吉田 彩子
Ayako YOSHIDA

アルパカ素材のアパレルブランド『MAITE』を経営する吉田さんは、海外での異文化体験を通じて、ありのままでいい自分を手に入れました。心理学やカウンセリングの学びをアルパカに乗せて、今、そしてこれから届けたいものとは?

〈profile〉eMC2020年取得、東京都在住。株式会社蒔いて 代表取締役(「肌から感じるセルフケア」をコンセプトとするアパレル企画・通販の会社)。スペイン人の夫と1歳半になる娘と生活。趣味は読書、映画鑑賞、旅。

働く女性のストレスと夫の休職

「10年ぐらい前から、アルパカ素材を中心としたアパレルを展開する『MAITE』を経営しています。それ以前は、海外とものづくりをする会社に勤めていました。国際協力活動の関係から、偶然ペルーやアルパカ素材について知ることになり、アルパカ素材は肌ざわりが良くて、とっても気持ちの良い癒される素材なので、それで何かできたら、という思いから、ブランド『MAITE』を立ち上げました。Webストアで腹巻や靴下など、冷え性のお客様向けのグッズをメインに取り扱っています」。
アパレルの仕事をしている吉田さんが心理学を学ぼうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
「理由は2つあります。一つは『MAITE』のお客様は働く女性の方が多く、冷え性ですごく困っているという話から、ストレスを抱えているということに気づいたことです。働く女性はいろいろなことを我慢しながら毎日仕事をしているな、っていうのを感じました。私は会社で働いた経験も5年ぐらいで、今までそこまで職場環境でのストレスを経験せずにこられたっていうのがあって。なんでこんなにストレスを抱えたまま走り続けているんだろう? その背景を知りたいと思いました。
 もう一つは、夫が休職をしたことです。適応障害という診断が出たんですけど、夫はスペイン出身で、いわゆる『人生に不可能はない!』っていう感じの、結構ポジティブでチャレンジ精神のある人で。私なりにアドバイスをすることもありましたが、それが結局効くわけでもなく。あんなにチャレンジの塊みたいな人だったのに、こうなってしまうんだ……ということが不思議だったので、一体こころの中にどういうことが起きたのだろうと心理を勉強してみたいと思いました」。

ダークな時期を過ごして

「私、小学生の頃、動けないぐらい生理痛がひどくて、毎月休むような感じだったんです。私の中では10歳ぐらいから中学生までは結構ダークな時期で。なんで女の子に生まれたんだろうとか、なんでこんなに苦しまないといけないんだろう、とか考えてましたね。外見コンプレックスもあって。背の低さとか体型とか、ニキビもあったので。人に見られるのが嫌で、内向的でしたね。
 けれど、そこから中学後半、高校に入ったときに、外に開かれる機会があったんです。父親は出張が多い人だったんですけど、『子どもたちに海外を見せたい』と言って、家族で海外旅行に出かけたんです。それで、外国の人やカルチャーに出会って衝撃を受けた。めちゃめちゃオープンな感じで、おおらかさのなかに人々の優しさも感じました。入学した高校は公立の女子校だったんですけど、すごく自由だったんですね。先生たちも個性があって。周りの同級生もいろんな子がいて、楽しそうで、みんながありのままの自分でいるのを見て、『ああ、そのまんまの私でいいんだ』って思えて。今まで押さえつけられていた緊張とか、なんだったんだろうって。
 そこから自分に対して、『なんで自分は……』っていうネガティブな思いが取り払われて、どんどんやりたいことや好きなことを磨き始めた。ポジティブに過ごしているうちに、自然に生理痛も軽くなったんです。


ペルーの人は「なるようになる」とおおらかなのがいいな

多様性のなかで
気づきや好奇心に素直になれた

 大学に入ってから、日本にインターンシップに来る大学生、大学院生のお世話をするサークルに入りました。大学生以降、海外にも行く機会も増えたんですが、ロンドンに住んでいたときは生理痛が皆無だったんです。すっごい健康で。なんだこれは?と思ってました。でも、海外から帰ってくると、また生理痛が戻ってきて。また、なんだこれは?と。日本にいるときは、すごく人の目を気にして、知らず知らずに自分に圧力をかけていたんですよね、きっと。外国に居ると、他の人の目はまるで気にならなくなる。
 あと、誰も同じ空気は読まない(読めない)ので、考えていることを言わないと何も進まず、自分が困るので、外国では自分が思ったこと、感じたことをそのまま口にすることができました。それも体調の変化に大きく影響していたのかな、って思います。
 今、思い返してみると、子どもの頃は自分への抑圧から自律神経を崩したり、貧血やホルモンバランスの乱れもあって不調だったんだな、って思います。そこから抜け出せた感覚になったのは、日本とは違う海外の文化や、いろんな人がいる多様性のなかに身を置いたことで、気づきや好奇心に素直になれたからなんだな、って思います」。

ペルーの首都リマにあるファクトリーでお仕事中

学びがもたらしたもの

 心理学やメンタルヘルスの学びを経て、変化を感じたことは何かあるでしょうか。
「学びを通じてストレスの構造などを知れたことで、自分を上手くコントロールできるようになりました。一昨年、初めての出産を経験しましたが、子育ても仕事も思ったよりも乗り切れている、凹まずになんとか乗りこなしているという感じです。
 あと、今は夫が2回目の休職中ですが、夫の休職に対しても見方が変わったと思います。将来に対する心配がまったくゼロではないんですけど、今はどういう状態だから、私はどうあるほうがいいとか、どういったクリニックに行くのが夫にとっていいのか、そういった面で学びがすごく活きていますね。
 以前、『ニットカフェ』というイベントを仕事の一環でやっていたんです。ニットカフェといいつつも、ニットを編む・編まない、話す・話さないは本人の自由です。そうしたら、休職中の人や、引きこもりがちな人が外に出るきっかけ、やって来る場になっていました。私はフラットな場があることが好きだし、多様性がある場のほうが面白いと思うので、それもいいなと。このときも、ちゃんと知識があったことで、その場をどのようにしたらいいかがわかって、無法地帯にならずに運営できたかなって思いますね。
 元気がなくなって落ち込んだとき、私の場合、解消法は場所を変えることがあります。『環境が変わればすべてが変わるんだ』と、よく周りにも言っていたんですが、EAPの学びで、外に出る気力すらない人、体を動かせない人もいるってことを知りました。環境を変えにくい人もいるという前提で、相手の話を共感的に傾聴できるようになったな、って。学ぶ前の私は、『なんで行動しないの?』って結構、口癖のように言ってたんですけど。相手のペースや事情、価値観があるっていうことを踏まえて、相手を理解しようとすること、言動は慎重に考えてするようになりました」。


「ニットカフェ」はこんな様子

寛容な社会のために

「私、日本がもっと寛容な社会になることを願っていて。そのために自分のできることをやっていきたいと思っています。寛容になるためには、まずは自分を大事にすれば、ごきげんでいられて、それが周りにも循環します。日本では、どうしても自分を後回しにすることが、カルチャーとしてあるな、って感じています。
 自分をまず大事にする、ケアするということが日本でもっと普通になって、それが楽しかったり心地よかったり、もっとポジティブなものとして取り入れられるようになるといい。
 それを目指していろいろやっていきたいなって思うんです。『MAITE』でのサービスや商品を通して、こうしたメッセージを届けていきたいですね。メンタルヘルスケアっていうのがもっと広がるといいなって願っています」。
 自分自身を大切にできる社会になるように……。吉田さんの想いはアルパカのようにふんわりと温かに、人々や社会を包み、癒していくのでしょう。


ふんわりやさしいシャツはMAITEのアイテムです