などを活かして、絵と言葉を考え直筆で書いて渡しているんです。受け取った社員の皆さんに、それを読んでちょっとでも元気になってもらえたらと思って、もう8年くらい続けています。それをデスクに貼ってくれていたり、『嬉しかったです』と言ってもらえたりすることがあると、とっても嬉しいですね。
今は、[己書]の師範として会社だけじゃなく、いろんな場所で老若男女さまざまな皆さんに伝えることもさせていただいています。人見知りで『教えるなんて絶対無理』って思っていたときの私には、到底考えられない今の姿があります。
『誰かが喜んでくれて笑顔になってくれるなら、どんなことでも一所懸命にやる』っていうのが、変わらない私らしさなのかもしれません。自分のそんなところが好きですね」。
ひたむきに一心に。優しいお母さんとして、亀山さんはこれからも大きく社員を包み込み、素敵に輝かせていくことでしょう。